去年の春から始めさせていただいた「新譜特集」、早くも2年目を迎えました。こうした企画を思いついたきっかけは、「いーぐる」で毎月1回行われている、既に40回を迎えようとしているユニバーサルさんとディスクユニオンさんによる共同企画の新譜特集「New Arrivals」の内容を少しでもご紹介したいということがまずありました。ここ数年、明らかに新譜が面白くなっているのです。それは当然ジャズシーン自体の活性化の反映で、実際このところ興味深い来日ミュージシャンのライヴが目白押しなのです。

まず最初にご紹介するのは、明後日の「ブルーノート東京」でのライヴが楽しみなカート・ローゼンウィンケルの新譜『Caipi』(Song X)です。正直に言うと、私は今まであまりカートのことを高く評価していませんでした。それは私たち「団塊世代ジャズファン」の良くないところで、どうしてもパット・メセニーのデビュー・アルバムの衝撃とか、ビル・フリゼールを最初にライヴで見た時の驚きといった、過去の体験と比較してしまうからです。

率直に言って、今までのカートのアルバムは彼らほど「斬新」とは思えませんでした。その印象が一変したのが今回の新作です。ミナス派の影響を強く感じさせますが、数年かけ多重録音を重ねたというだけあって、カートの音楽性が明瞭に表れている傑作と言っていいでしょう。このところ話題になっている、ブラジルのミナス地方のミュージシャンたちによる音楽は、非常に繊細でまた知的でもありますが、それだけに聴く方も神経を使いがち。カートは、彼らの音楽が持つサウンドの斬新な響きを実にうまい具合に「ジャズ」に移入しているのです。まさに「ジャズの強み」を実感させてくれる傑作です。

そしてエスペランサです。彼女の印象もつい先日のライヴで一変しました。ベースがアコースティック、エレクトリックともに極めて巧みなのは言うもでもないのですが、歌が素晴らしい。加えて彼女のシンガー・ソング・ライターとしての資質が途轍もないのですね。彼女が書く旋律は極めてユニークでありながら、実に自然なのです。今回ご紹介した『Emily’s D + Evolution 』(Concord)は、そうしたエスペランサの最新のアイデアがコンセプト・アルバムとして結実しています。

ブラッド・メルドーのドラマーとして知られたホルヘ・ロッシの新作『Stay There』(Pirouet)は、彼がヴァイブラフォン、マリンバに専念した作品です。メンバーはマーク・ターナーのテナー、ピーター・バーンスタインのギター、そしてドラムスはアル・フォスターです。地味ながら聴くほどに味が出てくる作品です。

デヤン・テルジッチはバルカン半島出身のドラマーで、出身を同じくするピアニスト、ボヤン・ズルフィカパシチとの初共演が収められているのが、彼らの新作『Prometheus』(Cam Jazz)です。そしてサックスは硬派で鳴らしたクリス・スピードで、ベースはマット・ペンマン。結果として、エスニックなテイストとハードな側面が万華鏡のように変化する面白い作品になっています。

オマール・ソーサはキューバのピアニストですが、単なるキューバン・ミュージックの枠に収まらない多彩な才能はアルバム『JOG』をお聴きになれば納得でしょう。私は昨年、プランクトンが主催した「ジャズ・ワールド・ビート」で彼のステージに接しましたが、その時の感動がこの作品を聴くと蘇ってきます。

『Charlie』 (5Passion)は、同じくキューバのピアニスト、ゴンサロ・ルバルカバが、惜しくも亡くなったチャーリー・ヘイデンに捧げたアルバムです。チャーリーの傑作《ファースト・ソング》はじめ、パット・メセニーの作品も収録しています。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

USEN音楽配信サービス 「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」

東京・四谷にある老舗ジャズ喫茶いーぐるのスピーカーから流れる音をそのままに、店主でありジャズ評論家としても著名な後藤雅洋自身が選ぶ硬派なジャズをお届けしているUSENの音楽配信サービス「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」。毎夜22:00~24:00のコーナー「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」は、ビギナーからマニアまでが楽しめるテーマ設定でジャズの魅力をお届けしている。

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