前回に引き続き、今回はベース特集の白人編をお送りしよう。

僕らのように1960年代からジャズを聴いてきた人間にとって、最初に現れた脅威の新人ベーシストはジャコではなく、ミロスラフ・ヴィトウスだった。

チェコ出身のヴィトウスは、後に同じヨーロッパ出身のキーボード奏者、ジョー・ザヴィヌルと組んで「ウエザー・リポート」を設立するのだが、その直前の姿を捉えたアルバム『インフィニティ・サーチ』には、彼の正確無比、そしてちょっとクールなベース・テクニックが余すところなく記録されている。

そのヴィトウスの後釜として「ウエザー・リポート」で注目を集めたジャコ・パストリアスは、歌伴をやっても突出した才能をみせている。ジョニ・ミッチェルの傑作『シャドウズ・アンド・ライト』の成功も、ジャコのベースが果たしている役割が大きい。誰にも真似のできないイマジネーション豊かな音色とフレーズがどんなにこのアルバムを素晴らしいものにしているか、じっくりと味わっていただきたい。

音色といえば、チャーリー・ヘイデンの深みのあるベース・サウンドも、一度聴いたら忘れられない。他のベーシストより、一オクターブも低い音が出ているんじゃないかと思わせるほどの低音の迫力は、彼だけのものだ。そしてそれが、単なるコケ脅しでない独自の音楽性に基づいているからこそ、繰り返し聴くに耐える内容になっている。『ジタン』はそうしたヘイデンのベース・サウンドが心行くまで堪能できる傑作だ。

ヴィトウスに限らず、ヨーロッパはクラシック音楽の伝統があるせいか優れたテクニックを持ったベーシストが多い。ニルス・へニング・オルステッド・ぺデルセンも、まるでギターを操るような早弾きでファンを驚かせたが、今回は「幻の名盤」といわれた『サヒブズ・ジャズ・パーティ』での珍しい演奏をお送りしよう。まだ17歳の彼が、後のスタイルとは異なる重厚なウォーキング・ベースを披露している。

一見地味な楽器であるベースの重要性を知らしめてくれるのが、レッド・ミッチェルだ。普通は単調になりやすいサックス1本だけの演奏も、彼のベースが加わるだけで躍動感豊かな音楽に一変する。アルト・サックスの巨匠リー・コニッツとのデュオ・アルバム『アイ・コンセントレイト・オン・ユー』は、ベースってこんなにもいろいろなことが出来たのかと、この楽器に対する認識を新たにさせてくれる名盤だ。

だが、こうしたベースの働きの革新には、スコット・ラファロという先人がいた。それまでリズムを刻み、コードを押さえることが唯一の役割と思われていたベース奏者が、積極的に演奏そのものに関与して行ったのだ。『ワルツ・フォー・デビー』の同日録音である『サンディ・アット・ザ・ヴィレジ・ヴァンガード』には、リーダーのビル・エヴァンスを刺激し、積極的なソロをとるラファロの名演奏が記録されている。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

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