このところUKジャズが注目されています。このコーナーでもシャバカ・ハッチングスなどのイギリスのジャズ・ミュージシャンたちを採り上げて来ましたが、今回冒頭でご紹介する『There is a Olace』 (Beat Record)もまた、サウス・ロンドンのジャズ・シーンを代表するニュー・グループ「マイシャ」のデビュー作です。マイシャはドラマーのジェイク・ロング率いる6人組グループで、注目すべきは女性版カマシ・ワシントンと呼ばれたサックス奏者ヌビア・ガルシアの存在です。

彼らの音楽は、かつてスピリチュアル・ジャズと呼ばれた60~70年代のファラオ・サンダースらの影響も受けつつ、ロンドンという多文化が混交した都市で生まれた音楽らしい斬新な発想が魅力になっています。2曲目に収録したタイトル曲はかつてドン・チェリーが演奏したナンバーで、こうした埋もれた名曲を採り上げるアイデアはなかなかアメリカのジャズ・ミュージシャンからは出てこないように思います。

『More ThanOne Thing』(Ring)もまた話題のミュージシャンを大勢誕生させているイスラエル発のニュー・バンド、「タイム・グルーヴ」による新譜です。プロデューサーであるリジョイサーことユヴァル・ハヴキンがイスラエルの新人たちを終結した作品で、まさに現代ジャズの見本のようなクールで多彩なサウンドが心地よい。

次は、イタリアを代表するピアニスト、エンリコ・ピエラヌンツィがその才能を認めた新人、クラウディオ・フィリッピーニ率いるピアノ・トリオによる『Bifor The Wind』(Cam Jazz)です。オーソドックスなスタイルながら随所に見せるタッチの切れ味など、ピアノ・トリオ好きなら見逃せない実力の持ち主と言っていいでしょう。

そして昨年カート・ローゼンウィンケル率いる「カイピ・バンド」の一員として来日した、ブラジル・ミナスを代表するシンガー・ソング・ライター兼マルチ奏者、アントニオ・ロウレイロの6年ぶりの新作が『Livre』(NRT)です。サイドにはカート・ローゼンウィンケルや、以前このコーナーでご紹介したペドロ・マルチンスが参加しており、極上のミナス・サウンドが聴き所となっています。

今回の目玉はウェイン・ショーターのコミック付きCD3枚組大作『エマノン』(Blue Note)でしょう。一度実物を手に取ってご覧になることをお勧めしますが、ショーターが自ら推薦したコミック作家とのコラボ作品で、ショーターの思い描く世界がビジュアル化された魅力的なアルバムです。

もちろん音楽も壮大で、ストリングス・オーケストラを率いるショーターの作曲家としての才能が全面開花したスケールの大きな世界が繰り広げられています。バック・サウンドから浮かび上がるショーターのミステリアスなソロが聴き所で、その年齢を感じさせないイマジネーションの広がりには圧倒されるばかり。ちなみにタイトルの「エマノン」とは、ノー・ネームの綴りを逆さまにしたものです。

最後はキース・ジャレットのソロ・ピアノ・アルバム『ラ・フェニーチェ』(ECM)は、2006年にベネチアのラ・フェニーチェ劇場で収録したもので、キースの即興演奏家としてのパフォーマンスが素晴らしい。それだけに聴衆の反応も熱狂的で、はるか昔、70年代から世界各地で繰り広げられたキースのソロ・ピアノに対する人気の幅広さを21世紀に伝えた名演と言っていいでしょう。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

USEN音楽配信サービス 「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」

東京・四谷にある老舗ジャズ喫茶いーぐるのスピーカーから流れる音をそのままに、店主でありジャズ評論家としても著名な後藤雅洋自身が選ぶ硬派なジャズをお届けしているUSENの音楽配信サービス「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」。毎夜22:00~24:00のコーナー「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」は、ビギナーからマニアまでが楽しめるテーマ設定でジャズの魅力をお届けしている。

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