1956年を名盤の年としてご紹介したが、翌1957年もまた現代に聴き継がれる優れたアルバムが数多く録音された。1954年をひとつのエポックとして、ニューヨークの若手黒人ミュージシャンたちの間で意欲的に演奏されるようになった“ハードバップ”は、56年に完成を見、57年以降はその「新しいジャズの演奏法」が若手ミュージシャンたちの間に広まっていったのである。

その典型がジョン・コルトレーンの『ブルー・トレーン』だろう。マイルスと同年生まれのコルトレーンは、若干シーンに出遅れたがマイルス・バンドのサイドマンで鍛えられ、57年には待望の初リーダー作『コルトレーン』をプレスティッジ・レーベルから出す。そして同年ブルーノート・レーベルに吹き込んだのが『ブルー・トレーン』だ。このアルバムはブルーノートらしい入念なリハーサルから生まれたリー・モーガン、コルトレーン、カーティス・フラーの3管の響きがすばらしい。そのリー・モーガンもこの年代表作を出している。ブルーノートの『キャンディ』は、シンプルなワンホーンで、ちょっと不良っぽいモーガンの小粋な魅力を巧みに掬い取った傑作である。

前年にプレスティッジから大名盤『サキソフォン・コロッサス』を出したソニー・ロリンズも絶好調で、この年ブルーノートからクラブ・ライヴの傑作『ヴィレッジ・ヴァンガードの夜』を出す。ライヴの迫真性を巧みに再現したルディ・ヴァン・ゲルダーの迫力のあるサウンドで有名なこのアルバムは、実は選曲の妙もあって今日名盤の地位を築いた。後にこの夜のすべての演奏が発表されたが、オリジナル・アルバム収録の6曲がやはり群を抜いていた。プロデューサー、アルフレッド・ライオンの耳の確かさを証明するアルバムでもある。個人的にはアナログB面収録の《ソニー・ムーン・フォー・トゥー》以下が好きである。

面白いのはこのようにシーンが盛り上がると、その熱気がほかのミュージシャンにも乗り移ることで、ウェスト・コーストのスーパースター、アート・ペッパーも57年には超有名盤『アート・ペッパー・ミーツ・ザ・リズム・セクション』を吹き込んでいる。このアルバムは当時のナンバーワン・グループ、マイルス・クインテットのリズムセクションであるレッド・ガーランド、ポール・チェンバース、フィリー・ジョー・ジョーンズが西海岸を訪れた際アート・ペッパーと共演した珍しい作品。初顔合わせにもかかわらずこれほど完成度の高いアルバムが生まれるのは、もちろんペッパーの力量もあるけれど、「新しいジャズの演奏法」が東海岸西海岸を問わず、また黒人白人の人種の壁を越えて認知されていったことの証明でもある。

57年は海を越えた外国でも傑作が記録されている。トミー・フラナガンの『オーヴァーシーズ』はヨーロッパで録音されたがメンバーは全員アメリカ人。中でもドラムスのエルヴィン・ジョーンズの快演が話題になった。このアルバムは当時としては珍しいピアノ・トリオ演奏で、トミー・フラナガンの名を一気に高めた記念すべき作品である。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

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