前回、私の新刊『ジャズ喫茶いーぐるの現代ジャズ入門』(シンコーミュージック刊)刊行記念イヴェントのご報告をしましたが、今回は新著の内容をご紹介いたします。

この本を書いた動機は、カマシ・ワシントンとかロバート・グラスパーといった「現代ジャズミュージシャン」は、若年層には好意的に迎えられている半面、ベテラン・ジャズ・ファンの受けが今一つである状況をなんとかしたいということにありました。

極めて多様な「現代ジャズ」を、「ポピュラリティの復権」「融合・混合音楽としてのジャズ」「『世界音楽』としてのジャズ」という視点で分析し、表面的にはずいぶん伝統的ジャズと違っているようでも、ジャズの本質である「個性表現」という要素に着目すれば、ルイ・アームストロングからパーカー、マイルス、コルトレーンといった「レジェンドたち」と同じことをカマシ、グラスパーらはやっているんだということを、かなりていねいにご説明いたしました。

 また、この「新譜紹介」から選りすぐった200枚の現代ジャズ推薦アルバムを解説付きでご紹介しています。すでに「現代ジャズ」に親しんでいる方々も、これから聴いてみようというみなさんも、このアルバム紹介をご参考にしていただければと願っています。

 前置きはこれくらいにして今回冒頭に収録した挟間美帆のアルバム『Beyond Orbit』 (Universal)についてご紹介しましょう。この新作はフレンチホルンやストリングスを含む13人編成のジャズ室内楽団m_unitによる5年ぶりの第4弾です。

 私はつい最近この新作発表記念ライヴを観ましたが、ストリングスによるエキゾチックなメロディ・ラインとジャジーなソロが有機的に結びついた、挟間ならではの巧みな楽曲構成が成熟の域に達していることを実感させられました。また、昔はスモール・コンボ・ファンとビッグ・バンド・ファンの遊離現象が見られましたが、いわゆる「ラージ・アンサンブル」に変容した挟間らのバンド・サウンドは、多くのジャズ・ファンが親しめるものに変化していることも実感しました。アルバムにはその好ましさが完璧な形で結実しています。

 ハイテク・ベーシスト、ジョン・パティトゥイッチが今絶好調のサックス奏者、クリス・ポッターを擁したライヴ盤『John Patitucci Trio Live in Italy』(Agate)は、名ドラマー、ブライアン・ブレイドのみを従えたシンプルなトリオ編成のため、ライヴならではのスリリングなグルーヴ感が満喫できる快演です。

 聴きどころはポッターの闊達なサックス・ソロもさることながら、チャーリー・パーカーの名演で知られた《Visa》におけるパティトゥイッチとブレイドによる丁々発止の交換場面ですね。ジャズ名演を支えるのはリズム・セクションであることが実感されるのです。

 近年ジャズ・シーンにけるラテン・ミュージシャンの活躍が注目されますが、ボストンで活動するサックス奏者、Jonathan Suazoの最新作『Ricano』(Ropeadope)は、彼の出自アフロ・カリビアンであるプエルトリコの音楽要素と、ジャズがごく自然に融合した楽しいアルバムです。今やラテン・リズムによるジャズがごく当たり前のものとなっているのですね。

 特異なスタンスでビッグ・バンド・サウンドを新たな次元へと導いたカナダ出身の作曲家、ダーシー・ジェームス・アーギューの『Dynamic Maximum Tension』(Nonesuch)は、彼の持ち味である過去と未来を結び付けるユニークなサウンド・テイストはそのままに、よりジャジーな感覚を増した傑作です。近年ビッグ・バンド・サウンドの革新が様々な手法で試みられていますが、アーギューのこのアルバムは伝統的ジャズ・ファンにも快く迎えられることでしょう。

 ドラマー / コンポーザーであるジョナサン・ブレイクが今注目のアルト奏者イマニュエル・ウィルキンス、ヴァイブ奏者ジョエル・ロス、ピアノのダヴィ・ヴィレージェスそしてベーシスト、デズロン・ダグラスらを従えたブルーノートからの第2作『Passage』は、期待通りの溌溂とした演奏が心地よいですね。オーソドックスでありながら現代の空気を感じさせるのです。

 最後に収録したアルバム『Saje』(coreport)は、サラ・ガザレグが結成した女性4人組ヴォーカル・グループのデビュー作で、ジェイコブ・コリアらがゲスト参加しています。メンバーはシンガー&アレンジャーのアマンダ・テイラー、ニューオリンズ出身のジョナイ・ケンドリック、大学教授でもあるエリン・ベントラージ。聴きどころは緻密に構成されたアンアンブル・サウンドながら、聴き手にはきわめて心地よい感覚を与えてくれるセンスの良さです。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

USEN音楽配信サービス 「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」

東京・四谷にある老舗ジャズ喫茶いーぐるのスピーカーから流れる音をそのままに、店主でありジャズ評論家としても著名な後藤雅洋自身が選ぶ硬派なジャズをお届けしているUSENの音楽配信サービス「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」。毎夜22:00~24:00のコーナー「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」は、ビギナーからマニアまでが楽しめるテーマ設定でジャズの魅力をお届けしている。

USEN音楽配信サービス ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)

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