1960年代以降、最も影響力の大きかったピアニストはビル・エヴァンスだろう。彼がベーシストのスコット・ラファロと吹き込んだピアノ・トリオの名盤『ワルツ・フォー・デビー』は、《マイ・フーリッシュ・ハート》《ワルツ・フォー・デビー》といった親しみやすい名曲とともに、今でも多くのファンから支持されている。

彼はピアノ・トリオのフォーマットにおいて革命を果たした。ベース、ドラムスを従えたピアノ・トリオの楽器編成を確立させたバド・パウエルが、どちらかというとピアニスト主導型であったのに対し、エヴァンスはベーシストやドラマーの役割も重視した「3者協調型」ともいうべきスタイルを生み出した。そして現代のピアノ・トリオはキース・ジャレット率いる「スタンダーズ・トリオ」をはじめ、みなこのスやり方を踏襲している。

そのエヴァンスの影響を受けたピアニストの代表が、ドン・フリードマンだろう。『サークル・ワルツ』は神秘的な表情をたたえたタイトル曲をはじめ、いかにも新世代の白人ピアニストらしい知的な演奏によって多くのファンの心を捉えた。

黒人勢に目を移せば、コルトレーン・カルテットの名脇役として活躍したマッコイ・タイナーが60年代のスターだった。彼はエヴァンスとは対照的なダイナミックな演奏を得意としたが、トリオ作品よりサックス奏者と組んだアルバムが多い。『リアル・マッコイ』はテナー奏者ジョー・ヘンダーソンをサイドに従えたカルテットで、60年代新主流派ジャズの名盤だ。

そして、エヴァンスと並んで60年代以降のピアニストに強い影響を及ぼしているのがハービー・ハンコックで、多くの現代ピアニストの演奏に彼の奏法の余韻を聴き取ることが出来る。ハンコックもホーン奏者との共演で自らの音楽性を発揮するタイプで、『スピーク・ライク・ア・チャイルド』は、50年代ハードバップとは一線を画した斬新なサウンドの響きが60年代以降のジャズに圧倒的影響を及ぼした。これもまた新主流派サウンドを代表する作品である。

実を言うとエヴァンス、マッコイ、ハンコックらは50年代から活躍し60年代以降大きな脚光を浴びたわけだが、正真正銘の60年代ピアニストといえば、チック・コリアとキース・ジャレットだろう。スタン・ゲッツのサイドマンとして注目を集めたチック・コリアは、独立後のアルバム『ナウ・ヒー・シングス・ナウ・ヒー・ソブス』で一気に新世代のピアニストとしての名を確立させた。

一方のキースは、同じく60年代にチャールス・ロイドのサイドマンとして頭角を現した後マイルス・バンドに参加、そして70年代に出した画期的なソロ・アルバム『フェイシング・ユー』で、チックと並ぶ新世代スターとして多くのファンの支持を集めることになる。

そして70年代ジャズ・シーンは、チック、キース、そしてハンコックの3人のキーボード奏者が多くの注目作を発表する、キーボードの時代となったのである。興味深いのは現代ジャズ・ピアノに大きな貢献をなした彼ら全員が、マイルス・バンドの卒業生でもあることだ。そしていうまでもなくエヴァンスも、マイルスに請われ彼のグループに参加したマイルス・バンド経験者である。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

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