今一番注目されている日本人アレンジャー、挟間美帆の新譜はセロニアス・モンク曲集でした。昨年はモンク生誕100周年ということもあって多くのモンク・トリビュート・アルバムが出ましたが、挟間の『ザ・モンク・ライヴ・アット・ビムハウス』(ヴァーヴ)はその中でも白眉と言っていい作品です。

何と言ってもアレンジがユニークです。2曲目に収録した《13日の金曜日》のギターを中心にしたサウンドなど、今まで聴いたことが無い斬新さです。演奏するメトロポール・オーケストラ・ビッグバンドは1945年にオランダで結成された伝統のあるオーケストラで、ジャズのビッグバンドに弦楽セクションが加わった大編成から繰り出されるサウンドは圧倒的です。

テナー・サックス奏者、ウォルター・スミス3世の『トリオ』(Core Port)は、タイトル通りベース、ドラムスのみを従えたトリオ・フォーマットが基調の作品です。彼の特徴は新世代サックス奏者らしく、しっかりとしたテクニックに裏付けられた個性でしょう。ふくよかで厚みのあるテナー・サウンドから繰り出されるフレーズは聴くほどに味わいが増します。ウェイン・ショーターの名曲《アダムス・アップル》のドラム・ソロはエリック・ハーランド。そして最後の曲にはジョシュア・レッドマンがゲスト参加しており、二人の音色の違いが聴き所になっています。

話題のピアノ・トリオ、ゴー・ゴー・ペンギンの新譜『ア・ハムドラム・スター』(ブルーノート)は前作に比べより緻密さを増した印象。先日、彼らのライヴをブルーノート東京で観ましたが、チームワークの一体感が強く感じられました。一聴、無機的にも響くピアノが躍動感あふれるドラミングと一体化することで、ジャズならではの濃密なグルーヴ感が醸し出されています。そしてこのチームをまとめ上げているベースの役割の大きさも特筆すべきでしょう。

圧倒的テクニックの持ち主であるヴァイオリン奏者、喜多直毅率いるカルテットの『ウィンター・イン・ア・シーズン2』(ソングX)の聴き所は、何と言ってもその情感表現の豊かさ、深さです。メンバーは喜多以下、北村聡のバンドネオン、三枝伸太郎、ピアノ、そして田辺和弘のベースで、彼らの演奏からは音楽に対する愛、信頼が確実に伝わって来ます。

リー・コニッツのサイドを務めたこともある新世代ピアニスト、ダン・ティファーのアルバム『ファイヴ・ペダルス・ディープ』(Sunnyside)はベース、トーマス・モーガン、ドラムスがテッド・プアーによるピアノ・トリオです。ブラッド・メルドーの影響を感じさせつつも、その積極的でダイレクトな感情表現は明らかにオリジナルなもの。トリオとしてのまとまりも良く、ピアノ・トリオ作品の傑作としてお勧めです。

最後はオルガン奏者ブライアン・シャレットの変わった編成の新譜『バックアップ』(スティープル・チェース)です。ハモンド・オルガンを弾くシャレットの他にピアノ奏者がおり、それにドラムスという変則トリオながら、出てくるサウンドは実に快適。タッド・ダメロン作の名曲《タッドズ・デライト》ジョー・ヘンダーソンの《ア・シェード・オブ・ジャイド》、そしてオーネット・コールマンの《ザ・ブレッシング》といったジャズマン・スタンダードを小気味よく料理しています。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

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東京・四谷にある老舗ジャズ喫茶いーぐるのスピーカーから流れる音をそのままに、店主でありジャズ評論家としても著名な後藤雅洋自身が選ぶ硬派なジャズをお届けしているUSENの音楽配信サービス「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」。毎夜22:00~24:00のコーナー「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」は、ビギナーからマニアまでが楽しめるテーマ設定でジャズの魅力をお届けしている。

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