最初に紹介するのはデヴィッド・ボウイの遺作『ブラック・スター』のバックバンドを務めたことで注目された、ダニー・マッキャスリンの新作『ビヨンド・ナウ』(AGATA)です。メンバーもキーボード、ジェイソン・リンドナー、ドラムス、マーク・ジュリアナ、エレクトリック・ベース、ティム・ルフェーヴルなど、その時のメンバーと重なり、デヴィッド・ボウイの作品も演奏していることもあって、サウンドは『ブラック・スター』の最新ジャズ版といった感じです。

思い出せば、ずいぶん昔にニューヨークの「55バー」で若き日のダニー・マッキャスリンの演奏を聴いたことがあるのですが、以来この人の進化は凄まじいものがあります。ごく大ざっぱに言えば、マイケル・ブッレッカーの影響を受けていると言えるのでしょうが、斬新なリズム、サウンド・コンポジションによって、まさしく「現代のジャズ」となっており、そこも含め、完全にオリジナリティを確立させたと言っていいでしょう。名演です。

BIGYUKIという名前でデビューしたニューヨーク在住のキーボード奏者、平野雅之の新作『グリーク・ファイアー』(Universal)は、現代性を感じさせつつも不思議な懐かしさも覚える独自のテイストが面白い。それにしても、ビッグユキというニックネームの由来が笑えます。バークリーの修行時代に、もう一人「ユキ」と呼ばれた日本人ミュージシャンが居たため、その人物と区別するため背の高い平野が「ビッグ・ユキ」と呼ばれたそうです。彼はニューヨークを拠点とし、多くのセッションに引っ張りだこの注目株です。

3枚目に収録したアルバムは、今話題のノラ・ジョーンズの新作『ディ・ブレイクス』(Blue Note)です。久しぶりに彼女自身がピアノなどを弾き語りしているだけでなく、サイドマンがたいへんに豪華、一音だけで存在感のあるウエイン・ショーターがいくつかのトラックに参加しているのですね。また、採り上げた楽曲も非常に魅力的で、これはヒット間違いなし。実際、既にいろいろなところでこの新作が流れています。

マイルス・デイヴィスの残されたマスター・テープを自在に使い、ロバート・グラスパーがマイルスを現代に蘇らせた話題作が『エヴリシングス・ビューティフル』(Columbia)です。この作品の特徴は、素材がマイルスであっても、音楽自体はあまりマイルス・ミュージックを思い起こさせるようなテイストではなく、まさにグラスパーのスタイルになっているところでしょう。こうした発想はヒップ・ホップ以降の世代ならでは。

来日公演をしたこともあるトランペッター、クリスチャン・スコットが共同プロデュースしたことで話題となっているのが新人女性ヴォーカリスト、サラ・エリザベス・チャールズの新譜『インナー・ダイアローグ』(Concord)です。私も初めて彼女の歌声を聴いたのですが、これは素晴らしい。声の張り、テクニック抜群で、しかもたいへん個性的。間違いなく彼女はこれからの注目株となるでしょう。サイドマンとしてクリスチャン・スコット自身も参加しているところも聴き所です。

最後に収録したEMY・Trioの『Genesi』(le Havre)は2年ほど前の作品ですが、これは傑作です。哀愁を帯びた旋律が魅力的なブルガリアの民族音楽を取り入れたピアノ・トリオ演奏で、このところヨーロッパのジャズ・シーンに顕著なエスニック・テイストの見直しの流れに沿った作品と言えるでしょう。オーソドックスなフォーマットながら、エリス・デュフォーの演奏するピアノには、現代ジャズならではの斬新さが感じられます。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

USEN音楽配信サービス 「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」

東京・四谷にある老舗ジャズ喫茶いーぐるのスピーカーから流れる音をそのままに、店主でありジャズ評論家としても著名な後藤雅洋自身が選ぶ硬派なジャズをお届けしているUSENの音楽配信サービス「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」。毎夜22:00~24:00のコーナー「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」は、ビギナーからマニアまでが楽しめるテーマ設定でジャズの魅力をお届けしている。

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