「メレル 1TRL」が切り拓いたファッション市場

メレルは現在、世界100カ国以上で展開するグローバルアウトドアブランド。卸売りをメインに成長を遂げ、直営店に戦略的に取り組むようになったのはこの数年のことだ。日本では丸紅フットウェア(現丸紅コンシューマーリンク)が輸入販売し、靴やアウトドア、スポーツの専門店・量販店を中心に販路を広げ、売り上げの8割超を卸で作ってきた。商品では1998年に発売したスリップオンシューズ「JUNGLE MOC(ジャングルモック)」、2007年から展開するマルチアウトドアシューズ「MOAB(モアブ)」が人気を呼び、日本でもメレルを象徴するモデルとして定着した。
ただ、「ジャングルモックとモアブがあれば十分という店舗が多く、メレルにはもっと多くのモデルがあるのにほとんど見せられていなかった」と、丸紅コンシューマーリンク メレルマーケティング課の田中祐介課長。40~50代の男性を中心にファンは多かったが、若年層のブランド認知が弱く、知っていても「おじさんの靴」的なイメージがあった。「既存のお客様をしっかりとフォローしながら、新しいお客様にメレルの魅力を発信していける方法を模索していた」という。

「モアブ」
「モアブ」
「ジャングルモック」
「ジャングルモック」

そんな頃、19年に本国が打ち出したのがリブランディングだった。これに伴い、メレルのアーカイブからピックアップした名品をアップデートし、都会的なデザイン性と本格的なパフォーマンス性を備えたプレミアムコレクション「MERRELL 1TRL(メレル ワンティーアールエル/以下、1TRL)」を開発。20年にヨーロッパで先行販売すると、アウトドアファンだけでなく、アウトドアとストリートのスタイルを融合したゴープコアが広がる中で、若年層のファッションマインドを捉えた。22年から世界で最大100店舗に絞り込んで展開し、日本での販売もスタート。コロナ禍だったが、ポップアップショップやオンラインストアで提案すると、それまでメレルを知らなかった20~30代の男女客の新規購入が圧倒多数を占めた。好影響は卸ビジネスにも波及し、既存の卸先からの発注数が増える一方、それまでアカウントがほぼ無かったファッション系のセレクトショップが加わった。さらに、中高年層にファンが多かったモアブやジャングルモックなどのアイコンモデルも20~30代に注目され、購買が増加した。

「メレル 1TRL」
「メレル 1TRL」

メレルのコアを体験する旗艦店と、全ラインナップが揃うブランドセンター

1TRLに対する日本市場の好反応を受け、23年3月には渋谷パルコに約1年間の期間限定店舗として「MERRELL 1TRL TOKYO(メレル ワンティーアールエル トーキョー)を出店。新たな直営店戦略へと踏み出した。「1TRLに特化した渋谷パルコ店を出して、渋谷・原宿に個性の異なる店舗を構想したんです。独自のカルチャーを持つ原宿には、ファッション感度の高い若年層を主対象として、メレルのコアを伝える旗艦店。とはいえ、どんな立地・スペースになるか分からなかったので、渋谷エリアにもう1店舗、日本で展開しているフルラインナップを集積したブランドセンターを作ろうと考えました」と田中さんは話す。

明治通り沿いにある「メレル原宿フラッグシップ」

原宿の旗艦店を「MERREL HARAJUKU FLAGSHIP(メレル原宿フラッグシップ)」としてオープンさせたのは、23年9月のこと。明治通り沿いの神宮前交差点近くに立地する3層構造のビルの1階と2階に売り場を設け、3階はストックルームとして使用する。メレルが国内で初めて展開する路面店だ。ブランドの旗艦店というと本国のレギュレーションがきつそうだが、原宿店の店作りに際して要望されたのは「experimental store(体験型の店舗)」のみだったという。

ウィメンズを集積した原宿店2階
原宿店の1階ではメンズを提案

店舗空間は、天然木を用いた床や棚などの什器、桜の木で製作したベンチ、左官仕上げによる白い壁面など自然を感じさせながらも、メレルのシューズそのものを体感できるよう余白を重視。ハイキングやランニングなどのカテゴリーのサインはあえて設けず、アウトドアを楽しむ人ではなくても気軽に来店し、自分の用途に合わせて選べるよう配慮した。1階の壁一面には165inchの超大型LEDビジョンを設置。シーズンごとに制作されるプロモーションムービーなどを映し、メレルの世界観を発信する。「壁一面に商品を陳列しないのはロスにつながるという考え方もありますが、この店ではブランドのコンセプトを発信し、世界観を体験していただくことを優先した」と田中さんは話す。
また、2階には3DCGタッチパネルモニターを導入し、日本で展開する全ラインナップのスペックなどを確認することができる。「日本では現在、シーズンごとに約300品番のシューズを展開し、そこからセレクトした品番を原宿店では提案しています。タッチパネルでは売り場に出ていないモデルのスペックをチェックしたり、商品のバーコードをスキャンすれば、そのカラー展開やスタイリングイメージなどを見ることができます」とメレル直営販売課の工藤俊課長。メレルの直営店では原宿店にしかないサポーティブなサービスだ。

メレルの世界観を間近で体感できる超大型LEDビジョン
メレルの世界観を間近で体感できる超大型LEDビジョン

原宿店と補完関係にあるのが、24年3月に出店した「MERREL 渋谷スクランブルスクエア店 MERREL Brand Center SHIBUYA(メレル ブランドセンター 渋谷)」。渋谷駅直結の立地を生かし、シューズもアパレルも国内で展開する全品番を集積し、ジェンダーや世代を問わず「お気に入りのメレル」と出会える場として機能させている。

「メレル 渋谷スクランブルスクエア店(メレル ブランドセンター 渋谷)」

広がる若年層の支持、増えるウィメンズの購買

原宿店は1階にメンズ、2階にウィメンズのシューズを集積し、2階ではアパレルラインも提案する。オープンして約2年半が経過し、20~30代が全客数の半数以上を占め、男女比は6対4だが女性客が増えているのがこの間の特徴だ。「女性客はブランド全体でもコロナ禍前の36%から6ポイント伸びている。男女半々ぐらいまでに引き上げたい」と工藤さんは話す。
商品では1TRLが安定して動き、売り上げの3割程度を占める。一方、男女とも19~24歳を中心に大きく伸びているのがモアブだ。「登山やワーク系の靴という従来の見方ではなく、肯定的な『いなたいファッション』と解釈して履くようになり、その層が大きく広がっている」と田中さん。「特にウィメンズは在庫を増やしても追いつかないほどの勢いになっている」。プロモーションの対象をウィメンズにシフトしたことも大きい。モアブ2からモアブ3にアップデートした22年12月からムービーのモデルを女性に変え、ファッションカルチャーとしての発信を強化した。この積み重ねのうえに、24年にメンズのみで展開していたトリプルブラックの「MOAB 3 SYNTHETIC GORE-TEX®(モアブ3 シンセティック ゴアテックス)」をウィメンズに投入すると、人気に火がついた。他、モアブ2を進化させ、本革を編み込んだアッパーが上品な「MOAB 2 SLIDE LEATHER WOVEN 1TRL(モアブ2 スライドレザーウーブン 1TRL)」など、限定モデルも特別感が好評だ。

19~24歳を中心に人気の「モアブ3」
女性モデルを起用した「モアブ3」のルック
アッパーの本革を編み込んだ「モアブ2 スライドレザーウーブン 1TRL」
トリプルブラックの「モアブ3 シンセティック ゴアテックス」

現在はアイコンのジャングルモックでも、これまでとは視点を変えたプロモーションを展開中。原宿店2階の壁面にプリントされた、制服にジャングルモックを合わせた女子高校生の日常を切り取った画像は象徴的だ。「共感してもらえれば、ファッションとして自然に取り入れてくれるので、そのきっかけを提案している」という。

壁面で制服にジャングルモックのコーディネートスタイルを提案

独自のデザインやフィールドにも対応する機能が改めて評価を高めているメレルだが、創業以来、そのシューズに通底しているのが快適な履き心地。「足を入れた瞬間から自分の足型のように馴染む。人間工学に基づく独自のテクノロジーを追求してきたからこその快適性はメレルの真骨頂」と田中さんは話す。さらに履きやすく、歩きやすいモデルとして今年2月に発売されたのが、「SPEED ARC MATIS(スピードアーク マティス)」。創業者の一人で、テクノロジー開発に携わってきたクラーク・マティスが、昨年の退任に際して開発したメレル史上最も革新的なファストハイキングシューズだ。

「スピードアーク マティス」。写真はスノーピークとのコラボモデル

アッパーは軽量かつ優れた通気性を持つメッシュをベースにTPU(熱可塑性ポリウレタン)で補強し、踵部にはTPU補強ヒールカウンターを配置することで安定性を向上させ、スピードシューレースで着脱とフィット調整を容易にした。ソールの画期的な構造も出色。ミッドソールには軽量でクッション性と機能持続性に優れたメレル独自の「FLOATPRO™(フロートプロ)」フォームを採用し、これを2段構造にして間にオリジナルのナイロンプレート「FLEXPLATE™」を搭載することで安定性と剛性をアップさせた。アウトソールには、最高レベルのグリップ性を発揮する「Vibram MEGAGRIP(ヴィブラムメガグリップ)×Vibram TRACTION LUG(ヴィブラムトラクションラグ)」を採用。リサイクル素材も取り入れることで環境負荷の軽減にも取り組んだ。シュータンの裏にはブランドからマティスへの感謝を込めて、「THANK YOU, CLARK」の言葉とトレードマークの髭のプリントが添えられているのも感慨深い。スノーピークとコラボレーションした「SPEED ARC MATIS GORE-TEX® SP(スピードアーク マティス ゴアテックス® スノーピーク)」も4月から展開している。

シュータンにはクラーク・マティスへの感謝の言葉

日本企画のアパレルも展開、シューズ開発も進行中

24年4月にローンチしたアパレルライン「MERRELL JAPAN APPAREL(メレル ジャパンアパレル)」も注目だ。フットウェアブランドとしてのイメージがどうしても強いメレルだが、本国ではアパレル事業も展開してきた。19年にはアパレルのクリエイティブディレクターが東京から得たインスピレーションをウェアに落とし込んだアパレルライン「JAPAN CAPSULE(ジャパンカプセル)」をリリース。「アーバンアウトドアスタイル」をコンセプトにアメリカで企画・生産し、日本で販売するスタイルで23年まで継続した。その知見を生かし、日本で企画・生産するラインとして誕生したのがメレル ジャパン アパレルだ。

日本で企画する「メレル ジャパン アパレル」

コンセプトは「FUNCTIONALITY(機能), STORY-TELLING(物語性), SUSTAINABILITY(持続可能性), GENDERLESS(ジェンダーレス)」。国内外からパフォーマンス素材を厳選し、実用性とスタイルを重視した独自のパターンワークによるウェア開発を行い、日常をよりアクティブで快適なものへと昇華させる「パフォーマンスライフスタイル」をサポートする。全モデルにXSとXLを設け、レイヤードを想定したルーズなフィット感を演出しながら、スモールサイズは女性、ビッグサイズは男性の骨格に合わせたサイズ感に仕上げ、ユニセックスでの着用を実現している。
3層構造の機能素材を使った「LAYERING(レイヤリング)」シリーズは面白い。「LAYERING BORERO(レイヤリング ボレロ)」は、撥水性を備え、シームテープ仕上げで雨風をしっかりブロックしながら快適性をキープし、袖のアジャストテープや脇のスピンドルによって身体にフィットし、アクティブな動きにもスムーズに追従。同素材の「LAYERING ZILET(レイヤリング ジレ)」や「LAYERING VEST(レイヤリング ベスト)」、「LAYERING SHORTS(レイヤリング ショーツ)」と組み合わせることで、用途に応じて保温・通気・耐候性を拡張できるモジュール構造が魅力だ。

  • レイヤリングシリーズのスタイリング
  • レイヤリングシリーズのスタイリング
  • 「レイヤリング ボレロ」
  • 「レイヤリング ジレ」
  • 「レイヤリング ベスト」
  • 「レイヤリング ショーツ」

アパレルに続いて、一貫してアメリカで作られてきたシューズに関しても、日本企画によるプロジェクト「DESIGNED IN JAPAN(デザインド イン ジャパン)」が進行中だ。「来年にはお披露目する計画」という。また、「ドメスティックブランドとのコラボにもシーズンごとに取り組み、国内だけではなく、グローバルに展開していく足がかりにしたい」としている。

リブランディングによって原宿と日本市場におけるブランドの可能性を広げてきたが、「ファッション・ライフスタイル領域での認知が大きく進んだのは23年のこと。地道にマーケティングを積み重ねてきて、やっと形になった」と田中さんは振り返る。
以降、原宿店と渋谷店を起点にブランドの魅力を発信したところ、昨年からは郊外にある既存店が若年層の集客を増やすという現象が起こっている。「これは予想していなかったこと。若いお客様は原宿店と渋谷店と役割を分けていたんですけど、蓋を開けてみたら郊外にも波及し始めた」と工藤さん。結果、8店舗ある郊外店の売上高は昨年、前年比で2桁成長を果たした。郊外店はエリアの日本人客がほとんどで、若年層から支持される1TRLの取り扱いがなく、話題性のあるコラボアイテムも基本的に原宿店と渋谷店で展開するため、モアブやジャングルモックなどの定番が今の感性で評価されたかっこうだ。
今年はメレルが誕生して45周年。「秋冬シーズンから限定アイテムなどを投入し、いろいろな見せ方でブランドの魅力を伝え、メレルをもっと多くの方々に認知していただく年にしようと思っています」と田中さん。その後も、27年はモアブが20周年、28年はジャングルモックが30周年とアニバーサリーイヤーが続く。新規出店も含め、新たな動きに注目したい。

写真/遠藤純、丸紅コンシューマーリンク提供
取材・文/久保雅裕

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久保雅裕(くぼ まさひろ)encoremodeコントリビューティングエディター。ウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。元杉野服飾大学特任教授。東京ファッションデザイナー協議会 代表理事・議長。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。

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