今話題のアルト奏者、ローガン・リチャードソンが、ジャズ、ブルース、そしてカントリーといったアメリカン・ミュージックの坩堝の地、生まれ故郷カンザス・シティの音楽的環境を、現代ジャズとして表現した新作が「ブルース・ピープル」(ユニバーサル)と言っていいでしょう。ツイン・ギターによる新グループのサウンドは、いわゆる「ブルース」のイメージを大きく変えるもので、斬新さと懐かしさが同居した不思議なテイストが魅力です。2016年の来日公演ではまだちょっと硬さ感じられたリチャードソンですが、今回の新譜は明らかに一皮剥けた印象です。

ニコラ・コンテというとお洒落なDJのイメージが強いのですが、新作「レット・ユア・ライト・シャイン・オン」(ユニバーサル)では、音楽の楽しさと演奏のコクが巧い具合にブレンドされた好演となりました。キーワードはアフリカン・テイストで、軽やかな女性ヴォーカルに絡む手練れメンバーのソロのジャズ度数は、思いの外濃いのですね。気軽に聴けるのですが、二コラが率いる多国籍バンドはかなりハイレベルと言っていいでしょう。

以前(第152回)でもご紹介した、ロンドンで活動するジャマイカ出身のアフリカ系テナー・サックス奏者、シャバカ・ハッチングス率いるグループ「サンズ・オブ・ケメット」の新作「ユア・クイーン・イズ・ア・レプタル」(インパルス)は、ユニークな楽器編成から繰り出されるエスニックなテイストが魅力です。シャバカのテナーを支えるチューバにツイン・ドラムスが絡む重厚なサウンドが、音楽に骨太な力強さを与えています。

今回私が個人的に興味を持った新譜は、レゲエのリズム・セクションとして有名なスライ&ロビーのタクシー・チームと、北欧のトランぺッター、ニールス・ペッター・モルヴェルが共演した「Nordub(Okeh)でした。というのも私はレゲエもけっこう好きで、昔有明で開かれたレゲエ・サン・スプラッシュで来日したスライ&ロビーの炎天下の長時間演奏で驚かされた口なのです。

それにしても、クールなエレクトロ・サウンドが持ち味であるモルヴェルと、まさに熱帯の音楽、レゲエのリズム・セクションの組み合わせというのはどうにも想像が付きませんでした。しかし、聴いて納得、というか、お聴きいただいたみなさまも同意していただけるのではないかと思うのですが、不思議な融合感があるのですね。そう言えば、モルヴェルが日本で話題となったきっかけのアルバム「クメール」(ECM)では、古代カンボジアのクメール王国がテーマとなっていましたね。つまりモルヴェルには、一見異質と思える文化背景を融合させて音楽を作る特別な才能があるのでしょう。そしてこの融合力は、ジャズの基本発想にも繋がっているのです。

次にご紹介するのは、多方面での活躍が話題となっているドラマー、アントニオ・サンチェスがドイツの名門、WDRビッグバンドと共演した新譜「Channels of Energy(PI Records)です。指揮するのはヴィンス・メンドゥーサ。アレンジもメンドゥーサで、スケールの大きなサウンドがポイントです。

そして最後はピアノ・トリオの新譜、イタリアのピアニスト、アントニオ・ザンブリーニの「Pinocchio(Abeat for Jazz)です。ごくオーソドックスな演奏ながら聴くほどに味わいが増す作品で、ヨーロッパ・ピアノ・トリオに関心のあるジャズ・ファンにはお勧めですね。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

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