「インポート」を軸に「セレクト」「オリジナル」で始動
エムエフシーストアは「チャプター」のディレクター、「アトモス」の企画を担当していた近藤浩人さんが、会社経営をする村松良一さんからライフスタイル提案の一環でアパレル事業を構想しているという話を受けたことに始まる。「一緒にやらないかと。『エグザンプル』を立ち上げて間もなかったビビに声をかけ、僕自身もアトモスでアパレルブランドとコラボしてきた経験があったので、共にセレクトショップを始めたんです」と近藤さん。村松さんをオーナーとする会社を設立し、近藤さんがプロデューサー、ビビさんがディレクターとして、自分たちが好きなもの・着たいものを集めた「My Favorite Closet」をコンセプトに、この頭文字を冠した「MFC STORE(エムエフシー ストア)」を2018年、中目黒にオープンさせた。

オープン当初のMDは「スーベニア」をテーマとし、カリフォルニアで買い付けた並行輸入品の「インポート」が70%、正規品の「セレクト」が10%、ストアブランドの「オリジナル」が20%程度で構成。ストリート系のウェアを中心に、ファッション小物や希少性の高いスニーカー、インセンスなど幅広く揃えた。店舗は中目黒の雑居ビルの2階という難しい立地だったが若い世代の人気を集め、19年には1階を加えた2フロアに。20年には原宿と大阪、21年には名古屋に出店し、ファンを増やした。コロナ禍では海外買い付けが厳しくなったが、国内のブランドやメーカーの協力を得てその構成比を高め、オリジナルアイテムやセレクトも増加。コラボレーションやポップアップストアにも積極的に取り組むことで認知を広げていった。
コラボはアパレルや雑貨などのブランド、大手セレクトショップ、新進アーティスト、個性派の飲食店、映画やアニメなど多様で、「小さな組織なので、やると決まったらその日のうちにデザインに取り掛かるぐらい、立ち回りの速さはどこにも負けない」という。ポップアップもバーニーズ ニューヨークや伊勢丹新宿店など、注目度の高さを窺わせる。
王道から新興・個性派まで多彩なブランド構成、コラボも魅力
ウェアはユニセックスで着られるストリート系のブランドを軸とし、10~40代の男性客を中心にマーケットを創ってきた。コロナ禍が明けてからは、「エムエフシー ストアの商品や空間をより実感してもらえる『体験』の場を増やしたい」と、インストアイベントやポップアップを強化。今年は特に力を入れている。原宿店は明治通り沿いの路面店で集客力があったが「小さくてイベントができなかった」ため、「体感的には3倍」の売り場を確保できたラフォーレ原宿3階への移転を決めた。

新たな原宿店では、オリジナルとセレクトを半々の割合で品揃え。セレクトでは、ビビさんが展開するエグザンプルと「GOD BLESS YOU(ゴッド ブレス ユー)」はもとより、「Carhartt WIP(カーハート ワークインプログレス)」や「Clarks(クラークス)」、「NEW ERA(ニューエラ)」、「NIKE(ナイキ)」といったセレクトショップでは王道のブランド、フレグランスの「Dr. Vranjes(ドットール ヴラニエス)」、「BE@RBRICK(ベアブリック)」で知られる「MEDICOM TOY(メディコムトイ)」などもある。


新たな原宿店では、オリジナルとセレクトを半々の割合で品揃え。セレクトでは、ビビさんが展開するエグザンプルと「GOD BLESS YOU(ゴッド ブレス ユー)」はもとより、「Carhartt WIP(カーハート ワークインプログレス)」や「Clarks(クラークス)」、「NEW ERA(ニューエラ)」、「NIKE(ナイキ)」といったセレクトショップでは王道のブランド、フレグランスの「Dr. Vranjes(ドットール ヴラニエス)」、「BE@RBRICK(ベアブリック)」で知られる「MEDICOM TOY(メディコムトイ)」などもある。
「ビゼン アートスタトゥータジオ」とのコラボレーション(東京バージョン)
「ビゼン アートスタトゥータジオ」とのコラボレーション(TOKYO JAPANバージョン)
「クラシッククロージング」や「エグザンプル」、「ゴッド ブレス ユー」、「エムエフシー ストア」の集積
「クラシッククロージング」の「SUPER GREEN」Tシャツ
「クラシッククロージング」ルック
他にも、シティポップクリエイターのゴボテンによるポップアートのようなグラフィックをデザインした「TOKYO CITY POP MFC STORE Created By Goboten(トーキョーシティポップ エムエフシー ストア クリエイテッド バイ ゴボテン)」や、「retro50%:street50%」をコンセプトに80~90年代のコミックのタッチと今のポーズを組み合わせたグラフィックプリントなどでZ世代に人気の「over print(オーバープリント)」、「LFYT(ラファイエット)のデザイナーでグラフィックデザイナーとしても活躍するMIWACO、エムエフシー ストアのメインデザイナーであり国内外のブランドのグラフィックを行うYUGOなど、話題のドメスティックブランドやデザイナーとのコラボアイテムが揃う。エグザンプルとゴッドブレスユーでデザイナーを務めるビビさんの手描きイラストをプリントした原宿店限定のTシャツも要チェックだ。
「僕も買い付けなどでよく海外へ行くので分かるんですけど、その土地に行ったら記念に残る物を買いたいんですよ。その物を見てそのときの旅行を思い出すということが、数日後、数年後、数十年後にあるかもしれない。そういう記憶の一部になれたらいいなと思いながら、みんなと服作りをしています」と近藤さんは話す。




今年は近藤さん自身が大好きな「Hawaii」にフォーカス。ハワイのローカルフード「マラサダ」で有名な老舗ベーカリー「Leonard’s Bakery(レナーズ ベーカリー)」とのコラボアイテムを展開中だ。「初めてのレナーズ体験が僕にとっては衝撃的で、人気の理由が分かったんです。マラサダはもちろん美味しくて、店のネオンサインや白とピンクのポップな建物など映画の世界に没入するような感じなんですよ。食事だけではない体験がある。そこに感激して、直近ではメジャーなブランドとコラボしていたのですが、必死でアプローチした」結果、コラボが実現した。「Leonerd’s」のロゴはもとより、公式キャラクターや店舗外観のストリートテイストなグラフィックをあしらったTシャツを制作し、双方のアイデンティティーを融合させた。ポロシャツとキッズTEEも追加し、コレクションを充実させている。
ハワイ在住の日本人ユーチューバー「ちゃんすう」とのコラボTシャツや、ハワイ発のジュエリーブランド「Amome(アモエ)」とちゃんすうによるブレスレットも展開。エムエフシー ストアの店舗、ポップアップストア、ハワイをテーマとしたフェスなどで販売し、ポップアップストアの売り上げの一部は23年8月の山火事で被害を受けたマウイ島の観光や復興の支援金としている。
「レナーズベーカリー」のロゴTシャツ
レナーズの公式キャラクターをデザインしたTシャツ
レナーズの公式キャラクターをデザインしたTシャツ
レナーズの店舗、ネオンサインをグラフィック化したTシャツとロゴTシャツ
ユーチューバー「ちゃんすう」とのコラボアイテム
「アモエ」と「ちゃんすう」のコラボアクセサリー
「アモエ」と「ちゃんすう」のコラボアクセサリー
エムエフシー ストアだけの「ニューエラ」、香りもこだわりのセレクト
キャップの品揃えが充実しているのも、エムエフシー ストアの特徴だ。特に世界的なベースボールキャップブランドのニューエラを多く扱い、エムエフシー ストア限定販売のカスタムコレクションも展開している。ニューエラの定番モデル「59FIFTY(59フィフティ)」や「9TWENTY(9トゥエンティ)」をベースに、近藤さんやビビさん、エムエフシー ストアのデザイナーらが「ベースボールキャップの固定概念にとらわれず、自在にカスタムしていく」ことで、他には無いカラー使いやデザインが揃う。
初めてのコラボのときに誕生したのが、現在はエムエフシー ストアのシグニチャーになっている「MSロゴ」だ。「エムエフシー ストアがメジャーリーグに参戦!というコンセプトで、野球チームにありそうなロゴを作った」。フロントに「MSロゴ」、バックに「MFC STORE」のストアロゴ、左サイドに「nE」ロゴ、右サイドに「AUTHENTIC」のデザインを刺繍したキャップは評判を呼び、「出すたびに完売した」ため、在庫を切らさないよう計画的に生産する態勢を整え現在に至っている。
棚には「ニューエラ」をはじめ、キャップがズラリ
棚には「ニューエラ」をはじめ、キャップがズラリ
MSロゴのキャップ
MLB関連では、エムエフシー ストアのギミックを効かせたベースボールシャツも面白い。直近ではロサンゼルスドジャースの大谷翔平選手のネームと背番号を背負った「MLB Los Angeles Dodgers "SHOHEI OHTANI" BASEBALL S/S SHIRTS」が注目。MLBなどのオフィシャルパートナーのFanatics(ファナティックス)から登場したエムエフシー ストアのカスタムコレクションだ。ビンテージライクな質感のコットン素材が何ともいえない味わい。併せて、サイドパネルに大谷選手のネームと背番号、バイザーにサインをあしらったニューエラの59フィフティも制作した。
大谷翔平選手のベースボールシャツやキャップも好評
「MLB Los Angeles Dodgers "SHOHEI OHTANI" BASEBALL S/S SHIRTS」(前)
「MLB Los Angeles Dodgers "SHOHEI OHTANI" BASEBALL S/S SHIRTS」(後)
香りには近藤さんのこだわりが覗く。東京発のインセンスブランド「kuumba(クンバ)」は、ショップの立ち上げ時から取り扱っている。「僕らがずっと好きな『Supreme(シュプリーム)』が店舗で焚いていたり、コラボもしているブランド。絶対に取り扱いたいと思っていたんです。ただ、できたばかりの無名の店で、つても無かったので、パッケージにあった問い合わせ番号に電話を掛けてプレゼンしました。当時は並行輸入したものと正規品を並べて売ることがなかなか難しかったのですが、クンバは即OKしてくれたんです」。クンバを目当てに来店する人も多く、「昔から裏原宿が好きなお客様が買い求める」アイテムになっている。
「ドットール ヴラニエス」は1983年に創業し、グローバルに展開するフィレンツェ発の高級フレグランスブランド。近藤さんはバーニーズ ニューヨークでポップアップストアをしているときに同ブランドと出会い、その香りの良さに感激し、愛用するようになった。エムエフシー ストアで取り扱いたいと思ったが、ドットール ヴラニエスの卸先は海外でも日本でも百貨店などステータスの高い店が多く、価格も相応のものになる。ダメ元で交渉したところ、「これまでとは違う客層にブランドを届けることができるのではないかと、取り扱いできるように話を進めてくれた」。現在は原宿店と中目黒店で品揃えし、ブランドの代表的なインセンス「ROSSO NOBILE(ロッソ ノービレ)」が人気。赤ワインの香りをイメージしたルームフレグランスだ。


体験型イベントでプラスアルファの価値提案
路面からラフォーレ原宿に移転してまだ間もないが、原宿店は男性客が中心だった客層は「女性客が7割を占める」ようになった。「ウィメンズの店が多いフロアということもありますが、正直、今は想定外だらけ。既存顧客は来ていただけているので、男女とも新しいお客様をどう集客していくか。ここに合った形で、もうちょっと仕掛けが必要と実感しました」と近藤さん。そのキーワードとして「体験」を重視し、「MEET & GREETなどのイベントをどんどん打っていく」とする。
体験型イベントとして8月に原宿店で実施したのが、「SWAY FACTORY by MFC STORE(スウェイファクトリー バイ エムエフシー ストア)」だ。ヒップホップグループ「DOBERMAN INFINITY(ドーベルマン インフィニティ)」のラッパーで、モデル、俳優、デザイナーとしても活躍するSWAYさんが来場。来店客が購入した店指定のTシャツに、SWAYさんが描いたデザインを手刷りでプリントしていく。近藤さんはアトモス時代からSWAYさんとコラボを通じて交流があり、スウェイファクトリーは今年3月に中目黒で開催された「SAKURA FESTIVAL」で実施したところ盛況となった。今回は原宿店のオープン記念で本人の要望もあり復活した。

「体験型イベントは毎月のように頻度高くやっていきたい。エムエフシー ストアは以前からイベントが多いのですが、全てを自分たちで企画しているのではありません。ブランドやデザイナー、アーティストなど店に関わる人たちが『こういうことをやってみたい』と言ってくれ、一緒に取り組んでくれるからできています。そのイベントを体験したり、見かけたりした人たちが、近くに来たときに思い出して寄ってくれれば、新しくお客様になってくれる可能性が拓けてきます。記憶に残る『体験』を提供していきたい」と、単なる物の売り買いではないプラスアルファの価値提案に力を入れる。
「体験型イベントは毎月のように頻度高くやっていきたい。エムエフシー ストアは以前からイベントが多いのですが、全てを自分たちで企画しているのではありません。ブランドやデザイナー、アーティストなど店に関わる人たちが『こういうことをやってみたい』と言ってくれ、一緒に取り組んでくれるからできています。そのイベントを体験したり、見かけたりした人たちが、近くに来たときに思い出して寄ってくれれば、新しくお客様になってくれる可能性が拓けてきます。記憶に残る『体験』を提供していきたい」と、単なる物の売り買いではないプラスアルファの価値提案に力を入れる。

写真/野﨑慧司、MFC STORE提供
取材・文/久保雅裕
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久保雅裕(くぼ まさひろ)encoremodeコントリビューティングエディター。ウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。元杉野服飾大学特任教授。東京ファッションデザイナー協議会 代表理事・議長。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。