今シーズンもミラノは新クリエイティブ・ディレクターによる初コレクションが話題となった。マリア・グラツィア・キウリによる「フェンディ」、メリル・ロッゲの「マルニ」はデビューコレクションを発表。そしてデムナ・ヴァザリアによる「グッチ」は初ランウェイショーを行い、シルヴァーナ・アルマーニによる「ジョルジオ アルマーニ」は初のプレタポルテとなった。
全体的な流れとしては、ブランドの原点回帰や職人技の追求が見られた。イタリアらしい職人技を駆使したアイテムも多く登場していた。各々がブランドのレガシーを生かしつつ、日常を意識した着回しの提案やオンにもオフにも使えるようなワードローブの提案が見られた。また女性の多面性にフォーカスし、マスキュリンとフェミニン、ハードとソフト、インドアとアウトドアなどのコントラストをミックスしたコーディネートも見られた。それはウクライナの戦争が依然として続いており、さらにイラン・イスラエル戦争がミラノファッションウィーク中に勃発したような世界的に不安な状況において、突拍子もない提案やアバンギャルドなクリエーションに走るより、自らの原点に立ち戻り、よりウェアラブルな服やコーディネートを提案し、平和な日常でいられること、常に一人一人が自分らしく普通に振舞えることを願うかのようだ。全体的に黒が主流となるコレクションも、ファッションが守りに入っている雰囲気を感じる。
新デザイナーのデビューショーや本格的始動に注目
デムナによる初めてのランウェイショー「Gucci Primavera(グッチ・プリマベーラ)」を発表。この名もルネサンス期の画家ボッティチェリの作品からの命名かと思われ、ブランド発祥の地、フィレンツェで興ったルネッサンスに思いを馳せた人間性を追求したコレクションだ。デムナが目指したのは「誰もが楽しめて、日常を豊かにし、身に着けるだけで高揚が高まるアイテム。小難しい説明を必要とせず、そのものが魅力を放つ存在であること」。同時代の肉体美賞賛や古代ローマの衣服「トガ」を引用したワンショルダーのTシャツなども登場。トラックスーツとドレスを融合したモダンなトラックドレス、レギンスとパンツが一体化したデザインなどに加え、定番的な要素もあり、タイトなバブルブルゾン、トレンチ、ボンバージャケット、インターシャのシアリングバイカージャケットなども登場。トムの時代を彷彿させる、原点回帰的なコレクションで、長く続いたストリートやリラックス主流の時代から、ボディコンシャスへの新しい流れを起こしそうな予感だ。
マリア・グラツィア・キウリが古巣に戻って発表した初のコレクション。「Less I, more us (“私”よりも‟私たち”)」をモットーに、フェンディ家の 5 人姉妹の結束力とブランドの豊かな歴史への原点回帰的な世界観を描いた。「フェンディ」らしい職人技にフォーカスしたテーラリングや、精巧なカットを施したレザーやファー使いから、ライダースやデニム、カーゴなどのワークやカジュアルテイストまで揃う。メンズと呼応するようなジェンダーレスな融合も見られる。またミレッラ・ベンティヴォーリオのアーカイブからのリング やサグ ・ナポリによるメッセージ使いのピースなど、女性アーティス トたちとの協業で、文化的・芸術的な解釈も加えた。
メリル・ロッゲによるデビューコレクション。デザインデュオ、フォルマファンタズマによる日常生活のモチーフを描いたセットデザインに象徴されるように、創業当時の「マルニ」を彷彿させる親しみやすく温かい雰囲気を再現し昇華させた。アイレットとポルカドット、ファーテクスチャー、グラデーションのストライプ、バイアスチェック、パッチワークなど「マルニ」のシグニチャーを生かしつつ、ウエスタンテイストやウエスト部分に裏地を使うディテールなどメリルらしいひねりも加えた。近くには山がそびえるミラノを意識したマウンテンパーカやアノラックなどアウトドアテイストから、マザー・オブ・パールのスパンコールを使ったラグジュアリーなスタイルまで、様々な要素を入れ込んだ完成度の高いコレクションとなっている。
シルヴァーナ・アルマーニとレオ・デル・オルコが共同で手がけた初のメンズ・ウィメンズ合同コレクション。テーマは「MAESTRO(指揮者)」、指揮者を目指す学生が集う音楽学校がイメージソースだ。エンブレム付のブレザー、トレンチコートやテールコート、またはツイードやヘリンボーン、千鳥格子のテーラリングで英国的クラシックを演出。音楽学校のイメージを反映したような白シャツと黒のボトムのコーディネートが多数登場。その一方でデニムやバミューダショーツなど学生の雰囲気を醸し出すカジュアルなアイテムもし、ブランドのエレガンスは守りつつも、新たな幕開けを感じさせた。
「エンポリオ アルマーニ」に続き、シルヴァーナ・アルマーニが初めて手掛けたプレタポルテコレクション。「NEW HORIZONS(新たな展望)」をテーマに、柔らかさと構築的な要素を併せ持つシルエットが特徴。フランネルやカシミヤ、クレープ、ベルベットなど触り心地の良い素材、 アンコンシルエットにオーバーサイズの流れるようなシルエットが生きる。ブランドらしいベロアや玉虫効果の素材、着物風のジャケットなどブランドらしい東洋的な要素も生かされている。体を包み込む柔らかな着心地と、完璧さの中にひとしずくの不完全さを加えることで、完璧だったこれまでの世界観に新しい感覚をプラスした。
トレンドセッターたちも原点回帰やブランドらしさを追求
「INSIDE PRADA(インサイド プラダ)」をテーマに、女性の内なる多面性を描く。ショーは15人のモデルたちがそれぞれ4度ずつ登場し、アウターを替えたりアクセサリーを加えたりすることで計60ルックを構成するという、レイヤードの妙を見せる演出だ。歴史の積み重ねも暗喩し、アーカイブからのピースには、メンズにも登場したしわや汚れをあえてつけたり、ディストレス加工を加えたりしたアイテムや、ビンテージ風のシューズで経年劣化の美しさを表現。「服にヒエラルキーは付けない」という考えから、ビジューや刺しゅうを施したクチュールテイストのスカートや華奢なパンプスにあえてスポーツテイストやアウトドアギアを合わせて二面性を表現。前シーズンにも見られた「女性が主体的に服を選ぶ」という姿勢を進化させた。
「IDENTITY(アイデンティティー)」というテーマで、ブランドの本質を見つめなおしたコレクション。ほとんどのルックに黒を使い、テーラリング、レースや刺しゅうなどで「ドルチェ&ガッバーナ」のレガシーを物語る。テーラードアイテムはアワーグラス型に仕立てたり、ランジェリーとコーディネートしたりすることで官能性を強調。ラペルの広い構築的なメンズスーツやタキシードでマスキュリンとのミックスも見られる。後ろも前身頃のように仕立てたものや、前後逆にしたようなシルエットのジャケットやコートが特徴的だ。シチリアの職人技を彷彿させるレースや刺しゅう、クロシェ編みのドレスが多数登場する傍ら、小花のワンピースやダメージドデニムなどがロマンティックさやカジュアルさを添えていた。
1978年以降の約5万点におよぶ膨大なアーカイブ小道具たちがランウェイのセットに。パーティーの翌日のエネルギッシュな余韻を、あえてちぐはぐに乱れたようなルックで表現した。樹脂加工によりシワが焼き付けられたデニム類、特大サイズをあえて縮めたシワ加工のニット、ツイストされたTシャツや乱雑に巻きつけられたようなラップスカートやホットパンツなどが登場する。またプリントに箔加工を施し、その箔を部分的に剥がして下地の模様を浮かび上がらせたジャージートップやラップドレスから、パッチワークのファーコートやフラワーモチーフのプリントオンプリントのコーディネートまで、カラフルかつプレイフルな要素で「ディーゼル」らしいハッピームードを表現した。
通常は全員のモデルが一気に登場するフィナーレをショーの冒頭で行うという、意外な演出でスタート。フランス人アーティストのソフィ・カルがホテルでメイドを装って宿泊者の部屋を撮影した写真からのインスピレーションで、「日常的な女性らしさ」をテーマに女性服の美的要素を描写した。片方だけ袖を通してブラ見せをしたり、トラウザーズにルーズにカーディガンを巻いたりするコーディネートにも日常が垣間見られる。黒を基調に、ミニマルなウールツインセットやテーラードスーツ、ダウンやスパンコールのドレスが登場。ラミネートペーパー素材のスカート、ゴールドラメドレスなどきらびやかなアイテムから、リボンのイブニングドレスや小花モチーフのシフォンドレスなどロマンティックなアイテムまで様々に揃え、多様な女性像を表現した。
空間や時間の中で二つの要素の間に存在する、日本独特の「間の美学」がテーマ。特別なシーンと日常の間に存在するファッションの美学を、フォーマル、カジュアル、ワーク、スポーツを融合させて表現した。ミニプリーツスカートやフェザースカート、レイヤードフリルやフラワーモチーフなど、日本のアニメに出てくるような「カワイイ」テイストを軸に、花の刺繍のブルゾン、前立てがフリルになったチェックブラウスなどレトロな雰囲気もプラス。テーラードジャケットやミリタリーコート、レザーのボアジャケットやダウンジャケットなど様々なアイテムとコーディネートして絶妙の「間」を演出した。
ミラノのギャラリーを「自由にさまよう」イメージから生まれたコレクションを、現代芸術研究所のICA財団で発表。少女と大人の女性の間の揺れ動くバランスを表し、一つのシルエットに強さと繊細さが存在する。アワーグラス型のテーラードジャケットにはワイドパンツやボリューム感のあるレイヤードフレアドレスを組み合わせ、ミリタリー調のアウターにはラメやフラワーモチーフのドレスをコーディネートし、ナイロンなどのテクニカル素材とベルベットなど高級素材をミックス。こうして構築的かつ軽やか、硬さと流動性が同時に表現された。 ライムグリーン、サンオレンジ、ウルトラバイオレットなどの鮮やかなカラーとチョコレート色などのダークカラーのコントラストも強調されている。
原点回帰で本領発揮、イタリアの大御所ブランド達
「History and Modernity(歴史と現代性)」をテーマに「カノッサの屈辱」の仕掛人である11世紀イタリアの女性貴族、マティルダ・ディ・カノッサをミューズとしたコレクション。敏腕外交官かつ軍司令官であり、芸術のパトロンでもあったマティルダのイメージを、ブランドのアイコンコート「101801」に重ね、アウターに注力した。キャメル、カシミヤ、アルパカ、モヘア、上質なウール、光沢のあるダブルフェイスによるミリタリーテイストのマキシコート、ショルダーを強調したアワーグラス型コートやドレス、アイコニックなテディベアコートが登場。ミニのアイテムにはハイサイブーツを合わせて露出を押さえ、潔くパワフルな女性像を繰り広げた。
「イタリアン シグネチャー」をテーマに、職人技と最高品質の素材にフォーカスし、体を包み込むようなボディへの回帰を謳ったコレクション。ショー会場では、トッズの職人たちに加え、珊瑚、カメオ、金細工、漆喰、扇子などの職人たちがデモンストレーションを行った。「包み込む」要素は、デジタルプリントやパッチワークが施されたレザーのスカーフドレス、またはポニーや極薄レザーの大ぶりなポンチョ、レザーのアノラックに見られる。その一方でウエストマークしたビンテージ加工のカーフスキンのキルティングボンバーやワイドラペルのテーラードコートなども。細いベルトにはカスタマイズしてメタルでイニシャルを付けることが可能だ。
今シーズンもブランド創業期の1920年代にフォーカスし、当時の船乗りたちをアイデア源に船員服を再解釈、ネイビーとマスカルポーネ色を用いたセーラー風コートやピーコートには、たくさんのボタンや取り外し可能なパネルを用いて、フォルムを替えられるディテールが施されている。ニードルパンチのシフォンのノーティカルニット、ナッパレザーなどの素材で船員風のアイテムを再現したものも。また禁酒法時代であった20年代のスピークイージーのイメージから、箔加工を施したベルベットラメやフローラルジャカードのスリップドレス、コクーンシルエットのボリューミーなコートなども展開。ガーメントダイのオーガニックコットンキャンバスやリサイクルナイロン、エアロスプレー加工のキルティングレザーなど色褪せたような色彩で、時間の経過を表現した。
ミリタリーやテーラードのパワフルで構築的な要素と、スリップドレスの透け感やセンシュアルな要素、そして刺繍やレース、ファーを用いたラグジュアリーなクチュールテイストなどを交錯させて女性の多面性を描いたコレクション。ミリタリーコートの中にランジェリードレスやレースのミニドレス、テーラードジャケットやレザージャケットにはシフォンやレースのスカート、ゴージャスなファーコートにベビードールをあわせ、コーディネートにコントラストを利かせている。はめ込み装飾を施したファーコート、ゴールドのマクラメドレス、ビジューをあしらったドレスなどオートクチュールのような職人技が生きるアイテムが「エルマンノ・シェルビーノ」らしさを添えた。
「カントリークチュール」というキーワードで、英国調のカントリームードに、職人技が生きるクチュールの要素を加えたコレクション。日中と夜、屋内と屋外、マスキュリンとフェミニンといった相反するテイストを、それぞれの境界線をなくしたミックススタイルで提案する。チェック、ハウンドトゥース、プリンス・オブ・ウェールズ、ウィンドウペン、タータンといった英国調モチーフを刺繍、ジャガード、プリントシルク、シアーリングなど、様々な素材に使用。多数登場するニットはファー効果やフリンジ風に仕上げたり、スパンコールで装飾したり。テーラリングはマキシからミニ、オーバーサイズからタイトフィットまで、多彩なシルエットで展開し、ブランドのアイデンティティーを強調した。
今回は初めてモデル着用の形でプレゼンテーションを発表。とはいえ通常とは違い、モデルたちは皆、自然に振る舞い来場客と交流する。そんな自由な雰囲気は、機能性とスタイルを融合させたコレクションとも呼応する。コレクションは「バック・トゥ・ワーク」をテーマにボンバーやカラードデニムやなどのスポーティーアイテムからテーラードコートやパンツスーツなどのビジネススタイルを備えたシリーズ、カシミヤ、シルクカシミヤ、ベビーキャメルといった上質な素材を使い、ケープやマントなどの包み込むようなアウターも多数登場するラグジュアリーなカテゴリー、建築にインスピレーションを受け、構築的でミニマルなシルエットで、パディングやキルティングが施されたサテンの裏地やブラックで統一されたディテールが生きているモダンなカテゴリーで展開された。

写真/ブランド提供
取材・文/田中 美貴
<プロフィール>
大学卒業後、雑誌編集者として女性誌、男性ファッション誌等に携わった後、イタリアへ。現在ミラノ在住。ファッションを中心に、カルチャー、旅、食、デザイン&インテリアなどの記事を有名紙誌、WEB媒体に寄稿。コレクション取材歴約15年の経験を生かし、メンズ、ウイメンズのミラノコレクションのハイライト記事やインタビュー等を寄稿。 TV、広告などの撮影コーディネーションや、イタリアにおける日本企業のイベントのオーガナイズやPR、企業カタログ作成やプレスリリースの翻訳なども行う。 副業はベリーダンサー、ベリーダンス講師。
