レコード会社のプロデューサーは誰でもジャズ好きかというと、そうでもない。中にはビジネスと割り切って、ミュージシャンを安くこき使うプロデューサーも少なくない。そんな中で心底ジャズマンを愛したのが、ブルーノートのオーナー・プロデューサー、アルフレッド・ライオンだ。そして彼の凄いところは、大好きなジャズをきちんとビジネスとして成立させただけでなく、作品としても非常にクオリティの高いものをプロデュースしたことだ。
だから、シリーズ1回目でご紹介した「アルバムでたどるブルーノートの歴史」に登場するミュージシャンは、すべてライオンのお気に入りとも言える。まずブルーノートの看板のようなアートブレイキー。ハードバップのセッション・リーダーというイメージが強いブレイキーだが、ライオンは黒人音楽特有のダイナミックな打楽器奏者として彼を見ていた。ドイツ人であるライオンが、ジャズを「リズム」という極めてまっとうな観点から捉えていたのは非常に興味深い。
そんなライオンだから、私たちの感覚から言ったらラテン・ミュージックとしか聴こえないパーカッショニスト、サブーのアルバムも作ってしまう。この作品はジャズファンからは異端視されているが、ライオンはかなり乗り気だった。そして膨大なアルバムを残しているジミー・スミスも、彼の持つ黒人的でアーシーな魅力にライオンは惹かれた。
彼は新人ミュージシャンにも目を配り、どちらかというと地味なテナー奏者、ハンク・モブレイにもチャンスを与えた。もちろん、大物新人ソニー・ロリンズも好きなテナーで、彼のもっとも良いところを捉えようと、ヴィレッジ・ヴァンガードのライヴは周到に準備して録音された傑作である。
ピアノでは、まずバップ・ピアノの第一人者バド・パウエルに目を付け、ご存知のようにアメイジング・シリーズを5枚も制作している。そして、不遇時代のセロニアス・モンクをきちんと録音したのは慧眼というしかない。また、パウエルの影響を強く受けたホレス・シルヴァーもライオンのお気に入りだ。
ライオンの偉いところは、これと見込んだミュージシャンはとことん面倒を見るところで、アンドリュー・ヒルのことは引退してからも気にかけていたという。ソニー・クラークは日本では人気があるが、アメリカではさほど知られた存在ではない。そうしたミュージシャンでも、ライオンはサイドマンを含め、さまざまな形で起用した。
面白いのは、キャノンボール・アダレイ名義ながら実質はマイルス・デイヴィスの作品といっていい『サムシン・エルス』だろう。これは、不遇時代のマイルスを録音してくれたライオンに対する、マイルスの恩返し的な意味もあるアルバムである。
しかし、私が一番凄いと思うのは、一連の新主流派作品だろう。ハービー・ハンコック、ウエイン・ショーターなどの60年代の斬新な演奏は、ブルーノート・レコードがなかったら満足に記録さていなかったかもしれないのだ。そして、ライオンのジャズへの好奇心はフリー・ジャズにも及び、今回ご紹介したオーネット・コールマンはじめ、彼の盟友ドン・チェリー、そして、セシル・テイラーにまで及んでいる。
こうして改めてアルフレッド・ライオンの仕事を振り返ってみると、今まさにジャズ界に欠けているのが、彼のような心底ジャズ好きで、しかもミュージシャンの魅力、聴き所を的確に商品化する有能なプロデューサーの存在なのだと思う。
文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)
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