今回最初に紹介するのは、グラフィック・デザイナー出身のプロデューサー、ジェイソン・マクギネスの最新作『Empyrean Tones』(オクターヴ)です。

今何かと注目されているアメリカ西海岸を拠点に活動するジェイソンは、カマシ・ワシントンはじめ、マイルスの伝記映画に使われたトランペッター、キーヨン・ハロルドや、ケンドリック・ラマーの『TRAB』のメンバーであるベーシスト、ブランドン・オウエンスらを起用し、「ヒップホップのレンズを通した」ジャズを制作しています。現代ジャズの一つの行き方ですね。

続いてはガラッと気分を変え、プエルトリコ出身のテナー・サックス奏者、マリオ・カストロのアルバム『Estrella De Mar』(Interrobang Records)です。エキゾチックで、どこか懐かしいような気分を醸し出すストリングスの使い方が巧みです。途中で「針音」のようなものが聴こえるトラックがありますが、これもレトロ感を醸し出すうまい演出。

3枚目に収録したアルバムは「ニーボディ」のテナー・サックス奏者ベン・ウェンデルの最新作『ホワット・ウィ・ブリング』(コアポート)です。ウェンデルは、この「新譜特集」シリーズの第4回で、西海岸で活動する電子音楽家デイデラスとの共演盤『ニーデラス』(Brainfeeder)をご紹介しましたが、まさに21世紀のジャズ・ミュージシャン。彼はチャーリー・パーカーやジョン・コルトレーンといったジャズの巨匠のアルバムと同時に、ヒップホップを聴きまくるという環境から、自らの音楽を作り上げてきたそうです。実際彼の演奏からはジャズの伝統と同時に、現代の息吹が伝わって来ます。

そして個人的に面白いと思ったのが、アルト・サックス奏者スティーヴ・リーマンの新作『Slebeyone』(PI Record)です。リーマンはずいぶん昔、ニューヨークの『CBGB』でトロンボーンのジョナサン・フィレンソン、ドラムスのタイソン・ショーリーなどといっしょに演奏しているのを見たことがあります。今回のアルバムはセネガルのラッパーを加えた編成で、彼の独特の語感が面白いですね。そして何より、リーマンならではの切れの良い個性的アルト・サウンドが印象的。今話題のロバート・グラスパー・トリオのドラマー、ダミオン・リードの叩き出すリズムが心地よいですね。

続くのは大御所ギタリスト、ジョン・スコフィールドの『カントリー・フォー・オールド・メン』(Impulse)です。この作品のコンセプトは、自らの音楽的ルーツであるカントリーやフォーク・ミュージックを「ジャズというフィルターを通して表現」しているそうです。ラリー・ゴールディングスのオルガンとの絡みも上々ですが、何よりジョンスコのギターの切れ味が尋常ではありません。ルーツ云々はその通りなのでしょうが、この凄まじい緊張感とノリの良さは、ジャズ以外の何ものでもありません。とは言え、ゆったりとしたナンバーでは、アルバム・タイトルどおり、古きよき時代のカントリー・ミュージックの気分が漂いだします。ともあれ、これはジョンスコ近年の傑作でしょう。

そして最後は、少し前の作品ですがフランスのドラマー、フランク・バイヤンが、元プリズムのピアニスト、ピエール・ド・ベスマンと、ベーシスト、ブルーノ・ジョビンと組んだスーパー・トリオのアルバム『Thisisatrio』(Abalone)です。近年のピアノ・トリオの特徴であるリズムが突出した演奏の典型で、従来のピアノ・ジャズとは一線を画すスリリングな演奏です。このところスポットを浴びている「ゴー・ゴー・ペンギン」に通じる感覚が面白い。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

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東京・四谷にある老舗ジャズ喫茶いーぐるのスピーカーから流れる音をそのままに、店主でありジャズ評論家としても著名な後藤雅洋自身が選ぶ硬派なジャズをお届けしているUSENの音楽配信サービス「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」。毎夜22:00~24:00のコーナー「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」は、ビギナーからマニアまでが楽しめるテーマ設定でジャズの魅力をお届けしている。

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