今回の新譜特集は、それぞれ貴重な発掘音源と復刻音源です。最初にご紹介するのは、1973年にチャールス・ミンガスがデトロイトのジャズ専門ラジオ局のためにレコーディングした『ジャズ・イン・デトロイト』(Strata) です。この時の録音は5本のテープに記録され、すべてが未発表でした。今回発売されたアルバムは、それぞれのテープに対応するCDが5枚収録されています。すべてに共通するメンバーはミンガスの他、サックスにジョン・スタブルフィールド、トランペット、ジョー・ガードナー、ピアノ、ドン・プーレン、そしてドラムスがロイ・ブルックスのクインテットです。聴き所は25分に及ぶ名曲「直立猿人」のでしょう。

そして2枚目の未発表録音は、ミンガス・グループに在籍していたこともあるサックス奏者、エリック・ドルフィーの貴重な発掘音源『ミュージカル・プロフェット』 (Resonance)です。このアルバムは3枚組CDで、すべてアラン・ダグラスがプロデュースした音源。1枚目と2枚目はFMレコードから既発の『カンヴァセーション』と、ダグラス自身のレーベルから出された『アイアン・マン』。そして残る1枚がブルーノートに残された『アウト・トウ・ランチ』直前のドルフィーの姿を捉えた貴重な未発表音源です。

「和ジャズ」が独特の視点からイギリスで注目を集めていることはご承知かと思いますが、イギリスの発掘コレクター、トニー・ヒギンスとマイク・ぺデンが監修した3枚組アナログ盤『J JAZZ(BBE)は、今回収録した松風紘一トリオや森山威男のほか、1964年から84年にかけての「和ジャズ」の希少名演を選りすぐっています。これらの演奏は21世紀の今でも独特の香りを漂わせています。

ピアニスト相澤徹の名前はまったく知らなかったのですが、それもそのはず、今回収録した橘郁二郎が自主制作したアルバム『Tachibana (ウルトラ・ヴァイヴ)は、当初200枚ほどしか製作されなかったそうです。メンバーは相澤のピアノの他、サックスが森村恭一郎、ドラムス森村哲也の森村兄弟に、渡辺好造のベースによるカルテット編成。かつての日本ジャズ・シーンの熱気を今に伝える熱演が素晴らしく、マニアが必死になって探したというのも納得です。彼らの演奏は先ほど紹介した『J JAZZ』にも収録されており、むしろイギリス人の方が日本の知られざる名演に対する関心は高いことが知られます。イギリス発ジャズというとクラブ・シーンを連想する方が多いようですが、こうしたシリアスな演奏にも目が向けられているのですね。

そしてやはりイギリスのBBEから出された森山威男の『East Plants』も聴き応えがある快演です。録音は1983年で、メンバーはドラムスの森山の他、榎本修一、井上淑彦がサックス、定成庸司のパーカッション、そしてベースは望月英明です。それにしても森山のドラミングはすさまじいですね。かなり異色の作品ながら、こちらも日本ジャズの熱気を今に伝える名演と言っていいでしょう。

そして最後は、北海道在住のピアニスト福居良が1976年にトリオ・レコードに残した幻のファースト・アルバム『Scenery(JAZZ)です。ごく自然ながらオリジナリティにあふれ、まさに名演と言っていいでしょう。聴き所は、繊細でありながら表情豊かなピアノのタッチですね。ノリも良く、オーソドックスなピアノ・トリオ・ファンに安心してお勧めできるアルバムです。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

USEN音楽配信サービス 「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」

東京・四谷にある老舗ジャズ喫茶いーぐるのスピーカーから流れる音をそのままに、店主でありジャズ評論家としても著名な後藤雅洋自身が選ぶ硬派なジャズをお届けしているUSENの音楽配信サービス「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」。毎夜22:00~24:00のコーナー「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」は、ビギナーからマニアまでが楽しめるテーマ設定でジャズの魅力をお届けしている。

USEN音楽配信サービス ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)

関連リンク

あわせて読みたい関連記事

一覧へ戻る