まず最初にご紹介するのはニューヨーク、ブルックリンを拠点として活動するトランペット、フリューゲル・ホーン奏者ブライアン・グローダー2016年のアルバム『R Train on the D Line』(Latham Record)です。彼は作曲家でもあり、この新譜ではマイケル・ビシオのベースとジェイ・ローセンのドラムスのみを従えたシンプルなトリオ編成です。

一般にピアノ・レスのワン・ホーン・トリオというのは、そうとう実力が無ければ間が持てない難しいフォーマットです。とりわけトランペット、フリューゲル・ホーンでそれをやるというのは滅多にないこと。お聴きになればおわかりかと思いますが、その難題を見事にこなしているだけでこの人は注目に値するミュージシャンと言えるでしょう。

そしてそれを支えているリズム・セクションの実力もそうとうなものです。ベース、ドラムスとフリューゲル・ホーンの3者が緊密に絡み合っているからこその名演と言えるでしょう。

同じトランペット・ジャズでも、ノルウェーのミュージシャンともなるとずいぶん音楽の表情が変るものです。マティアス・アイクの『ミッドウェスト』(ECM)は、いかにも北欧的な空気感を感じさせるサウンドが実に魅力的。ノルウェイのフォーク・ミュージックと現代ジャズが見事に融合しています。ヴァイオリンの使い方も秀逸。

3枚目にご紹介する『Ancestral Tongues』((Latham Record)は、またもやブライアン・グローダーですが、こちらは彼の初期のアルバムで録音は1993年。サックスとギターが入ったわりあいオーソドックスなスタイルで演奏しています、しかしピアノはいません。この辺り彼のこだわりがあるのかもしれません。彼の出発点を知るアルバムと言えるでしょう。

『Super Petit』(Cuneiform)は、ドラムス、パーカッションのジョン・ホーレンベック率いる、結成20周年を迎えるクラウディア・クインテットの新譜です。アコーディオンとサックスが醸し出すユニークなサウンドとリズムの絡みが快適です。彼らのアルバムはものによってはちょっと取っ付きが悪いものもありますが、この新作は一般的なジャズ・ファンにも好意的に迎えられるのではないでしょうか。

今もっとも注目されているジャズ・ミュージシャンがカマシ・ワシントンでしょう。ブラック・ミュージックの伝統と現代ジャズ・シーンの動向がうまい具合に融合しています。昨年発表された3枚組みの大作『ザ・エピック』(Brainfeeder)は、彼の壮大な世界観がコーラスを含む大編成チームによって見事に結実した傑作です。

私も彼らのライヴを見ましたが、その実力を裏付ける素晴らしいものでした。またぜひ見たいと思っています。とにかく注目の人物ですね。

最後に収録したコリン・ヴァロンのアルバム『ル・ヴァン』(ECM)は2013年の録音ですが、ピアニストとしてのヴァロンの音楽性がよくわかる、地味ながら名演と言っていいでしょう。取り立てて派手なことや目新しいことはしませんが、じっくりと聴けば演奏の質の高さはおわかりになることと思います。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

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