銀座、日比谷、丸の内の3拠点ネットワークで世界に発信

「ザ・ノース・フェイス」は1983年に直営店の展開を始め、以来、1店1店が異なる空間デザインと品揃えの店作りを続けてきた。フォーマットに準じて出店するのではなく、立地やそこに集まる顧客が求めるモノやコトに応じてブランドや商品の価値が最も伝わる空間を追求する。徒歩圏にありながら客層が異なる銀座、日比谷、丸の内でも、その姿勢が貫かれている。
ギンザ シックスにある「ザ・ノース・フェイス アンリミテッド」は、「THE NORTH FACE PURPLE LABEL(ザ・ノース・フェイス パープルレーベル)」と「THE NORTH FACE URBAN EXPLORATION(ザ・ノース・フェイス アーバンエクスプロレーション)」を中心に、アウトドアフィールドで培った機能性と都市での生活・仕事に寄り添うデザイン性を掛け合わせ、「大人のアウトドアライフスタイル」を提案。東京ミッドタウン日比谷の「ザ・ノース・フェイス プレイ」は、アウトドアブランドの本質を追求したテクニカルなプロダクトを軸に、都市のライフスタイルをより楽しくする「遊び心」をホテルのような高級感ある空間で発信する。さらに丸の内エリアには、ランニングに特化した「THE NORTH FACE FLIGHT TOKYO(ザ・ノース・フェイス フライトトーキョー)」も展開している。
「ザ・ノース・フェイス丸の内」はこれら特定のテーマを深化させた直営店とは異なり、全カテゴリーで構成する、まさにブランドの世界観を発信する空間だ。東京駅と直結する新丸ビル4階のエスカレーター前に立地し、売り場面積は約520㎡に及ぶ。

左側は奥行きのある売り場が展開。ライフスタイルやランニング、キッズのゾーンが広がる
ザ・ノース・フェイス丸の内。右側はパープルレーベルのゾーン

ストアコンセプトは「Feel nature within yourself.――自分の中に自然を感じる」。東京という都市の玄関口に当たる立地で自然を感じ、店舗がフィールドへの起点になれるよう、都市と自然を調和させる空間を設計した。店舗の正面から奥へと柔らかなアールを描く窓に沿って、陳列スペースを配置。多様なカラーのウェアや植栽をレイアウトすることで、来店客は商品はもちろん、背景に広がる東京駅の煉瓦の駅舎など都市の風景も望むことができる。この大きな窓からは自然光が注ぎ、店内の間接照明と相まって優しいムードを醸し出す。什器には木や石、スチールを多用し、壁面は砂壁風の仕様で自然の質感を表現した。店作りでは原則的にプラスティックを排し、「土に還る素材を使う」というブランドの姿勢が感じられる。レジカウンター後ろの壁にはヨセミテ国立公園にある花崗岩の北壁「ハーフドーム」のモノクロ写真。登攀(とうはん)が困難で危険も伴う北壁はロッククライマーの聖地とされ、ザ・ノース・フェイスのブランド名(ノース=北、フェイス=壁)の由来でもある。北壁はロゴマークに3本ラインで表現され、ブランドのチャレンジ精神を象徴している。写真はブランド発祥のストーリーを伝えてくれる。

砂壁風に仕上げた壁面
緩やかに湾曲するウインドーに沿ってプロダクトを陳列、背景には東京駅の煉瓦の駅舎

ライフスタイル提案を軸に、全カテゴリーで都市と自然をつなぐ

エスカレーター側から来て最初に目にするのは、「THE NORTH FACE PURPLE LABEL(ザ・ノース・フェイス パープルレーベル)」のゾーン。代官山のセレクトショップ「nanamica(ナナミカ)」が手掛けるラインで、訪日外国人客の需要が多い商品群でもある。ギンザ シックスのアンリミテッドでもセレクトで提案しているが、丸の内店ではシーズンコレクションの大部分を網羅する。「これだけの品揃えをしている直営店は全国でも少ない」と店長の一場優美さん。取材時は2025年秋冬コレクションがほぼ出揃い、9月にかけてダウンウェアなどの冬物もラインナップされていく。ナナミカの店舗も無いエリアだけに、パープルレーベル目当ての来店客が増えそうだ。

オブジェや植栽は自然を感じさせる
シーズンコレクションを最も品揃えするパープルレーベルの売り場
25年秋冬コレクションのコーディネート
25年秋冬コレクションのコーディネート

パープルレーベルと隣接するのは、ライフスタイルカテゴリー。売り場中央のテーブルや壁面のラックにTシャツやシャツ、フーディー、パーカなどのウェア、バッグやシューズ、帽子、ウォーターボトルなど、「街でも山でも使える機能を備えたラインナップをバリエーション豊かに揃えた」。店奥右側にはキッズ・ベビーを集積する。近隣にキッズ・ベビーのショップが少ないこともあり、「出産祝いのセットなどをギフトとして購入するお客様がすごく多い」と、オープン早々から注目度の高い売り場になっている。店奥左側はランニングやトレッキングなどのプロダクトを揃える。「仕事帰りや休日にランニングをする、ジムに通う、休日には山に登るといったお客様が結構来店されます。館の1階に皇居ランをする人のためのランニングステーションがあることも、集客の促進要因になっていると感じます。結果、全体ではボリュームのあるライフスタイルの商品が動く一方、ランニングカテゴリーは想定以上に好調」となっている。

  • メインとなるライフスタイルゾーン
  • キッズ・ベビーゾーン
  • ギフト需要が多いベビー

丸の内店のもう一つの特徴は、ライフスタイルとキッズとランニングのゾーンの境にそびえる4面のシューズウォール。近隣エリアでは初の試みで、「ザ・ノース・フェイスってこんなにたくさん靴があるんだ」と好反応を得ている。ランニング、トレッキング、ライフスタイルとカテゴリーごとに陳列されているので選びやすく、試し履きする来店客が多い一画だ。「東京駅から山やフェスへ行く前に新品を購入したり、お気に入りを買い替えるというお客様が多く、複数購入もある」と一場さんは話す。

カテゴリーごとにシューズを集積
シューズは4面のウォールで提案

日本の伝統的な衣装や技術を生かし、現代のスタイルに

オープンに合わせて、和のデザインを取り入れたコレクション「JAPAN SPECIAL MAKEUP PRODUCTS(ジャパン スペシャル メイクアップ プロダクツ)」も先行発売した。今後も新たなプロダクトは丸の内店が先行して展開していく。
「S/S ShikkokuHakezomeSquare Logo Tee(ショートスリーブ シッコクハケゾメスクエア ロゴティー)」は、日本の伝統的な正装「黒紋付」の老舗染工場「京都紋付」とのコラボレーション。独自の「漆黒加工」で染め上げ、さらに職人が刷毛で抜染することで、一点一点に異なる表情を生んだ。生地には抗菌防臭と消臭の機能を備えた「マキシフレッシュ」を採用し、猛暑かつ長期化する夏にはうれしい一着だ。

職人が刷毛で抜染した漆黒加工のTシャツ
京都紋付の漆黒加工によるTシャツ

アルファベットを漢字のパーツとして構築した江戸文字「Kanji-Graphy(カンジグラフィー)」によるアートワークで人気のSNEAKERWOLF(スニーカーウルフ)とのコラボも面白い。ブランド名の「T」「N」「F」を組み合わせ、和テイストのグラフィックに。肌触りが良く速乾性に優れた「フラッシュドライネイチャー」を使ったTシャツ「S/S TNF Graphic Tee(ショートスリーブ ティーエヌエフ グラフィーティー)」と、オーガニックコットン製のトートバッグ「Organic Cotton Tote Marunouchi(オーガニックコットン トート マルノウチ)」を揃える。Tシャツはキッズサイズも展開し、家族などへのお土産に購入する人も多い。

「カンジグラフィー」のTシャツ(バック)
スニーカーウルフの「カンジグラフィー」を施したTシャツ(フロント)
「カンジグラフィー」のトートバッグ
「カンジグラフィー」のトートバッグ

今春夏コレクションとして発売した「COMPACT HAPPI JACKET(コンパクト ハッピジャケット)」もユニークだ。日本の伝統的な衣装「法被(はっぴ)」の直線的なシルエットを生かし、ブランドロゴの配置やカラーリングにより現代的なアウトドアウェアへとアップデートした。アウトドアでもストリートでも活躍する汎用性のあるデザインで、持ち運びも便利なパッカブル仕様。防風性を備えたナイロン素材と撥水性に優れたナイロン素材の2タイプがある。発売以来、「海外のお客様にも国内のお客様にも大ヒット」している。

「コンパクト ハッピジャケット」。アウトドアでもストリートでも活躍
「コンパクト ハッピジャケット」

プロダクトだけでなく、街と街の中の自然を案内する機能も備える

モノを充実させるだけでなく、コトの提案にも力を入れる。オープニングでは1970~90年代に開発されたザ・ノース・フェイス製品のアーカイブを揃え、特別に製作した什器で展示した。「ザ・ノース・フェイスの最初のオリジナル製品が寝袋だったことを知らない方々も多いと思うんですね。過去のチャレンジの積み重ねがあって今がある。丸の内店のオープンに際しては、ブランドのヒストリーを伝えようと、アーカイブ展示を企画しました」と、ゴールドウイン販売本部の大庭良治さん。ベテラン社員に呼びかけて10点を集め、売り場に点在させた。あえて混在させることで、来店客は過去と今をつなぐストーリーを体感することができる。「不定期になるが、店舗空間を活用したイベントは今後も企画していきたい」としている。

  • 丸の内店のオープニングで企画したザ・ノース・フェイスのアーカイブ展
  • 販売している今の商品とアーカイブを混在させて展示
  • 販売している今の商品とアーカイブを混在させて展示

日常的にも、「お客様が都市や自然を体験するきっかけを提供し、お出掛けや旅をサポートするコンシェルジュのような機能を充実させていく」と大庭さんは話す。すでに白馬やニセコ、石垣島、知床といったフィールド型店舗では常設している機能で、丸の内店ではその都市版となる「アーバンデスクのような形で街や、街の中の自然をご案内」し、コミュニケーションを通じて顧客との関係を構築していく考えだ。そのツールとして、丸の内を起点としたイースト東京エリアの魅力や歴史、スタッフがお薦めするスポットなどを紹介するミニ冊子「MARUNOUCHI EXPLORE(マルノウチ エクスプロア)」を制作し、来店客に配布している。テーマを設定し、年2回ほど発行する。

「MARUNOUCHI EXPLORE」Vol.1

オープンして間もないため今後は変化も予想されるが、平日は近隣の会社に勤める人たちの来店が多く、「入店数では他の店舗と比べ女性のお客様が多い印象」と一場さん。「週末に山登りやキャンプなどを予定していて必要な物を購入したり、実家に帰省するのでギフトとしてTシャツなどを購入するお客様が結構いらっしゃいます」。土日には家族連れや遠方からの来店客がグッと増える。訪日外国人客は界隈のホテルに宿泊する人たちが夕方以降、食事のついでに立ち寄って買い物を楽しむ。銀座ほどインバウンド比率の高い館ではないが、売り上げベースで全体の10%程度、日販では20%に届く日もあり、今後が期待される。また、「北海道や九州など様々な地域から商品のお取り置きの電話がある」のは丸の内店ならでは。東京駅を利用する日時に合わせて受け取りに来店する顧客が多く、「お取り置きの要望は驚くほど」という。
モノとコトの両面で「入り口」が多様に在る丸の内店。アウトドアウェアの機能美から都市生活に寄り添うスタイルまで幅広く奥行きのある品揃え、ブランドと親和性のあるカルチャーの発信、コンシェルジュ的なパーソナル対応を掛け合わせ、丸の内店だからこその体験価値を提供していく。

写真/遠藤純、ゴールドウイン提供
取材・文/久保雅裕

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久保雅裕(くぼ まさひろ)encoremodeコントリビューティングエディター。ウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。元杉野服飾大学特任教授。東京ファッションデザイナー協議会 代表理事・議長。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。

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