こちらの企画「新譜特集」をはじめたのは、ここ数年ジャズ・シーンが眼に見えて活性化し、興味深い新譜、新人が次々と現れたからです。その波は当然日本のミュージシャンにも及び、このシリーズでもご紹介した今や大物の貫禄を備えた上原ひろみの傑作『Spark』(Telark)や、黒田卓也の新作『ジグザガー』(Concord)、そしてアメリカを拠点に活躍しているBigyukiの『グリーク・ファイアー』(Universal)など、枚挙に暇がありません。

今回最初にご紹介するアルバム『Initial Stage』(ラッツパック)は、サックス・プレイヤー木村広人率いるエナジーヴォイドというグループによる彼の初リーダー作。ギター入りクインテットというオーソドックスな楽器編成ながら、演奏から溢れる熱気、意欲はただものではありません。ギターの勝田弘和のソロも良く、今注目の新グループと言えるでしょう。

また、アルバム制作の現場でも意欲的な試みが成されています。今やシリーズ雑誌「ジャズ・ザ・ニュー・チャプター」で有名な柳樂光隆の新レーベル、JTNCの第一作『Padre』(JTNC)は、南米コロンビア出身の女性シンガー、ピアニスト、コンポーザー、イシス・ヒラルドの不思議な雰囲気を湛えた作品。ライナー・ノートによると、音楽評論家、高橋健太郎の持ち込み音源で、カテゴライズが難しい種類の音楽とも言えますが、こういうものがジャズファンに届くのはいいことだと思います。というか、「ジャズ」は今やあらゆる音楽ジャンルを大きく包み込むような役割を果たしつつあるようですね。

3枚目に収録したアルバムは、最近来日したオーストリアのギタリスト、ウォルフガング・ムースピールのECMからの新譜『ライジング・グレース』です。聴き所はピアニスト、ブラッド・メルドー、トランペッター、アンブローズ・アキシムシーレ、そしてドラムスにはブライアン・ブレードという豪華なサイドマンたちの参加でしょう。ムースピールの新生面が現れた作品と言えそうです。

ユニークなヴォーカルが炸裂する『Autour Chet』(Verve)は、好評のチェット・ベイカーの伝記的映画『ブルーに生まれついて』にちなんだ作品で、多くの歌手、ミュージシャンが参加し、チェットにちなんだ楽曲を披露しています。ちょっと気だるく、しかしお洒落な雰囲気が気になるアルバムですね。

ピアノのミシェル・カミロとフラメンコ・ギターのTomatitoのデュオ・アルバム『スペイン・フォエヴァー』(Universal)は、エグベルト・ジスモンチ、チャーリー・ヘイデン、アストル・ピアソラ、そしてエリック・サティなどの作品をじっくりと聴かせる傑作です。

そして最後に収録したのは、天才少年ピアニストとして話題のジョーイ・アレキサンダーの新作『カウントダウン』(Victor)です。私たちは、ジャズはある程度大人でないとその味わいは表現できないのではないかと思いがちですが、彼の演奏を聴くとそれは思い込みであることが実感されます。

特にテクニックに走った演奏という訳ではなく、オーソドックスながら新鮮なピアノ演奏として十分評価できますね。「処女航海」でクリス・ポッターがゲスト参加しているのも注目ポイントでしょう。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

USEN音楽配信サービス 「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」

東京・四谷にある老舗ジャズ喫茶いーぐるのスピーカーから流れる音をそのままに、店主でありジャズ評論家としても著名な後藤雅洋自身が選ぶ硬派なジャズをお届けしているUSENの音楽配信サービス「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」。毎夜22:00~24:00のコーナー「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」は、ビギナーからマニアまでが楽しめるテーマ設定でジャズの魅力をお届けしている。

USEN音楽配信サービス ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)

関連リンク

一覧へ戻る