ナベサダと愛称された日本を代表するジャズ・ミュージシャン、渡辺貞夫のニュー・アルバムが2枚発表されました。どちらも素敵な出来なので、今回2枚ともご紹介したいと思います。冒頭に収録したのは、ラッセル・フィランテのピアノにケンドリック・スコットをドラムスに起用したバンドによる、日本公演のライヴ『リバップ・ザ・ナイト』(ビクターエンタテイメント)です。聴き所は何と言ってもナベサダの抜けの良いアルト・サウンドです。明るく軽やかでありながら味わいがあるのですね。

次は、オーソドックスなテナー奏者、チャールズ・オーウェンが同じくテナーのジョエル・フラームを迎えた2テナーで、ニューヨークのクラブ「スモールズ」に出演した際のライヴ盤『ライヴ・アット・ザ・スモールズ』(Smalls Live)です。クラブ・ライブならではの親密な空間で、良く知られた名曲「あなたと夜と音楽と」や「ラウンド・ミッドナイト」といったスタンダード・ナンバーを披露しています。

大御所の貫禄を備えたギタリスト、ジョン・スコフィールドがジェラルド・クレイトンのピアノ、オルガン、ビル・スチュワートのドラムス、そしてヴィンセント・アーチャーをベースに従えたニュー・グループ、コンボ66による新作は、タイトルもそのものずばり『コンボ66』(Verve)です。ジャム・バンド時代の空気を感じさせつつも円熟した味わいが聴き所です。

4枚目のアルバムは西アフリカ出身の異色ギタリスト、リオーネル・ルエケの『Jorney』(Aparte)です。ルエケはギターと共にヴォーカルも披露、プロデュースは彼を見出したハービー・ハンコックで、アフリカン・テイストと現代ジャズがごく自然に融合しています。ジャズがあらゆる種類の音楽を巧みに取り入れ融合させていることが実感されるアルバムと言っていいでしょう。

今イスラエル出身のミュージシャンの活躍が話題となっていますが、1983年生まれのギタリスト、ギラッド・エクセルマンもその一人です。彼は奨学金を得てアメリカに渡り、2005年にギブソン・モントルー・インターナショナル・ギター・コンペティションで優勝し、翌年にリーダー作を出しています。

彼の新作『Ask for Chaos』は、自ら設立したレーベルHexophonic Musicからリリースされ、二つのトリオの演奏が収録されています。「It Will Get Better」と「Milton」がベースとドラムスを従えたgHex Trioで、「Stumble」がアーロン・パークスのキーボードとドラムスによるZuper Octavaによる演奏です。どちらの演奏も、他に類例のないオリジナリティに満ちています。

そして最後に再び渡辺貞夫の新作『Love Songs』(ビクターエンタテイメント)。こちらはレーベルを超えた10タイトルのオリジナル・アルバムからナベサダ自身が厳選したラヴ・ソングの数々です。聴き所は何と言っても年輪を感じさせる落ち着いた深みある情感です。それもいわゆる「枯れた味わい」ではなく、アルトがしっかりと鳴りつつ、しかも聴き手にしっとりとした情感が伝わってくる所が素晴らしいですね。

デビュー時はパーカー直系、その後アフリカや各地の音楽を渉猟し、まさにナベサダ・ミュージックとしか言いようのない世界を築いた彼の、晩年の豊かな境地が心地よく響く傑作です。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

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