今回冒頭に収録したダン・ローゼンブームのアルバム『Absurd In the Anthoropocene(Gearbox Record)はかなり刺激的です。彼はロサンゼルスのコンテンポラリー・ミュージックシーンで活動するトランぺッターで、父親は実験音楽の分野で知られたデヴィッド・ローゼンブーム。重量級バックビートに乗った分厚いホーン・アンサンブルから飛び出す彼のトランペットが凄まじい。ロックの切れ味、ビッグバンド・サウンドの迫力、そしてソロの魅力が見事に一体化しているのですね。あるようでなかった現代ジャズの新しいスタイルです。

このところUKのヌバイア・ガルシアなど女性サックス奏者の活躍が目立ちますが、今回ご紹介するのは本家アメリカの、それも大物ジョン・コルトレーンの音楽を現代に蘇らせた女性アルト奏者、レイクシア・ベンジャミンの新作『パースエンス:ザ・コルトレーンズ』(Ropeadope)です。

メンバーが凄い。コルトレーンとの共演で知られたベーシスト、レジー・ワークマンが共同プロデュースを担当、ロン・カーター、ゲイリー・バーツといったベテランたちだけでなくハープ奏者ブランディ・ヤンガーなど、コルトレーン、そしてアリス・コルトレーンの音楽をリスペクトする新人が参加する豪華さです。

面白いのは、デイヴ・リーヴマンなどかつての重厚感を前面に押し出したコルトレーン・トリビュート作品とはかなり趣が異なっており、言ってみればまさに21世紀のコルトレーン解釈なのですね。それは、「コルトレーン直伝」というより、後にコルトレーンの音楽がスピリチュアル・ジャズという文脈で理解されるようになった流れを汲みつつ、現代ジャズならではの軽やかさ、クールネスを身に纏っているところです。ジャズはこうした「解釈の革新」を繰り返し、現代に息づいているのです。

次にご紹介するのは、2017年にロバート・グラスパーがクリスチャン・スコット、テイラー・マクファーリン、テラス・マーティン、デリック・ホッジ、ジャスティン・タイソンら現代の選りすぐりのメンバーで結成したグループ、R+R=NOWによる2018年のライヴを収録した『RRNOW LIVE(Blue Note)です。

これはまさに現代ジャズが醸し出す独特の気分を象徴するアルバムと言えるでしょう。それをひとことで言い表せば、ジャズのカッコ良さ、都会性、クールネスの21世紀的表現ということだと思います。グラスパーのキーボード奏者としての実力も、ライヴという場面で遺憾なく発揮されています。

ギター、ドラムスを従えたデルヴォン・ラマー・オルガン・トリオによる新作『I Told You So(P-Vine)は、オルガン・ジャズの新境地を拓いた傑作です。デヴィッド・マグロウの切れ味抜群のドラミングに乗ってファンキーなラマーのオルガンが響き、それを煽りまくるシンプルなジミー・ジェイムスのギターがアーシーな気分を盛り上げる。全体にダークでザラっとした手触りのサウンドが実に心地よいのですね。いつまでも聴いていたいと思わせる私の中毒盤です。

ニューヨークのジャズシーンはコロナで大きな影響を受けていますが、先ほど触れた女性ハーピスト、ブランディ・ヤンガーが注目のベース奏者デズロン・ダグラスとライヴ配信した音源を基に作られたアルバムが『Force Majeure(Rings)です。

気の置けない仲間同士の親密さが、リヴィングルームでのデュオというシチュエーションによって生かされており、観客がいないことのマイナスが払拭されているのがこのアルバムの聴き所でしょう。ライヴ配信の可能性を示す作品では無いでしょうか。

最後はポーランドの新進ピアニスト、ドミニク・ワニアの『Lonely Shadows(ECM)です。ECMによるソロ・ピアノということで一定のイメージが喚起されることと思いますが、その予想通りであると同時に、「それ以上」の内容でした。明らかにクラシックの素養を感じさせる繊細なタッチから繰り出される即興演奏は、高度に洗練されたジャズそのものなのです。あたかもドビュッシーの幻想的楽曲がジャズ化したかのような錯覚を起こさせる稀有の才能が聴き所ですね。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

USEN音楽配信サービス 「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」

東京・四谷にある老舗ジャズ喫茶いーぐるのスピーカーから流れる音をそのままに、店主でありジャズ評論家としても著名な後藤雅洋自身が選ぶ硬派なジャズをお届けしているUSENの音楽配信サービス「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」。毎夜22:00~24:00のコーナー「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」は、ビギナーからマニアまでが楽しめるテーマ設定でジャズの魅力をお届けしている。

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