サイドマン聴きシリーズ、ピアニスト編はトミー・フラナガン、ウイントン・ケリーと、バド・パウエルの系譜に連なるミュージシャンをご紹介してきましたが、今回もパウエル派ピアニスト、ケニー・ドリューです。「名盤の影にトミフラあり」と言われたフラナガン、ソロでも個性を発揮するケリーに対し、ドリューの持ち味はどこにあるのでしょう。

バップ・ピアノをわかりやすく噛み砕いた典型的ハードバップ・ピアニスト、ケニー・ドリューは、幅広いタイプのジャズマンに対応できる柔軟性と、軽快でノリの良いリズム感が多くのファンから好かれる理由ではないでしょうか。そして興が乗ればフロントを煽りまくる小気味よさが彼の魅力を倍増させています。

ジョン・コルトレーンの『ブルー・トレーン』(Blue Note)は有無を言わせぬ名盤ですが、典型的3管ハードバップ・セッションをピシっとキメているのは裏方ドリューのワザ。名脇役のおかげでリー・モーガン、コルトレーン、そしてカーティス・フラーが心置きなく吹きまくれるのです。そして、ドリューならではの軽やかでスインギーなソロがアルバムに彩りを添えています。

かつてコルトレーンとともに2大テナーと歌われたソニー・ロリンズとも、ドリューは共演しています。タイトルは『ウィズM.J.Q』(Prestige)ですが、このアルバムは2つのセッションから成っており、もうひとつのセッションのサイドマンがドリューです。どちらの演奏も素晴らしいのですが、とりわけロリンズの歌心が心行くまで堪能できる《ウィズ・ア・ソング・イン・マイ・ハート》《中国行きのスローボート》が心地よい。軽やかな曲想にマッチしたドリューの明るさがジャストフィット。これは豪放さばかりが喧伝されるロリンズの、肩の力を抜いた「隠れ名盤」と言ってよいのではないでしょうか。

ドリューはテナーマンばかりではなく、ウエストコースト出身の黒人アルト奏者、ソニー・クリスのサイドマンを務めたこともあります。独特の味わいを持ったクリスのアルトがむせび泣く『ジャズU.S.A.』(Imperial)は、《柳よ泣いておくれ》《ジーズ・フーリッシュ・シングス》が名演。ドリューの出番はあまりありませんが、これはクリスを聴くトラックと言えるでしょう。

そして、満を持してドリュー節が全開するのがデクスター・ゴードン『モンマルトル・コレクションVol.1』(Black Lion)。名曲《ソニー・ムーン・フォー・トゥー》を取り上げ、共にヨーロッパに活動拠点を移したデックスとドリューが異国の地で燃えまくる。これは紛れも無い名演です。

デクスター・ゴードンはじめ60年代後半から70年代にかけ、ベテラン・ジャズマンのヨーロッパ移住が多くなりましたが、ブローテナーの第一人者、ジョニー・グリフィンもその一人。彼らの演奏を記録したヨーロッパ・レーベル「スティープル・チェース」は、いわゆる“70年代ハードバップ・リバイバル”の先駆け的レーベルです。グリフィンのアルバム『ブルース・フォー・ハーヴィー』(Steeple Chase)は、まさに記念碑的作品。

そしてご存知ジャッキー・マクリーンとも、もちろんドリューは共演しています。アルバム『ブルースニク』(Blue Note)のアナログ盤B面に収録されたセッションは、しみじみとした味わいの隠れ名演。最後にご紹介するのはちょっと異色、白人モダン・クラリネットの大物、バディ・デフランコの『ミスター・クラリネット』(Verve)。ドリューの万能選手振りが発揮された傑作です。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

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