杏子、山崎まさよし、スキマスイッチ、秦 基博など数々の有名アーティストが所属するオフィスオーガスタは、2021年11月2日に設立30年目を迎えました。「この節目の年に、アーティストや共に音楽を届けてくださるスタッフの皆様、そして何よりオフィスオーガスタの発信する音楽を愛し、応援してくださるリスナーの皆様へ、改めて感謝とエールを送りたい」という思いを「MUSIC BATON」と言うタイトルに込め、この一年を通して様々なライブをお届けしていきます。
今年11月に設立30周年を迎えるオフィスオーガスタが、昨秋からスタートした30周年記念イヤーライブシリーズ「MUSIC BATON」。Vol.1のThree Of Us（杏子、山崎まさよし、松室政哉）から、大橋卓弥、浜端ヨウヘイとつながれたバトンを受け取ったのは、大野雄二トリオ。一連の「ルパン三世」シリーズを彩る名曲たちを生んだことで知られる、伝説のピアニスト／コンポーザー／アレンジャー＝大野雄二が率いるジャズトリオだ。
第2部の開演時間になり、ブルーノート東京が静かな期待感で満ちていく。やがて、3人のメンバーがフロアに姿を見せ、ステージへと向かう。ステージには、グランドピアノとウッドベース、そして小ぶりのドラムセット。メンバーがそれぞれの楽器の前に位置して準備をする。一瞬の静寂がブルーノート東京を包んだその次の瞬間、待ちに待ったライブがスタートした。
1曲目は、ジャズのスタンダードナンバー「C Jam Blues」だ。洒脱な音色を奏でるピアノと、最小限の音数でリズムを生み出すドラムとベース。そこから徐々に勢いを増して演奏は熱を帯びながら、やがて落ち着いたトーンへと戻っていく。緩急自在の演奏が表現するジャズの魅力に、冒頭から一気に引き込まれた。「C Jam Blues」の演奏が終わると、大野は立ち上がってMC。大野雄二トリオとしては2年ぶりのライブであることを伝えつつ、「だから、すべて忘れた」と茶目っ気たっぷりにうそぶきながら、「とりあえず、何かあっても一つよろしく」と笑顔交じりで語る。
続いて演奏されたのは、アントニオ・カルロス・ジョビンの作曲で知られる同名映画の劇中曲「黒いオルフェ」。もの悲しげなピアノの旋律で幕を開け、ロマンティックに展開していく演奏にうっとりと聴き惚れてしまう。3曲目は、そんな雰囲気から一転して、ジャズのスタンダードナンバー「CUTE」を披露し、軽妙さの中に弾けるような音楽の楽しさがあふれ出していく。大野のピアノと会話するように、音を交歓するドラムとベース。立ち上がってピアノを弾く大野の姿からも、3人で演奏する楽しさが伝わってくる。続くMCでは、「忘れないように」と笑いを交えながら、大野がメンバーを紹介していく。「トリオにぴったりの素晴らしいドラムを叩く」と紹介された、ドラマーの市原康、「こんな正直な音を出す人を知りません」と紹介された、ベーシストの上村信。2人を紹介する大野の言葉から、2人への全幅の信頼が伝わった。
メンバー紹介を交えたMCのあとは、チェット・ベイカーで知られる名バラード「You Don’t Know What Love is…」、「ルパン三世」パート5のエンディングテーマ「セーヌの風に…（ADIEU）」をしっとりと披露。その後、おもむろに楽譜をたぐりながら、「犬神家、やりますか」とつぶやき、映画「犬神家の一族」の「愛のバラード」が演奏され、そのまま「ルパン三世」の「愛のテーマ」へ。2曲ともリリカルなピアノのタッチで主旋律を奏で、ドラマティックな雰囲気を醸し出すが、曲中ではスリリングなアドリブでのセッションも展開され、トリオが持つ振り幅の広さと音楽の自由さを表現してくれた。そして、本編ラストを飾ったのは、やはり「ルパン三世のテーマ」。ドラムとベースのリズム隊から演奏がスタートし、ほどなく多くの人々が胸を躍らせたあのフレーズを弾くピアノのメロデイが響き渡る。演奏中は、左手でコードを弾き、右手の肘で鍵盤を叩くなど、アグレッシブなプレイも印象に残った。
本編後も鳴り止まない拍手に応え、一人でステージへと戻ってきた大野。楽譜を見ながら、「どっちにしようかな。やっぱり……」と最後のナンバーに選んだのは、映画『ルパン三世 カリオストロの城』の主題歌「炎のたからもの」だった。ピアノ一本で奏でられる多くの人の記憶に残る名曲は、たまらなく切なくもエレガントで、あっという間だった至福の時間に豊かな余韻を残してくれた。
ライブを見終えた後に、キャリアを重ねてもなお、名声を得てもなお、どこまでも楽しそうにピアノを奏でる大野雄二の姿を思い出す。この日のライブのMCでは、「（トリオだと）ピアニストの血が騒ぐ。ピアノが好きなんですよね。（ピアニストの血が騒ぐと、いつもとは）凶暴さが違ってくる（笑）」と本人は語っていたが、その言葉に偽りはないのだなと思う。そのぐらい、この日のピアノは無邪気で瑞々しく、時に凶暴で、つまりはピアニストの血が騒いでいて、とてもとても素晴らしかった。
大野雄二トリオ『LUPIN THE THIRD JAZZ』 2nd Stage SET LIST
M1.C Jam Blues
M2.黒いオルフェ
M3.CUTE
M4.You Don’t Know What Love Is...
M5.セーヌの風に...(ADIEU)
M6.犬神家の一族「愛のバラード」
M7.ルパン三世「愛のテーマ」
M8.ルパン三世のテーマ
En.炎のたからもの (ピアノソロ)
大野雄二（Pf）／上村信（Bs）／市原康（Dr）
┗2022年2月26日（土）＠BLUE NOTE TOKYO
- 取材・文／大久保和則
- 写真／清水ケンシロウ
Office Augusta 30th MUSIC BATON Vol.5
長澤知之『世界は変わる』
出演：長澤知之
バンドメンバー：宮崎遊（Gt） / 細海魚（Key）
日程：2022年3月11日（金）
会場：東京・duo MUSIC EXCHANGE
Office Augusta 30th MUSIC BATON
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