トークから広がるふたりの世界観
司会進行役を担当したユナイテッドアローズの五十嵐保行氏から、「ファッションを好きになったきっかけは?」という最初の質問に対して窪氏の回答からトークセッションがスタート。「幼少時代に母親と横浜伊勢崎町にあった野澤屋の子供服店『VAN MINI』で買ってもらったサックスブルーのギンガムチェックのボタンダウンシャツが、ファッションを好きにきっかけだった」と窪氏。続いて栗野氏は、1960年代前半の小学生時代に映画好きだった母と映画館で見た西部劇を挙げ、「映画の衣装がファッション好きになったきっかけ」と話した。氏はさらにイギリスのバンド、ザ・ビートルズのファッションについても言及。彼らが時代を経て洋服や音楽に対するスタンスや自身の活動などが変わっていった話題を持ち出し、世の中に対する自身の感性のリアクションが洋服を決定している点を認識したと話す。
そしてトークは、70年代以降に購入した私物の紹介コーナーに。栗野氏は、80年くらいに買った「ビックマック」のシャンブレーシャツや「コールハーン」のローファー、「エミスフェール(HEMISPHERE)」のカシミアセーター、「ドリス・ヴァン・ノッテン」のスリーピース、「カラー(kolor)のドレスシャツ」などを紹介。窪氏もミッキーマウスのセーターとウェスタンシャツ、「リーバイス」のシャツジャケット、イギリス製のP&Oパーカー(ビームス界隈で人気のあった英国的フーデットパーカーの愛称)、ビームスボーイのニットベストなど、持参した数点の洋服を紹介した。
私物にまつわるさまざまな話の中から印象的だったのは、栗野氏が持参した90年に購入したイギリスの雑誌『i-D magazine』についてのトークだ。音楽とファッションなどのカルチャー、そして政治の話が全て並列の内容で、「すべての情報はそういう雑誌を通じて得ていた」との話題から、サッチャー政権下でのイギリスの時代の潮流とカルチャーの話へ。特にアーティスト、リー・バウリーの話題に触れ、「ロンドンのクラブカルチャーは自身に影響を与えた。それがあったからこそ僕らはここにいる」と話した。
そこから窪氏も、90年代のイギリスのザ・ハウス・オブ・ビューティー&カルチャーの話題を出し、「そのモチーフがなければ、いまのコム・デ・ギャルソンはないくらいの影響力」と話し、「この流れはすごく大事」とも。現在の「コム・デ・ギャルソン オム」の靴が、シューデザイナーで、ザ・ハウス・オブ・ビューティー&カルチャーの中心人物であるジョン・ムーアの弟子であった「キッズ・ラブ・ゲイト」のデザイナー山本真太郎氏を起用している点を挙げた。
ふたりの話はさらに続き、ファッションと時代の潮流との関係の話へ。栗野氏は、89年のベルリンの壁崩壊と80年代終わりのサッチャー政権終了、そして89年のマルタン・マルジェラのデビューに触れ、90年代は「新しいことをやる人が出やすい時代だった」と振り返る。そして、今の日本のファッションシーンが「90年代のアントワープに近い状態と見ている」とも。日本の生産背景におけるトレーサビリティー(追跡可能性)について、「それが現在のセレクトショップという業態を支えている」と語り、日本のセレクトショップの独自の進化について考察。「日本には世界からいろんな国の人が入ってきて、もっと面白くなったらいい」とも。さらに氏は、「2000年代以降の自分はカラーのデザイナー、阿部潤一氏だったのでは」と振り返ったのも印象的だった。
世の中の潮流とファッション
司会の五十嵐氏からの「ファッションの楽しさのお客様への伝え方について」という質問に対して、窪氏は、ブランドが持つストーリーや背景を伝えることの重要性を話しつつ、優れたブランドは縫製などの細かい部分にこだわっている点を挙げ、「時間がある時に洋服を裏返して見てほしい」と参加者に伝えた。栗野氏は、知識と知恵は違う点を挙げ、「知識が知恵化していくことでオリジナリティーになる。そういうクリエイティブな販売員になってほしい」と話した。さらに、窪氏の笑顔について触れ、「業界一だと思う」と。「みなさんも"あの人の笑顔がいいよね!"となった方がいい。真実はそんなに沢山ない」と答えた。
「これからのファッションにどのように向き合う?」という最後の質問については、「洋服が好きでいることが一番大切」と窪氏。栗野氏は、環境破壊と戦争が洋服を楽しめなくなるふたつの要素であることを挙げ、ファッションと社会潮流、政治とは関係しているという話から、知人に言われた"ファッションは平和産業である"という体験を話し、「平和な世の中でなければダメだから、選挙のこととかは自分のこととしてお考えいただきたい」と、今回のトークショーを締め括った。
服にまつわる思いを売る
参加者からは、「お客様にはカルチャーとして洋服を楽しんでほしい」や「知識の知恵化という話が響いた」「好きを見つめ直したい」「ファッションの歴史的、社会的背景を知った上で、自分の知識に変えて着こなしていきたい」など沢山の感想が相次ぎ、あらためて若い世代の心に響くようなトークショーとなったようだ。
最後にビームスの遠藤恵司氏による役員挨拶では、日も近かったこともあり、2026年3月11日で15年目を迎える東日本大震災において、震災当時、仙台市にあった3店舗の話に触れた。3店舗とも壊滅状態にあった中で、震災から3週間後で「まだ服など売れない」と思いながらも白石店をオープンさせたが、予想に反してたくさんのお客様が来店してくれたことを挙げ、来店者が自分の為ではなく、亡くなった親族や友人の為に好きだったビームスで買い物をしてお供えしたいという理由や、早く普通になりたいという思い、様々な思いから来店してくれたというエピソードを披露。「ビームスは服を売っているのではなく、服にまつわる思いをお客様に買ってもらっている」と、そして「これからもそれは変わってはいけない」とのエピソードで挨拶を締め括った。
会を終えて
栗野氏と窪氏による世の中の潮流とファッション、カルチャーの繋がりの話。体験を重ねてきたふたりだからこそできる話だけに、今後のファッション業界を担う次世代の参加者たちがそれをどう咀嚼して、どう生かしていけるのか。そして、彼らは今回得られた知識を、どう知恵に変換できるのか。期待したいところだ。
写真・取材・文/カネコヒデシ(BonVoyage)

カネコヒデシ
メディアディレクター、エディター&ライター、DJ。編集プロダクション「BonVoyage」主宰。
WEBマガジン「TYO magazine」編集長&発行人。「Japanese Soul」主宰。音楽イベントの企画、アパレルブランドのコンサルタント&アドバイザー、イベントのオーガナイズ、ラジオ番組制作&司会、選曲、DJなど活動は多岐にわたる。さまざまなメディアを使用した楽しいモノゴトを提案中。バーチャルとリアル、あらゆるメディアを縦横無尽に駆け巡る仕掛人。
