つい最近、「ブルーノート東京」でカート・ローゼンウィンケルをゲストに迎えた石若駿のライヴを見ました。彼の噂はだいぶ前から耳にしていましたが、ライヴは初めて。聞くところによると、まだ20代前半。にもかかわらず、ベテラン、カートに臆するところ無く、メリハリの効いたドラミングでバンドを引っ張っていくところは、なかなか好感が持てました。
まずはその石若の最新録音。トラックにより少しずつメンバーが異なりますが、どの曲目も若々しさが溢れています。
サックス奏者ベン・ウェンデル率いる5人編成のジャム・バンド、ニーボディと、西海岸を拠点として活動する電子音楽家、デイデラスが共演したアルバム「ニーデラス」は、ジャンル横断的なサウンドながら、極めてジャジーなテイストを持った不思議なアルバムです。ジャケット・デザインも実にユニーク。昨年リリースされたカマシ・ワシントンの「ザ・エピック」に続き、ブレインフィーダー・レーベルはジャズの未来を予見させる興味深いアルバムを立て続けに出していますね。
続いてはフランスのベテラン、ベース奏者、アンリ・テキシェのライヴ・アルバムです。メンバーは息子のアルト・サックス、クラリネット奏者、セバスチャン・テキシェと、バリトンのフランソワ・コーンロープにドラムスというシンプルなカルテット。テキシェの巧みなリーダー・シップによって、バンドが活き活きと躍動しています。セバスチャンは私の好きなサックス奏者です。
昨年の「ブルーノート・ジャズフェスティヴァル・イン・ジャパン」(横浜開催)で初めてみたスナーキー・パピーを、先日「赤坂BLITZ」で見ましたが、前回をはるかに上回る素晴らしい公演でした。ライヴでは、彼らの極めて高度な演奏テクニックと音楽的多面性が浮き彫りになります。
彼らの最新作「クルチャ・ヴァルチャ」(Universal)で、まさに万華鏡のようなサウンドの多彩さが聴き所ですね。「ニーデラス」にしてもスナーキーにしても、従来の「ジャズ」の枠組みを自由に超えつつ、長くジャズを聴いてきた人間にも極めてジャジーなテイストを感じさせるグループが続々と現れるのを見るにつけ、ジャズが完全に新しいディメンションに突入したことが実感されます。
ウェザー・リポートというと、ジョー・ザ・ヴィヌルとウェイン・ショーターの双頭バンドのイメージが強いのですが、発足時のウェザーにはもう一人メンバーがいました。ザヴィヌルと同じヨーロッパ出身のベース奏者、ミロスラヴ・ヴィトゥスです。彼はこのところECMレーベルからウェザーの音楽を再演する試みを続けていますが、「ミュージック・オブ・ウェザー・リポート」もそうした1枚です。
かなり先鋭なサウンドですが、ヴィトゥスのウェザーに対する思い入れの強さが確かに伝わって来ます。ザヴィヌル、ショーターのサウンドと比べてみると、ヴィトゥスなりのこのグループの捉え方が見えてくるような気がします。
最後は、いまやベテランの域に達したブラッド・メルドーのオーソドックスなトリオ演奏です。メンバーはラリー・グレナディアのベースにジェフ・バラードのドラムスです。パーカー・ナンバー《シェリル》や、良く知られたスタンダード《ジーズ・フーリッシュ・シングス》などを淡々と演奏する中にも、やはりメルドーらしさが現れていますね。
文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)
USEN音楽配信サービス 「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」
東京・四谷にある老舗ジャズ喫茶いーぐるのスピーカーから流れる音をそのままに、店主でありジャズ評論家としても著名な後藤雅洋自身が選ぶ硬派なジャズをお届けしているUSENの音楽配信サービス「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」。毎夜22:00~24:00のコーナー「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」は、ビギナーからマニアまでが楽しめるテーマ設定でジャズの魅力をお届けしている。
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