TOP FEATURE 連載 連載企画 ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門 第44回『ブルーノート特集 第3回 アルフレッド・ライオンの愛したミュージシャンたち』 連載企画 ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門 第44回『ブルーノート特集 第3回 アルフレッド・ライオンの愛したミュージシャンたち』 USEN音楽配信サービス番組「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)」の監修を務めているジャズ評論家として著名な後藤雅洋がお送りするジャズの入門者にもわかりやすい連載企画です。 連載 2023.03.28 SHARE レコード会社のプロデューサーは誰でもジャズ好きかというと、そうでもない。中にはビジネスと割り切って、ミュージシャンを安くこき使うプロデューサーも少なくない。そんな中で心底ジャズマンを愛したのが、ブルーノートのオーナー・プロデューサー、アルフレッド・ライオンだ。そして彼の凄いところは、大好きなジャズをきちんとビジネスとして成立させただけでなく、作品としても非常にクオリティの高いものをプロデュースしたことだ。 だから、シリーズ1回目でご紹介した「アルバムでたどるブルーノートの歴史」に登場するミュージシャンは、すべてライオンのお気に入りとも言える。まずブルーノートの看板のようなアートブレイキー。ハードバップのセッション・リーダーというイメージが強いブレイキーだが、ライオンは黒人音楽特有のダイナミックな打楽器奏者として彼を見ていた。ドイツ人であるライオンが、ジャズを「リズム」という極めてまっとうな観点から捉えていたのは非常に興味深い。 そんなライオンだから、私たちの感覚から言ったらラテン・ミュージックとしか聴こえないパーカッショニスト、サブーのアルバムも作ってしまう。この作品はジャズファンからは異端視されているが、ライオンはかなり乗り気だった。そして膨大なアルバムを残しているジミー・スミスも、彼の持つ黒人的でアーシーな魅力にライオンは惹かれた。 彼は新人ミュージシャンにも目を配り、どちらかというと地味なテナー奏者、ハンク・モブレイにもチャンスを与えた。もちろん、大物新人ソニー・ロリンズも好きなテナーで、彼のもっとも良いところを捉えようと、ヴィレッジ・ヴァンガードのライヴは周到に準備して録音された傑作である。 ピアノでは、まずバップ・ピアノの第一人者バド・パウエルに目を付け、ご存知のようにアメイジング・シリーズを5枚も制作している。そして、不遇時代のセロニアス・モンクをきちんと録音したのは慧眼というしかない。また、パウエルの影響を強く受けたホレス・シルヴァーもライオンのお気に入りだ。 ライオンの偉いところは、これと見込んだミュージシャンはとことん面倒を見るところで、アンドリュー・ヒルのことは引退してからも気にかけていたという。ソニー・クラークは日本では人気があるが、アメリカではさほど知られた存在ではない。そうしたミュージシャンでも、ライオンはサイドマンを含め、さまざまな形で起用した。 面白いのは、キャノンボール・アダレイ名義ながら実質はマイルス・デイヴィスの作品といっていい『サムシン・エルス』だろう。これは、不遇時代のマイルスを録音してくれたライオンに対する、マイルスの恩返し的な意味もあるアルバムである。 しかし、私が一番凄いと思うのは、一連の新主流派作品だろう。ハービー・ハンコック、ウエイン・ショーターなどの60年代の斬新な演奏は、ブルーノート・レコードがなかったら満足に記録さていなかったかもしれないのだ。そして、ライオンのジャズへの好奇心はフリー・ジャズにも及び、今回ご紹介したオーネット・コールマンはじめ、彼の盟友ドン・チェリー、そして、セシル・テイラーにまで及んでいる。 こうして改めてアルフレッド・ライオンの仕事を振り返ってみると、今まさにジャズ界に欠けているのが、彼のような心底ジャズ好きで、しかもミュージシャンの魅力、聴き所を的確に商品化する有能なプロデューサーの存在なのだと思う。 文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる) USEN音楽配信サービス 「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」 東京・四谷にある老舗ジャズ喫茶いーぐるのスピーカーから流れる音をそのままに、店主でありジャズ評論家としても著名な後藤雅洋自身が選ぶ硬派なジャズをお届けしているUSENの音楽配信サービス「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」。毎夜22:00~24:00のコーナー「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」は、ビギナーからマニアまでが楽しめるテーマ設定でジャズの魅力をお届けしている。USEN音楽配信サービス ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋) 関連リンク ジャズ喫茶いーぐる HP ジャズ喫茶いーぐる FACEBOOK いーぐる後藤のジャズ日記 こちらもおすすめ! 連載企画 ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門 第42回『ブルーノート特集 第1回 アルバムでたどるブルーノート・レーベルの歴史』 連載 2023.03.13 連載企画 ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門 第43回『ブルーノート特集 第2回 ジャズ喫茶でよくかかるブルーノート裏名盤』 連載 2023.03.22 連載企画 ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門 第7回「1954年のアルバム」 連載 2022.07.12 連載企画 ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門 第8回「1955年のアルバム」 連載 2022.07.19 連載企画 ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門 第9回「1956年のアルバム」 連載 2022.07.26 連載企画 ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門 第20回「ジャズレーベル完全入門~ブルーノート編」 連載 2022.10.11 一覧へ戻る