──最初に2026年 1月期放送のテレビアニメ2作品のオープニング主題歌を担当することになった心境から聞かせてください。

「これまでアニメやゲームなどの主題歌を担当させていただく機会は何度かあったです、同時期に2作品というのは未だかつてないことだったので、すごく嬉しかったです。それだけ多くのに自分の歌を届けられるのかもしれないということもすごく光栄に感じていました。私はアニメのことを思い浮かべるときに、その楽曲も一緒に思い浮かんだりするので、アニメ主題歌は作品にとってとても大切なものだと思っていて。1つのアニメ作品を完成させるための必要なピースとして私の歌を選んでもらえたこと、私が誰かの作品を完成させる上で役に立てることが一番嬉しかったです」

──では、一作品ずつお話を伺っていきたいのですが、まず、『魔術師クノンは見えている』の原作を読んでどう感じましたか?

「私が最初に触れたのはマンガだったんですけど、タイトル的にすごくシリアスな作品なのかな?と思っていました。目が見えないクノンくんは塞ぎ込んだような性格からスタートするんですけど、周りの人の支えもあって、ユーモアあふれる人に成長していきます。でも、その成長のスピードがすごく速くて(笑)」

──あはははは。

「原作やコミックスを読んでいる皆さんは早々に体験したことかな?と思いますが、“あ、こっちの方面なんだ”というパンチ力がまずあって。そこからお話がどんどん進んでいく中で、魔法の深みも感じられて、いろんな楽しみ方がある作品だと思いました」

──いろいろな楽しみ方がある中で、ヰ世界情緒さんが特に魅力を感じたり、共感した部分はどんなところでしたか?

「2つあって。1つ目は先ほど言った、魔法自体に対する深みがすごく面白いと思いました。私だったら、例えば、水の魔法なら水を出すとか、水を誰かにぶつけるといった魔法が思い浮かびます。でも、クノンくん、出した水をどう転用していくのかが自分固有の魔法に繋がっていくんです。そういう風に魔法はどんどん研究されていきますし、進化していくところにすごくリアリティがあって。そういった面白さがあると思いました」

──もう1つは?

「目が見えない困難を魔法で解決できるように頑張っていくお話ではあるんですけど、自分ではどうしようもない壁に向かって立ち向かっていく人の気持ちは私の普段の日常の中でもすごく共感できる部分があって。今回のOP主題歌もそういった芯の強さを込められるように歌いました。そこも、すごく共感できたと思う部分です」

──それは、荘厳なコーラスも入っているアップテンポのロックナンバーのオープニング主題歌「ラケナリアの夢」の歌詞とも通じる部分ですね。

「そうですね。何か一つの大きい壁があって…そこに何度も挑み続ける人の心情が描かれている感覚がしました。その壁に挑み続けて、失敗するときもあるし、少し成功するときもある。反復横跳びをしている感じが私はすごく共感しましたし、この楽曲のいいところだと思っています。そうやって揺れ動きながらも、勢いよく前進する様子が歌詞に表れている気がして。なので、その部分は大切に歌わせていただきました」

──ヰ世界情緒さんが日々の暮らしの中で感じている大きな壁というのはどのようなものなんでしょうか?

「表現するのが難しいですけど、私は創作することがすごく好きで。歌をメインに活動をしているのですが、イラストや声優など、自分のできることで表現しながら創作活動をしていくのが好きなんです。でも、その中で自分が思うように表現ができなかったり、思うように自分の体が動かないこともあって。それはやっぱり…なんだろうな? うーん、なんて言うんでしょう? 自分の心の中だけで起こっていたりする問題もたくさんあったりするんですけど…」

──人からは見えないけど、創作における内面の大きな壁があるんですね。

「そうですね。そういった悩みは本当にすごく大きくて。やっぱり簡単に乗り越えられるものではないので私は今、活動し始めて7年目になるんですけど、7年間、ずっと抱え続けています。歌詞に<焦がれて>というワードがあるんですけど、“ただひたむきに頑張る”ではなくて、“まさしく焦がれるんだよな”というところにすごく共感してしまいました」

──“頑張る”ではなくて、“焦がれる”なんですね。

「はい。言い方が難しいですね…これは私の世界観の話になってしまうんですけど」

──ヰ世界情緒さんの世界観が知りたいです。

「嬉しいです。自分の家にドアがあるじゃないですか。鍵の上にチェーンが付いていて。チェーンを付けたまま鍵を開けて、ドアを開けると、チェーンが付いているから、あまり開けられない。その隙間から一生、手を伸ばし続けてるみたいな感覚があって。私はそういう世界観の中に生きているようなところがあって」

──そのドアは7年間、1度も開いていないんですか?

「いろいろあります。開いたと思ったら夢だった。そんな時もありますし、意志の力で少し動く時もあって。でも、基本的にはすごく硬い壁ではあります。でも、活動の中でそこを突破することが一番の目標かもしれないです」

──抽象的なものかもしれないんですが、そこを突破した先にある目標とはどんなものなのでしょうか?

「言葉にすると、頭の中に思い浮かんでいる景色や、行きたいと思っている場所、素晴らしいと思っているものを、より解像度高く伝えるのが私の一番の夢です。そこに向かって、私の歌やイラストはあってほしいと思っています。より解像度の高い形にすることが私の目標ですし、それをみなさんに受け取っていただいてそれだけでもとても嬉しいけれど、思いを重ねてくれる方がいるなら、それはどんなに美しい光景なんだろうと思います。ができている側面もあるだろうし、私自身が“まだまだ足りない”と思っているところもあるので、自分にとっての壁でもあります。でも、ずっと何年も取り組んでいることだから、逆にファンの皆さんにとっては楽しんでいただけている部分でもあるのかな?と思ったりはします」

──「ラケナリアの夢」を通して見せたかった景色というのはどんなものなんでしょうか?

「この曲自体には、“こういった景色に導きたい”というものはあまりなくて…そこに向かう過程の気持ちを一番強く描きたかったんです。それは私が共感しているものでもあって、きっとこの楽曲を受け取るの中にも、そういった焦燥感のようなものを抱えつつもがいてる人はたくさんいると思います。それは日々、ファンの方たちの言葉を見ていて思うことでもあります。そういったたちをより後押しできるような、元気づけられるような追い風になるといいないう気持ちです」

──楽曲が完成してアニメの絵に付いたものを観てどう感じましたか?

「歌っている過程では私の想いやクノンの気持ちを中心に考えていました。でも、色々なキャラクターが登場するアニメのオープニングを観た時に、その一人一人、いろんなキャラクターの人生が少しずつ楽曲に乗ったような感覚になりました。それはアニメのオープニングを通してじゃないと得られない体験だったので、すごく感動しました。なので、クノンだけではなく、色々なキャラクターたち全体を象徴する楽曲になっていたら嬉しいですね」

──タイトルについても少しお話ししたいのですが、ラケナリアという花は、蕾から開花するまでに色を変化させますよね。クノンくんは盲目ですが、魔術で色が判別できるようになります。2024年3月にリリースされた2ndアルバムに『色彩』と名付けたヰ世界情緒さんにとって、色というのはどんなモチーフですか?

実は色彩は色そのものを表す意味で選んだ言葉ではないんです。ずっと前から思っていることなのですが、私は世界や自然、事象のようなものがすごく好きなんです。でも、そういった話を人にすると、人があまり好きではないような景色も私は“すごく美しいな”、“魅力的だな”と思っていることに気づくことがよくあって」

──なるほど。

「それって“どうしてなのかな?”って考えた時に、地球や景色、自然は普遍的なものとして存在していて、そこに自分の想いや自分だけの視点が加わることで、よりその豊かさを享受できる…“より豊かになっていくんだ”というのを感じることが多くて。 なので、そういう普遍的にあるものと命…少し大きなテーマにはなってしまうんですけど、そういったものの間を埋めてくれたり、つないでくれるものが私にとっては音楽ですし、世界に自分だけの色をつける、という意味での色彩なんだというふうに感じています」

──ちなみに、“人からなかなか理解されなかった”というヰ世界情緒にとって美しくて魅力的な景色とはどんなものだったんですか?

「私はバーチャルダークシンガーとして活動していますが、性格的には朗らかなところがあるので、みなさんに“本当にダークシンガーなの?”って言っていただくこともあって(笑)」

──あはははは。

「でも、趣味嗜好としては、ちょっと暗いものを孕んでいるものがすごく好きなんです。例えば、ゲームや映画などのホラー作品を一時停止して、その景色をじーっと眺めて。自分だったらここに椅子を置いて座って、お茶をいれて、何の音楽を聴いちゃおうかな〜?って妄想するのがすごく好きなんです(笑)」

──あはははは。ワクワクしている。

「すっごくワクワクしちゃいます。そこにいることって人生の中で選択できるじゃないですか。選択しないこともできるけど、選択することもできる。そういうところで、いろいろな想像するのが私はすごく好きで。共感してくれる人もいれば、“ちょっと怖くない?”という人もいるんですけど。そういった、少し退廃的なものや静寂を感じるものに、私は安心感を重ねてしまいます。でも、それは自分だけの景色ですし、自分にとってすごく大切なものだから、その感性は大事にしていきたいです。それと同じように、私がそんなに好きじゃないなって思うものでも、誰かにとってはすごく大切なものだったりするから、そこをみんな大切にしていてほしいという気持ちがあって、タイトルを『色彩』にしました」

──今のお話を聞くと、もう1作品のTVアニメ『カヤちゃんは怖くない』はどストライクですよね?

「はい。ホラーで怖さを感じるところもありながら、ポップなところもあって。幅広いが楽しみやすいホラー作品だと思いました」

──この作品に対してはどんな魅力を感じましたか?

「人に見えないものが見えてしまう幼稚園の女の子が主人公なんですけど、よくよく考えたら、普通なら逃げ出してもいいくらいの年齢ですよね? でも、そんなに小さい子なのに、いつも自分なりに、普通の人には見えない世界と戦っていて。見えているものから逃げずに戦っていたり、いろいろなものが見えてしまう中でも、人をおもんばかったりもしていて。そんなカヤちゃんの在り方がすごく好きなポイントでした」

──“普通は見えないものまで見えてしまう”ようになるクノンくんと、“普通の人が見えない霊や怪異が見える”カヤちゃん。そして、独自の“視点”を持っているヰ世界情緒さんは共通する部分がありますね。

「今、そう言われて、“確かに!”と思いました(笑)。クノンくんとカヤちゃんの特別な視点だと思うのですが、“見えないものが見える”ことは、変な話、大なり小なり、みなさんにもあることだと思っていて。さきほどお話したように自分だけの感じ方や見方がありますし、この楽曲を聴いてくださっている方にも絶対にそういった“視点”はあると思います。“自分だけが見えているものを見つめる”というところで、確かに、クノンくんとカヤちゃんと私、それに、この楽曲を受け取ってくださるたち全員に少しずつ共通点があったりするのかも、と思いました」

──では、オープニング主題歌「まぼろしの行方」を受け取ってどう感じましたか?

「全体的に影のある世界観なのですが、いろいろな側面がある楽曲だと思いました。「ラケナリアの夢」に自分の視線の先をまっすぐ見ているイメージがあるとしたら、「まぼろしの行方」はそういった時もありながら、ふとした時にちらっとこっちを見てくるというか。聴いている側にも視線を向けてきたり、はたまた全然違う方向を見つめていたり、いろいろな面を感じられるような楽曲だと感じたので、歌詞にある想いや“視線”を大切に歌と思いました」

──“視線”や“視点”という言葉がこの2作品のキーワードになっていますね。

「私もお話ししていて感じました。「まぼろしの行方」は、一人で佇んでいるような様子ではあるのですが、人を求めていたり、何かを渇望している感じがチラチラ見える楽曲だと思ったので、全体的に聴き手に自分を重ねられる余白みたいなものが幅広く残るといいと思っていましたし、サビはカヤちゃんの無垢さを表すようにまっすぐに歌うことを心掛けました。私は歌うときに“視線”のようなものを大切にしていると思って。“誰に向かって歌っているのか?”はいつも気をつけているんですけど、この楽曲はこっちをまっすぐ見てくることもあって、誰とも目線が合っていないようなところもあって。そういう掴みどころのなさのようなものを歌の中に入れたいと思って」

──歌うときの“視線”が変わることで声色も変わっているんですね。

「そうですね。でも、歌っているときに“声色を変えるぞ”という意識はあまりなくて。“誰にどういうふうに伝えるのか”というところがまず自分にとってのスタートなんです。そこが少しずつ変わる楽曲だと、結果的に出力される声の感じも少しずつ変わってくるんだと思っていて。どういう風にその言葉を伝えるのかは、位置によって違いますよね? その人に対して言っているんだけど、独り言の感じで言うときもあるだろうし、もしかすると後ろを向いて言っているのかもしれないですし、“届いたらいいな”って感じで願いを込めて言っている時もあるだろうし。やっぱり“視線”が私の中でフックなんだと思いました」

──さらにクノンくん、カヤちゃんとのデュエットを収録したE.P.『幻視録』がリリースされます。アコースティックアレンジされた2曲で声優さんとデュエットした感想を聞かせてください。

「とても感慨深かったです。しかも、声優さんとしてではなく、“キャラクターと歌う”という経験は本当に初めて

──キャラクターで歌う上では、そのキャラの性格があって、声の幅もありますよね。

「そうなんです! なので、歌の中でできることとできないことがあるんじゃないかなと思いまして。クノンくんは男性のキャラクターだから、キー的には低い範囲で歌うことになりますし、カヤちゃんは感情の起伏が少ないキャラクターだから、その起伏の中で歌うことになります。それが、キャラクターとして歌を届ける魅力でもあると思って。だから、キャラクターができないことは、私が声として繋ごうと思って、バトンを渡す意識を強く持って歌いました。それは私が今まで歌ってきた経験の中でもなかった体験だったのですごく楽しかったです」

──主題歌とキャラソンが融合したような素敵な楽曲になっていますね。二つの物語をコンパイルしたE.P.には、『幻視録』というタイトルが名付けられています。

「私はこのインタビューで聞いていただくまで“見えないものを見ている”という中に自分自身も含まれているんだということはあまり意識がなかったんですけど…」

──でも、話せば話すほど、共通だけど、異なる視点を持っている3人だと感じます。

「その中に私も入れているのがちょっと嬉しいです(笑)。私はやっぱり、個人の視点からしか見られないものを大切にしてほしいと思っていて。“自分にしかこの景色って見れないじゃん”という、共感してもらえない辛さを抱えている人もいるかもしれないなって。でも、そういった経験から得られるものもまた自分だけの景色になると思います。私もよく、心の中にいろいろな風景が浮かぶんです。それは、誰かにとっては幻想なのかもしれないですけど、私やクノンくん、カヤちゃんにとっては紛れもないリアルだというのは絶対的に本当だと思います。そういった世界を大切にできるようにと願ってつけたタイトルなので、このアニメ作品や私にとって、ある種、象徴的な名前になるといいなって思います」

──これまでヰ世界情緒さんを知らなかったアニメファンにも届く1枚になりそうですね。

「アニメ作品が好きな方はもちろん、私の楽曲を聴いてくれてくださる方や、声優さんを応援されている方、いろんなに聴いて欲しいです。それだけでなく、先ほどもお話したように、自分だけの世界を持っている、それに対して思うことがあるたちにもより深く届いてほしいというのは、このインタビューを通しても強く再認識しました。そういったところに寄り添える楽曲、もしくは、そういう視点に気づかさせてくれる楽曲にもなるといいな…。なので、ぜひぜひ自由に受け取ってもらえたら嬉しいです!」

──ありがとうございます。

──最後に2026年の目標も聞かせてください。昨年は展覧会が中心でしたが、7年目の今年の音楽活動はどうなりそうですか?

「今年はもりもりとソロ活動により力を入れていきたいと思っています。私自身によりフォーカスした創作活動もそうですし、ヰ世界情緒としての楽曲のリリースも中心に据えながら頑張っていきたいです。私のことを応援してくださっているファンの皆さんに自分自身の楽曲をより届けていける2026年にしたいと思っています。あとは、さっきもお話させていただいた、開かない家の扉を少し開けれるように頑張りたいというのも日々思っています。でもなによりも、今回のように誰かの作品に携わらせていただいて楽曲を届けさせていただくことも大切にしていきたいです。私はとにかく作品を創ることがすごく好きな人間なので、その機会自体が本当に“幸せ”なんです」

──今の“幸せ”という言葉の中に本当に幸せが含まれていました。文字にすると伝わらないのが残念なくらいです。

「あはははは。強調しておいてください。誰かの想っている世界や創作を形にする過程が行われているだけでも嬉しいのに、それを形にする時に、“ヰ世界情緒さんの声があったらいいな”とか、“ヰ世界情緒さんの絵があったらいいな”と思っていただけることが本当に光栄なことだと思っています。なので、自分の楽曲のリリースもそうですし、今まで通り、誰かの作品を形にするお手伝いができたらよりいいなって思っています。なので、今、歌を歌人を探しているという方がいて、もし私の歌がいいと思ってくださる方がいましたら、分野関わらず、お力添えできることがあれば是非、お声がけしていただけたら嬉しいです。ご連絡をお待ちしております(笑)」

(おわり)

取材・文/永堀アツオ

RELEASE INFORMATION

ヰ世界情緒『幻視録』通常盤

2026年225日(水)発売
PCCG-024892,750 円(税込)

『幻視録』特設サイト >>

通常盤

ヰ世界情緒『幻視録』きゃにめ盤

2026年225日(水)発売
SCCG-001915,500 円(税込)

『幻視録』特設サイト >>

きゃにめ盤

LIVE INFORMATION

ヰ世界情緒 2DAYS LIVE

DAY-1「Flower Closet」 202651日(金) Zepp Haneda (TOKYO)
会場チケット >>
DAY-2「Anima Re:birth」 202652日(土) Zepp Haneda (TOKYO)
会場チケット >>

ヰ世界情緒 2DAYS LIVE 配信チケット >>

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