杏子、山崎まさよし、スキマスイッチ、秦 基博など数々の有名アーティストが所属するオフィスオーガスタは、2021年11月2日に設立30年目を迎えました。「この節目の年に、アーティストや共に音楽を届けてくださるスタッフの皆様、そして何よりオフィスオーガスタの発信する音楽を愛し、応援してくださるリスナーの皆様へ、改めて感謝とエールを送りたい」という思いを「MUSIC BATON」と言うタイトルに込め、この一年を通して様々なライブをお届けしていきます。

昨年11月2日に設立29周年を迎え、30周年イヤーに突入したオフィスオーガスタ。そんな大きな節目を記念して、1年にわたって所属アーティストたちがライブを届け、音楽でアーティスト同士、そしてファンとの絆をつないでいくプロジェクト「MUSIC BATON」。そのVol.2となる大橋卓弥ソロライブ『PIN』が、2021年1227日にブルーノート東京で開催された。

昨年11月2日に開催されたVol.1は、杏子と山崎まさよし、松室政哉の3人が『Three Of Us』として集う形で開催されたが、Vol.2のこの日のライブに出演するのは、大橋卓弥ただ一人。『PIN』と銘打っていることからもわかるように、スキマスイッチとして20年以上もともに歩んできた常田真太郎もいなければ、一緒に演奏するバンドメンバーもいない。開演前のステージ上には、アコースティックギターが1本とグランドピアノが1台あるのみだ。そんな貴重なライブが開催される場所は、ブルーノート東京。国内外のアーティストたちが上質な音楽を奏で続けてきたこの場所で、食事を楽しみながら大橋卓弥の稀有なライブが堪能することができることに、開演前から満員の客席には高揚感が漂っている印象だ。

開演時間になると、客席後方から大橋が姿を現し、飄々と歩いてステージに向かう。大きな拍手に迎えられてステージに立った大橋は、普段のライブとは大きく異なるシチュエーションにもかかわらず、とてもリラックスした表情をしている。きっと、すぐ目の前に期待でいっぱいになった顔をした観客たちの姿を見て、自然と顔がほころんでいるのだろう。しかし、そんないい意味で緩く穏やかな雰囲気は、ギターを手にした大橋が1曲目の「僕が僕であるために」を歌い出した瞬間に一変する。大橋が敬愛するMr.Childrenがカバーしたことでも知られる尾崎豊の名曲だが、魂のこもった歌声とその声に呼応するように熱を帯びるギターに観客たちがぐいぐいと引き込まれていったのだ。そこには、ついさっきまでの緩く穏やかな空気感はまったくなく、むしろその歌からは凄みさえが感じられた。

歌い終えた大橋は、すぐに穏やかな表情に戻り、ステージ上に用意されたキャンバスに曲目を書く。そのどこかチャーミングさを感じる行為に、会場は再びリラックスしたムードに包まれる。

続く2曲目は、スキマスイッチの代表曲の1つ「ミスターカイト」。またもや大橋は、その歌の力で一気に会場の空気をステージ上で奏でられる音楽に集中させ、ギターのコードストロークが激しさを増すと客席からは手拍子も自然に巻き起こった。ここで、またステージ上のキャンバスに歌い終えた曲名を書き入れる大橋。不思議な間が、このライブ独特の緩さを生む。そして再びギターを手にし、スキマスイッチの「ソングライアー」で圧巻の歌を聴かせていく大橋。しかし、MCではまるでついさっきまでとは別人のように、親しみやすい口調と笑顔でファンに語りかける。この日のライブは、こんな“緊張と弛緩”が交互に繰り返されるような形で進んでいった。

4曲目ではASKAの「はじまりはいつも雨」で伸びやかな歌声を聴かせ、5曲目のスキマスイッチ「東京」では、同じオフィスオーガスタ所属の竹原ピストルを思わせる野性味と人情味が同居した歌で魅了する。

続く「Dont leave me」は阿部真央のカバーだが、ピアノの弾き語りで響かせた歌声はとてもやさしく、とても切ないものだった。歌い終えると、「真央ちゃんって、こういう繊細な歌を書くのが本当にうまいんだよね」とさりげなくカバーした相手へのリスペクトをつぶやく。
そこから「Baby good sleep」、「君の話」とスキマスイッチのナンバーを続けて披露したあとに歌ったのは、BUMP OF CHICKENの「車輪の唄」。静かに吹く風のように軽やかなギターの音と、その風に乗っているように涼やかな歌。美しい思い出を歌う、名ラブソングがすっと沁み入る。

そして、本編のラストはスキマスイッチの代名詞的ナンバーである「全力少年」。世代や時代を超えて愛されている楽曲だが、歌とギターという最小限の編成でパフォーマンスされることで、この曲が持つ普遍的な力がよりくっきりと伝わってくる。
ここまでの全10曲であらためて痛感したのは、やはり大橋卓弥の歌い手としての凄みだったなと思う。どんな時代のどんなタイプの楽曲でも、大橋卓弥の歌にして、そこに声で魂を宿らせる。これまでもスキマスイッチとして行ったカバーライブでその力は十分に証明されていたが、一人きりでパフォーマンスすることで、この日は大橋の歌の力がよりむき出しになったと思う。

鳴り止まない拍手に応えたアンコールで歌ったのは、2008年に発表された2枚目のソロシングル曲「ありがとう」。この日のライブで感じていた自身の思いを託したことは間違いないだろうが、その歌を聴いていた観客たちもまったく同じ気持ちでこう思っていたはずだ。「ありがとう」を伝えたいのは、こちら側だよと。

※12/27(⽉)⼤橋卓弥(スキマスイッチ)『PIN』 1st Stage @BLUE NOTE TOKYO

大橋卓弥『PIN』 2nd Stage SET LIST

M1.僕が僕であるために
M2.ミスターカイト
M3.ソングライアー
M4.はじまりはいつも雨
M5.東京
M6.Dont leave me
M7.Baby good sleep
M8.君の話
M9.車輪の唄
M10.全力少年

M11.ありがとう

┗2021年12月27日(月)@BLUE NOTE TOKYO

取材・文/大久保和則
写真/古賀恒雄

encore × Office Augusta 30th MUSIC BATON Vol.1

バックナンバー

杏子×山崎まさよし×松室政哉『Three Of Us』

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