今回から新譜特集として、比較的新しいアルバムをご紹介して行こうと思います。選択基準はわりあい幅広く取って、21世紀以降に録音されたものを中心に、それ以前の録音でも、発掘音源など発売が21世紀以降という作品も含めることにしようと思います。
最初にご紹介するのは、このところ注目を集めているイスラエル・ミュージシャン、オマール・アヴィタルの『ニュー・ソング』(Plus Loin Music)。オマールはベーシストで、サイドにはトランペットのアヴィシャイ・コーエンが参加しており、彼の熱気を孕んだトランペット・サウンドが聴き所です。
次はイギリス生まれのベテラン・サックス奏者、ジュリアン・アーギュロスの最新作『テトラ』(Whirlwind)。彼のサックス・サウンドはじっくり聴くほどに味が増すタイプ。3枚目のアルバムは、今まさに注目のグループ「スナーキー・パピー」のキーボード奏者、ビル・ローレンスの新作『アフター・サン』(Universal)。メンバーは同じくスナーキー・パピーのベース奏者マイケル・リーグに、ドラム奏者ロバート“スパット”シーライト、そしてガーナ出身のパーカッション奏者ウィーディー・プライマーの参加がサウンドにワールド・ミュージック色を加えているところが聴き所ですね。実に快適で心地よい演奏ながら、音楽としての新しさが感じられます。
そしてこちらもUKジャズのピアニスト、キット・ダウンズがサイドに参加した、テナー・サックス奏者サム・クロカットの新作『メルス・ベルス』(Whirlwind)も力作です。華やかなキットのピアノと渋味サックス、クロカットの組み合わせは正解。
そしてECMからは、いかにもECM的な作品『アルバ』(ECM)が面白い。マークス・ストックハウゼンのフリューゲル・ホーンとフローリアン・ウィーバーのピアノによるデュオ作品で、かなり変則的な楽器編成ながら聴き手を飽きさせない作りこみはさすがECMですね。聴き所は、ちょっとマティアス・アイクを思わせるマークスのフリューゲル・ホーンの叙情的なサウンドです。
さて、最後は今回の目玉作品、ゴーゴー・ペンギンの新作『マン・メイド・オブジェクト』(Blue Note)です。実を言うと2月にこのアルバムを聴くまでまったく知らないグループだったのですが、その斬新な演奏に惹かれ先日ブルーノート東京でわずか2日のみのライヴに出かけて見ました。まださほど知名度の高いグループだとは思えないのに客席は満員、立ち見も出るほど。そして客層が従来のファン層とは少し違っていて年齢層も若く、まさに「ジャズ新時代」を予感させるものでした。
そして何より驚いたのは演奏の素晴らしさです。アルバムでもその魅力は充分に伝わるとは思いますが、ライヴでのメンバー相互のインタープレイの密度の濃さは尋常ならざるものがあります。まさに現代のトップ・ジャズ・グループと言っていいでしょう。
ロブ・ターナーのドラミングの凄さは言うまでもありませんが、ベーシスト、ニック・ブラカのテクニックが素晴らしい。彼がチームの要となっているのもライヴでよくわかりました。そしてクールな表情のピアニスト、クリス・イリングウォースの従来のジャズ・ピアニストとは一味違う発想が、このグループならではの斬新なテイストを醸し出しているのも実感できました。なお、途中で音が歪んでいるように聴こえる部分がありますが、これは意図的にサウンドを加工しているのです。
文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)
USEN音楽配信サービス 「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」
東京・四谷にある老舗ジャズ喫茶いーぐるのスピーカーから流れる音をそのままに、店主でありジャズ評論家としても著名な後藤雅洋自身が選ぶ硬派なジャズをお届けしているUSENの音楽配信サービス「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」。毎夜22:00~24:00のコーナー「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」は、ビギナーからマニアまでが楽しめるテーマ設定でジャズの魅力をお届けしている。
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