ブランドフィロソフィーを問い直し、正しく価値を提供する

ネキストが運営する「ネストローブ/コンフェクト」は現在、国内に15店舗(EC含む)を展開し、うち6店舗が路面店。直営・路面店を軸に、糸の選定・開発に始まり、染め、織り、縫製など全ての工程にこだわったネストローブの服の魅力を伝えるため、ブランド名にある「nest」が意味する「鳥の巣、居心地の良い場所、屋根裏部屋……」のイメージを空間として体現してきた。
旗艦店と位置づける表参道店は象徴的だ。ネストをキーワードに、屋根裏部屋のようなムードを持った空間を目指した」と木戸英佑社長。植物が覆うビンテージ感のある白い木組みの小屋風のファサードは、居心地の良い巣を想起させる。このアプローチを抜けてエントランスを入ると、コンフェクトのフロア。自然木や煉瓦などを使い、トラッドで温もりのある空間を設えた。木製の階段を上り、ネストローブのフロアへ。木の梁やフローリングの床にはビンテージ感を演出し、木の什器と組み合わせることで自然で優しい空気感を生んだ。大きな窓からの自然光はゆったりとした時間の流れを感じさせる。

ネストローブ/コンフェクト表参道店。1階と2階がショップ、3階はアトリエ

表参道店を出店したのはブランドデビューから4年後のことだった。最初の店舗は青山に出店し、「半地下の18坪ほどの小さな空間で、初めての試みということもあり、緊張感を抱きながらのスタートだった」と木戸社長。当時のトレンドとも重なり、天然のリネンを素材とするナチュラルテイストの服は多くの支持を得て、認知を拡大。顧客もついてきて、メンズブランドのコンフェクトを立ち上げた09年に表参道に移転した。MDは両ブランドの服はもとより、親和性やコーディネート性を備えたテイストの服や小物などのセレクトアイテムで構成。当初はオリジナルアイテムが少なかったため、セレクトが中心だったという。「スローメイド」による作り込みで徐々にオリジナルを拡充し、現在に至っている。
その表参道店のVMDを今年1月、刷新した。1階がコンフェクト、2階がネストローブという構成は変わらないが、「物作りへのこだわりがお客様に正しい形で伝わるよう見直した」。ブランド初期のコンセプトが反映された外装・内装はそのままに、商品の見せ方を改めて考えた。

クラシカルな階段を昇って2階へ
1階「コンフェクト」のフロア
ビンテージ感と自然の温もりを感じさせる(ネストローブ
2階「ネストローブ」のフロア

昨年はネストローブが20周年、ネキストが75周年。節目を機に、ブランドとして、また会社として、どこを目指し、どのような価値をお客様に提供するのかを改めて考える機会になりました」とネキスト社外取締役の藤内裕司さん。「ブランドを設立した当時の原点に立ち返って、ブランドフィロソフィーや社会とどういう接点を持ちたかったのかを問い直す必要があると思ったんです。ブランドが本来持つ余白を作っていくというか。その取り組みの一つとしてVMDの見直しを行いました」。

  • コンフェクト
  • コンフェクト
  • コンフェクト
  • ネストローブ
  • ネストローブ
  • ネストローブ

原点に立ち返り、ブランドの強みを改めて考え、再構築する

ネストローブが誕生した背景には、1980年代後半以降の円高の進行と共に急増したアパレル製品の海外生産があった。ネキストは肌着の縫製工場として1950年に創業し、80~90年代には大手アパレルメーカーのアウターを中心にOEMを担っていた。「もともと競合が多いうえ、低コストな海外生産へのシフトが進み、私たち川中の製造業の仕事が減っていったんです。価格競争が激化し、加工賃への圧迫も強まりました。一方で、SPAが台頭してきた時期でもありました。生産現場を安定させるには、加工賃に依存せず、一歩前へ出るしかないと思った」と木戸社長。
専門分野である縫製をはじめ、パターンやデザインの技術もすでに蓄積していた。そのうえに新たにデザイナーやMDを採用し、クリエイションの態勢を整えた。自社工場での国内生産、糸から織り、染め、編み、縫製など一気通貫したクラフトマンシップによる丁寧な物作り、天然素材を中心とした生地使い、流行や世代に関係なく長く大切に着てもらえる上質な服といったネストローブの原形ができていった。この考え方が後に「スローメイド・イン・ジャパン」へと収斂されていくことになる。

天然素材の中でもリネンを軸に据えたのは、2年目の秋冬シーズンに春夏の素材として使われることが一般的だったリネンで厚手の生地を織り、コートを製作したことがきっかけ。これが「お客様からご好評をいただけた」。すると、リネンを使った新たな服を望む声が多く寄せられるようになった。顧客の声を大事にしながらリネンを中心とした服作りに注力することで、ネストローブの「個性」が確立されていった。フェミニンなワンピースにメンズのジャケットや革靴を合わせるといった提案も共感を集め、ネストローブのスタイルとして定着。そこからネストローブが考えるメンズ服としてトラッドをベースとしたコンフェクトが生まれ、メンズ、ウィメンズの展開への道が拓けた。服の提案だけでなく、できるだけ長く着用してもらうため、オリジナルアイテムに関しては修理に対応しているのもブランドの思いを感じさせる(※一部承っていない内容も有り)。
ネストローブらしさが醸成された初期のコンセプトに立ち返り、ブランドとしての強みを改めて考え、再構築していくことが、「これから」へ向けたネストローブ/コンフェクトの重点課題だ。「今後はデジタルプロダクトパスポート(DPP)の法制化も進んでいくと思います。弊社のブランドは原料から最終製品まで履歴がたどれ、循環性に関してもリネンの裁断くずを再生した糸で生地を織り、新たな商品を作る『UpcycleLino(アップサイクルリノ)』の仕組みを構築し、継続しています。適合性は高いと思うんですね。そうした強みを生かしていくためにも、パートナーシップ工場を含めた物作りそのものの強化、店頭との連携による情報の収集・分析に基づく生産・供給のための組織作りなど、全てを少しずつ改善しているところです」と藤内さんは話す。

アップサイクルリノ
「アップサイクルリノ」プロジェクトを通じて、リサイクル糸を生かし、国内の様々なメーカーと共に生地を開発し、製品化している

リネンを中心に天然素材の可能性を引き出す

特徴的なアイテムとして「リネンヘリンボーントレンチコート」がある。表地は仏ノルマンディ地方のリネンを原料にした麻100%。ナチュラルカラーとダークグリーンの2色展開で、経糸は生成りのリネン、緯糸はナチュラルカラーにはホワイトリネン、ダークグリーンには糸染めしたリネンを使い、ミニヘリンボーンに織り上げた。裏地は綿100%。麻ならではの自然な柔らかさと通気性を兼ね備え、着るほどに柔らかく馴染んでくる一着だ。

「リネンヘリンボーントレンチコート」

ネストローブのプレスでSNS等の発信で幅広い世代から人気の滝口和代さんが企画したコレクション「epoch(エポック)」も注目。黒を基調としたロングジレとリネンのサスペンダースカート、ガンジーニットのプルオーバー、「epoch」の手書き文字を刺繍で表現したロングスリーブTシャツの4型を揃える。ロングジレはビンテージジャケットをベースとし、ピークドラペルにレザー製の力ボタン、程よいボリューム感のあるシルエットなどデザインとパターンにこだわった。サスペンダースカートは、フロントにタックを施したボリューム感たっぷりのフレアスカート。紐で丈やウエスト幅を自在に調整でき、様々な体型に馴染む。プルオーバーは、イギリスのガンジー島で漁師たちの作業着として生まれたガンジーニットのデザインを、コットン100%の糸を使い、新潟県五泉市のニット工場で編み上げた。ニットも、天然素材によるメイド・イン・ジャパンのアイテムとして昨年から充実させている。
今季はコットンリネン地にフラワープリントを施したブラウスやワンピース、パンツ、エプロン巾着なども提案し、好評だ。フラワーパターンのモチーフは麻の花なのだとか。

  • 「エポック」のコーディネート
  • 五泉のニット工場で編み上げたプルオーバーも展開
  • 麻の花をモチーフにしたフラワーパターン

コンフェクトは今春、生地の質感に着目し、顔料プリントの新作などを投入した。「カラーリネン 墨コーティングシャツ」は、生地の表面のみに墨顔料でプリントしたまさに墨コーティング。素材はリネン100%で、経糸は生成り、緯糸はビビッドな色に染めた糸を使い、生地に立体感と奥行きを表現した。その生地の表面に墨顔料プリントを施して、裏面は元の生地の色味を残し、さらに製品段階で洗いをかけることでフェード感を出した。同素材のチャイナ釦を採用し、シャツアウターとしての一体感と軽さを生んでいる。ビンテージ感のあるアイテムだが、着続けることで経年変化により味わいが増し、自分だけの一着へと育っていくまでを想定した一着だ。

顔料プリントの新作「カラーリネン 墨コーティングシャツ」(コンフェクト)

フランス発の老舗シューズブランド「PATRICK(パトリック)」とのコラボレーションシューズは、「スニーカー×服地」の野心作。強度試験を重ね商品化した。ベースとしたのは1980年代からの人気定番モデル「ARTOIS-OG(アートイス オリジン)」。ネストローブ/コンフェクトがコートやジャケット、ボトムなどに使用してきたリネン100%の太番手キャンバスからブラックをチョイスしてアッパーに用い、パトリックを象徴する「2本ライン」やシュータンなどにグレーのステア(牛革)やステッチを施すことで、ネストローブ/コンフェクトの服に馴染む柔らかなコントラストを生んだ。ネストローブ/コンフェクトのブランドネーム入りのリネン巾着も付属する。

パトリックとのコラボスニーカー「アートイス オリジン」

今後、「ブランドについては立ち位置をより明確にし、改めてブランド理念やフィロソフィーを作り上げ、ネキストについては物作りと組織の強化を進め、100年企業への基盤を築いていく」と藤内さん。新たなショップの出店を今夏以降に計画している。

写真/野﨑慧嗣、ネキスト提供
取材・文/久保雅裕

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久保雅裕(くぼ まさひろ)encoremodeコントリビューティングエディター。ウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。元杉野服飾大学特任教授。東京ファッションデザイナー協議会 代表理事・議長。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。

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