今回から、拙著『ジャズレーベル完全入門』(河出書房新社)をもとにし、さまざまなジャズレーベルをご紹介していく。第1回はご存知ブルーノート。

このレーベルの面白いところは、創立者のアルフレッド・ライオンがドイツ人であるというところだ。アメリカ文化を代表するジャズの、その中でも黒人優先主義を貫いたレーベルのオーナー・プロデューサーが外国人であるというところが、ブルーノートの性格を決めている。

つまり、ジャズに憧れた熱いファンの視線で、黒いものをより黒く提供することによって、ジャズのジャズらしさがクローズアップされたのだ。その姿勢はシャープなジャケットデザインから、ゴリッとした芯のある録音の音質まで一貫している。誰が見てもブルーノートとひと目でわかるトータル・プロダクツが、このレーベルをジャズの代表的存在へと押し上げたのだ。

ブルーノートの内容は大きく3つぐらいに分けられる。まずバド・パウエルを筆頭とする巨人たちのアルバムと、それに重なる黒人ハードバッパーの名盤群がブルーノートのレーベル・イメージの中核を形成している。いわゆるジャズ黄金期といわれた50年代60年代の傑作を大量に含むこの分野は、ブルーノートの華だ。

そして60年代になると、オーネット・コールマンやエリック・ドルフィーらの先端的な演奏も率先して吹き込み、最新のジャズを記録する先鋭な姿勢をみせた。三番目のウェイン・ショーター、トニー・ウィリアムスといったマイルス・バンド・サイドマンたちによるモード奏法を取り入れた“新主流派”と呼ばれるスタイルは、ブルーノートというレーベルがあったからこそ後世に記録が残ったともいえる。

冒頭の曲バド・パウエルの《ウン・ポコ・ロコ》は、まさにブルーノートの強烈な印象を象徴する名演だ。続くキャノンボール名義アルバム『サムシン・エルス』の《枯葉》は、実質的リーダーであるマイルスの演奏によってジャズのスタンダード・ナンバーに登録された。ブルーノートはライヴ・アルバムの傑作も多く、ロリンズの『ヴィレッジ・ヴァンガードの夜』は録音の迫力と相まって、ライヴの名盤の地位を獲得した。

ブルーノート唯一のコルトレーン作品『ブルートレーン』は、ハードバップ3管編成の決定盤的演奏、そしてファンキー・ジャズの代名詞的存在であるアート・ブレイキーの《モーニン》も一世を風靡した名曲だ。続くソニー・クラークの《クール・ストラッティン》は、かつてジャズ喫茶でこれがかかるとファンの大合唱が起こったといわれる伝説の曲。

後半に移って、エリック・ドルフィーの《ハット・アンド・ベアード》は大友良英が取り上げたことで再び注目された、いかにもドルフィーらしい異様な雰囲気を湛えた演奏。オーネットの演奏はブルーノートとしては珍しく、ストックホルムでのライヴ録音を購入した外注アルバム。

実を言うとブルーノートで最も多くアルバムを作ったのがジミー・スミス。彼がこのレーベルの経済的基盤を支えたのだ。そして最後、ショーター、トニー、ハッチャーソンの3曲は“新主流派”の代表的傑作だ。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

USEN音楽配信サービス 「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」

東京・四谷にある老舗ジャズ喫茶いーぐるのスピーカーから流れる音をそのままに、店主でありジャズ評論家としても著名な後藤雅洋自身が選ぶ硬派なジャズをお届けしているUSENの音楽配信サービス「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」。毎夜22:00~24:00のコーナー「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」は、ビギナーからマニアまでが楽しめるテーマ設定でジャズの魅力をお届けしている。

USEN音楽配信サービス ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)

関連リンク

一覧へ戻る