長年ジャズ喫茶をやっていると、お客様のジャズに対する接し方の変化がよくわかります。

ここ数年、ジャズが良い意味でふつうの音楽となり、肩ひじ張らず親しんでいただける環境が整ってきました。それと同時に「ジャズは個性の音楽だ」という本質的部分に対する理解も間違いなく進んでいるようです。うまい下手ではなく、フレージング、サウンドで誰が演奏しているかがわかるようなミュージシャンが支持されているのですね。というか「個性がみえる演奏」こそがジャズにおける「うまさ」というべきでしょう。

そういう意味で、トム・ハレルは地味ながらじっくり付き合えるミュージシャンです。今回の新譜『Oak Tree(High Note)は、トム・ハレルらしさが浮き彫りになった好演と言えるでしょう。

まろやかなフレーズをていねいに積み重ねることで、自分の世界を描き出し聴き手を惹き込むテクニックは、彼ならでは。それと同時に、70歳を超えているとは思えない溌溂としたサウンドには改めて目を見張るものがあります。

率直に言って、ドラマーがリーダーのアルバムには微妙なところがあるように思います。聴き手の注目を最初に集めるのはメロディー楽器なので、フロントに誰を据えるかによって音楽のイメージがガラリと変わってしまうから。

しかしそれがプラスに作用することもあるのですね。今回のマーク・ジュリアナの新作『The Sound Of Listening (Core Port)は、従来のエレクトロニカルな彼のイメージを刷新するアコースティック中心の演奏ながら、極めて質の高い音楽性を獲得しています。

聴き所はジェイソン・リグビーの密度の高いテナー・ソロとシャイ・マエストロの輝きのあるピアノで、ジュリアナは彼らを前面に押し立てることで自らの音楽を提示しているのです。

現代ジャズ・シーンを代表するグループ、スナーキー・パピー2年ぶりの新作『Empire Central(Core Port)は、彼らのルーツである土地、ダラスにおける2枚組スタジオ・ライヴ。アメリカ南部のこの街に由来するブラック・ミュージックに対するリスペクトを込めた楽曲をメンバーに依頼した結果、グルーヴ感覚に満ちたトラックが並んでいます。それにしても、このチームの息の合い具合には毎回脱帽ですね。

ベテラン、フルート、サックス奏者チャールス・ロイドがギタリスト、ビル・フリゼール、ベーシスト、トマス・モーガンのみを従えたトリオ・アルバム『Chapel Trio(Blue Note)は、名手同士がじっくりと音楽と向き合った穏やかながら密度感のある好演です。

そして今やレジェンドとなった二人を支える若きモーガンのベースが素晴らしい。彼、一度「いーぐる」に遊びに来たことがあるのですが、実に感じの良い好青年でした。

イスラエル発のグループ、ビート・メーカー、リジョイサーことユヴァル・ハヴキン、サックスとヴォーカル担当のケレン・ダン、そしてベースのベン・ヘンドラーによるバターリング・トリオに、ドラマーとしてアミール・ブレスラーが参加した『Foursome(Rings)は実に不思議なアルバムです。

聴き所はケレン・ダンのユニークなヴォーカルで、一聴、ボサノヴァ的ゆとり感覚を覚えつつも、内に秘めたより熱量はかなり高く、それが聴き手に例えようもない心地よさを与えてくれるのですね。聴いているうちに中毒的にハマるタイプのヴォーカルと言えるでしょう。

最後に収録したのは日本ジャズ界の大物、渋谷毅が15年ぶりに放つピアノ・ソロ・アルバム『I Love Carla Bley(Owl Wing Record)です。タイトル通りカーラ・ブレイと彼女にちなんだ楽曲が収録されており、カーラの魅力が渋谷によって浮き彫りになった好演です。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

USEN音楽配信サービス 「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」

東京・四谷にある老舗ジャズ喫茶いーぐるのスピーカーから流れる音をそのままに、店主でありジャズ評論家としても著名な後藤雅洋自身が選ぶ硬派なジャズをお届けしているUSENの音楽配信サービス「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」。毎夜22:00~24:00のコーナー「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」は、ビギナーからマニアまでが楽しめるテーマ設定でジャズの魅力をお届けしている。

USEN音楽配信サービス ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)

関連リンク

あわせて読みたい関連記事

一覧へ戻る