前回、「ハードバップって何?」という話をした。だけど「テーマとアドリブの有機的関係」とか「洗練されたビ・バップ」なんて言われても、アタマでは理解できてもそれが実際どんな感じなのかは、今ひとつ実感がわかないんじゃなかろうか。どうもコトバだけでは伝わりきらないところがある。マニアたちの言う「ハードバップならではの気持ちよさ」を体感するには、典型的なハードバップ・アルバムを何枚も聴くのが一番だ。

ところで、前回ご紹介したマイルス・デイヴィスやセロニアス・モンクといった人たちの音楽は、ハードバップというスタイルの原理を明確に示している一方で、彼らの個性が強く現れた、“マイルス・ミュージック”“モンクス・ミュージック”という側面も無視できない。だから慣れないと、彼らの音楽のどういうところがハードバップ的なのかがかえって見えにくいかもしれない。

そこでマイルスやモンクの方法論を自分たちのものとした、「フツーのジャズマン」の演奏の方が、むしろハードバップ・フォーマットの感じを掴むには適している。そしてその手のアルバムの宝庫が、ご存知ブルーノート・レーベルなのである。このレーベルはリハーサルをじっくりと行い、ハードバップならではの曲の魅力をクッキリと浮かび上がらせたアルバムが多いのだ。

たとえばデューク・ジョーダンの『フライト・トゥ・ジョーダン』などは、イギリス育ちの渋い黒人トランペッター、ディジー・リースと、典型的黒人フィーリングの持ち主、スタンレー・タレンタインのテナー・サックスによる2管テーマが醸し出す、ちょっとマイナーな気分が凄くハードバップ的。タイトル曲などはまさにテーマとアドリブの調和によって、統一の取れた曲想の魅力が浮かび上がってくる。アドリブ一発が勝負のビ・バップにこういうタイプのまとまった演奏は見られない。

またデクスター・ゴードンの『ゴー』冒頭の曲、「チーズケーキ」もマイナー調のテーマをゴードンが気持ちよく吹き上げ、そこからアドリブに自然に移行する。ここでも曲の魅力がソロの魅力につながり、それがミュージシャンの個性を現すという、有機的連関が成立している。

もっともハードバップはマイナーと決まったものではなく、ジャッキー・マクリーンの傑作『スイング・スワング・スインギン』に収録された「アイ・ラヴ・ユー」などは、明るく軽快なメロディがマクリーンのアルトによって快適に歌い上げられている。そしてブルーノート・ハードバップの極め付き的なピアニストに、ホレス・パーランがいる。彼のアルバム『アス・スリー』タイトル曲の黒々とした気配こそ、ハードバップ・ピアノの真髄なのである。もうここまで来ると、曲の良さ、ソロの魅力、ミュージシャンの個性が不可分なほど一体化しているのがお分かりいただけるだろう。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

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