ジャズギターの主流はなんと言ってもウェス・モンゴメリーだろう。もちろん歴史的にはチャーリー・クリスチャンという元祖ジャズギタリストがいるけれど、録音の古さやアルバムの少なさも手伝ってジャズ喫茶での出番は少ない。

ウェスの凄さは、超絶技巧を惜しげもなくサラッと弾きこなし音楽に奉仕しているところだ。つまり、いかにも凄いことやってるんだぞ、って見せつけるんじゃなく、誰しもがいい演奏だなあと楽しめるけど、いざそのテクニックを分析してみると腰を抜かすってやつだ。

具体的には、オクターブの二つ音を同時に出してメロディを演奏する「オクターブ奏法」や、コードでフレーズを響かす「コード奏法」など、ウェス独特のテクニックをピックを使わず指でまろやかに弾きこなしている。『フル・ハウス』はウェスの代表的名盤としてギターファン必聴の作品だ。共演の黒人テナー、ジョニー・グリフィン、ピアノのウイントン・ケリーも最高のパフォーマンスでアルバムの価値を高めている。

ケニー・バレルはテクニックがらみで語られることは少ないけれど、黒人ギタリストならではのブルージーな感覚の持ち主で、ジャズ喫茶に欠かせない役者である。彼の代表作『ミッドナイト・ブルー』アナログB面の黒々とした雰囲気は、一度聴くと病み付きになる。ここでもまた共演の黒人ミュージシャン、スタンレー・タレンタインがアーシーなテナー・サウンドでバレルのギターと絡み合い、極上の味を醸し出している。

白人勢に目を移すと、タル・ファーローが圧倒的なテクニシャンとして浮かび上がってくる。一部のスキも無くきっちりとフレーズを構築していくファーローのギターテクニックは、すべてのギター奏者が手本とした。『タル』はそうした彼の絶好調の時期に録音された作品で、ギターファンが必ず推薦するアルバムである。

知性派ギタリストの代表格であるジムー・ホールはパット・メセニーの先生としても有名だ。派手さは無いけれど、じっくりと聴き込むほど奥の深さを感じさせる渋さがカッコよい。ジャズ・ピアノの巨人ビル・エヴァンスとのデュオ・アルバム『アンダーカレント』は、演奏者同士がお互いの出す音に触発され、より高度の即興演奏を行う「インタープレイ」の優れた成果として知られた名盤だ。

ギター・サウンドの屈託の無い楽しさを味わうならバーニー・ケッセルがよい。屈託が無いとは言っても、おのずと滲み出す趣味のよさが単なる弾きまくりに終わらないコクを生み出している。『ポール・ウイナーズ』はアメリカのジャズ雑誌人気投票、各楽器部門第1位の3人が集まったアルバム。ケッセルのギターにレイ・ブラウンのベース、シェリー・マンのドラムスという50年代におけるトップ・プレイヤーによるギター・トリオだ。

現代ジャズギタリストに目を移すと、やはりジョン・スコフィールドの存在が大きい。一時期は「ジャム・バンド」の大将というようなキャッチ・フレーズで語られたこともあるが、独特のハーモニー・センスが光る『クワイエット』は彼の近年の傑作だ。フレンチ・ホルンの響きを生かしたアコースティックなバック・サウンドのアレンジも含め、彼の音楽性の奥深さが感じられる。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

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