このところ新譜紹介をしていて感じるのは、二つのことです。一つはジャズの世界的広がりですね。一昔前はアメリカがジャズの中心で、もちろんヨーロッパにも優れたジャズ・ミュージシャンはいましたが、「ヨーロッパ・ジャズ」という言い方で、ある意味「別枠」扱いだったように思います。

しかし現在では、ヨーロッパ出身のミュージシャンがアメリカでデビューすることは珍しくなく、またその逆にアメリカのジャズマンがヨーロッパで活動するケースも目立ちます。そうしたこともあって、今では「ヨーロッパ・ジャズ」という言い方もあまり使われなくなったような気がします。

そしてそのことと関係しているのですが、ジャズの幅が飛躍的に拡大し、「ジャズ的表現」の中身を再点検する必要があるように思うのです。その中身を私なりに単純化すると、「ジャズ」の本質的要素と思われる「個性的表現」や、「演奏の迫真性」といった部分は従来のジャズと変わらないのですが、その「表現スタイル」が極めて多様になっているのですね。

今回最初にご紹介するのは、ジャズ発祥の地ニューオルリンズ出身ながらドイツ・フランス・ベルギーに囲まれたこじんまりとした国、ルクセンブルグ在住のギタリスト、グレッグ・レミーの『Press Enter(Igloo)です。楽器編成はリーダー、レミーのギターの他、ヨーロッパ勢によるサックス、ベース、ドラムスのカルテット。先日の「東京JAZZ」では、代々木公園のオープン・エリアに出演しました。オーソドックスな演奏ながら、アメリカ・ジャズとは一味違います。

ノア・プレミンガーはアメリカ、コネチカット州出身のサックス奏者です。彼の新作『Meditation Freedom(Dry Bridge)は、前回ご紹介したトランぺッター、ジェイソンパルマーを従えたピアノレス・カルテット。ちょっとフリー寄りの部分もありますが、じっくりと聴かせる姿勢は好感が持てます。

そして今回の目玉とも言えるのが、話題の新チームR+R=NOWの『Collagically Speaking(Blue Note)です。ロバート・グラスパーのキーボードの他、気鋭のトランぺッター、クリスチャン・スコット、切れ味鋭いドラミングが光るジャスティン・タイソンなど、話題のメンバーがそろった話題作です。

彼らも「東京JAZZ」に出演したのでそのステージを見ましたが、ジャスティン・タイソンのドラミングが素晴らしく、それに乗ったクリスチャン・スコットのトランペットが場を盛り上げていました。

Levanter』(V-Flow)はオランダを代表するトランぺッター、エリック・フロイマンスがクラリネット、ピアノを従えた室内楽的なトリオ演奏。彼も若干メンバーは異なっていましたが「東京JAZZ」の野外ステージに登場しました。

喜多直毅の『Winter In A Vision(pianohouse)は、以前そのVol.2をご紹介しましたが、こちらはその一作目です。彼の演奏も、目黒パーシモン・ホールで行われた「JAZZ WORLD BEAT」で観ましたが、その表現力は圧倒的でした。

最後にご紹介する作品『Big Ship(Basho Music)は、スイス出身のピアニスト、クリストフ・スティーフ率いる、インナー・ランゲージ・トリオによる演奏です。オーソドックスながら演奏の集中力は大したもの。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

USEN音楽配信サービス 「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」

東京・四谷にある老舗ジャズ喫茶いーぐるのスピーカーから流れる音をそのままに、店主でありジャズ評論家としても著名な後藤雅洋自身が選ぶ硬派なジャズをお届けしているUSENの音楽配信サービス「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」。毎夜22:00~24:00のコーナー「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」は、ビギナーからマニアまでが楽しめるテーマ設定でジャズの魅力をお届けしている。

USEN音楽配信サービス ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)

関連リンク

あわせて読みたい関連記事

一覧へ戻る