今回最初にご紹介するのは、今年なんと80歳を迎えたという大ベテラン・ドラマー、ルイス・ヘイズのブルーノート、デビュー・アルバム『セレナーデ・フォー・ホレス』です。タイトルからもわかるように、彼が長年サイドマンを務めたブルーノート・レーベルの看板ピアニスト、ホレス・シルヴァーの楽曲を披露しています。楽器編成は、かつてルイスがホレスのバンドにいた時と同じトランペットとテナーの2管クインテットに、楽曲によってヴァイブラフォンが加わった総勢6名。

聴き所は、2曲目に収録したホレスの名曲「セニョール・ブルース」とホレスの人気を不動のものとした、3曲目に収録した「ソング・フォー・マイ・ファーザー」でしょう。とりわけ後者には今人気のグレゴリー・ポーターがゲストに加わるという豪華さです。ブルーノート・レーベルの意気込みが伝わって来ます。

私は2015年に彼が来日した際インタビューを行っていますが、実に元気で、いろいろとホレス・シルヴァーのバンドにいたころの話をしてくれました。印象に残っているのは、ホレスがまだ若かったヘイズにいろいろと親切にジャズ界のことを教えてくれたことや、かなり自由に演奏させてくれたので、たいへんやりやすかったといったエピソードでした。

2枚目は、アメリカのTVトーク番組「トゥナイト・ショー」の音楽監督を降板し、アルバム制作を再開したギタリスト、ケヴィン・ユーバンクスの『イースト・ウェスト・タイム・ライン』(Mack avenue)です。二つのグループで録音していますが、ニコラス・ペイトン、ディヴ・ホランドによるメインストリーム・ジャズが聴き所です。

次は、山中千尋が今年生誕100周年を迎えたセロニアス・モンクをテーマとした新作『モンクス・スタディズ』(Blue Note)です。このアルバムで山中は、ピアノの他、シンセサイザー・オルガンも披露し、積極的にモンクの世界を拡張しています。聴き所は、彼女の前向きな意欲が演奏のクオリティに直結しているところでしょう。モンクの音楽が持つ、ちょっとクセがありつつも懐が深く、ミュージシャンによる解釈の自由度の高さが山中の資質と巧くフィットしたのでしょうね。たいへん素晴らしく聴き応えのある作品で、彼女の代表作となるでしょう。

そしてこの企画が成功の理由の一つに、適切なサイドマンの選択があったと思います。何しろドラマーが、フライング・ロータスやサンダーキャットの新作に参加した元祖人力ドラム・マシーン、ディーントニ・パークス、そしてベーシストもヒップホップ・グループ、ザ・ルーツのレギュラー・ベーシスト、マーク・ケリーです。彼らのまさに21世紀的なリズムが、山中の先鋭な発想と実にうまくマッチしているのですね。

ダーシー・ジェームス・アーギューはカナダで生まれアメリカで活動する作曲家です。今回ご紹介した『Infernal Machine』(New Amsterdam)は彼が率いるラージ・アンサンブル「シークレット・ソサエティ」が2009年に発表したアルバムで、スティーム・パンクを標榜した作品です。お聴きになればお分かりかと思いますが、さまざまなエフェクトを多用したサウンドの斬新さが新時代のジャズ・バンドの在り方を示唆しています。

次はダニー・マキャスリンなどのバンドで活躍するベーシスト、スコット・コリーの新譜『セヴン』(Artist Share)です。聴き所はジョナサン・フィレンソンの軽やかなトランペット。そして最後は、つい先日来日したビル・フリゼールが、トーマス・モーガンと共演したデュオ・ライヴ・アルバム『スモール・タウン』(ECM)。フリゼールのギターが素晴らしいのは言うまでもありませんが、モーガンとの息の会い具合が何とも心地よい。ライヴの雰囲気も大変に温かいものとなっています。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

USEN音楽配信サービス 「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」

東京・四谷にある老舗ジャズ喫茶いーぐるのスピーカーから流れる音をそのままに、店主でありジャズ評論家としても著名な後藤雅洋自身が選ぶ硬派なジャズをお届けしているUSENの音楽配信サービス「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」。毎夜22:00~24:00のコーナー「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」は、ビギナーからマニアまでが楽しめるテーマ設定でジャズの魅力をお届けしている。

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