「ヨーロッパに住む小物コレクターの家」
インタッチはデザイナー後藤陽次郎氏が監修するセレクトショップとして、2001年に渋谷のセルリアンタワーに出店したのが始まり。後藤氏は広告デザインや店舗プロデュースなど幅広い分野で活躍し、世界中から厳選したモダンデザインのプロダクトを提案するロンドン発のホームファニシングショップ「THE CONRAN SHOP(ザ・コンランショップ)」の日本進出(1994年)を担った。インタッチでは「スタイル&デザイン」をイメージコンセプトに、古今東西、新品・ビンテージを問わず、ハンドメイドによる上質なプロダクトをボーダーレスにミックス。当時はまだあまり見られなかったアプローチで話題を集めた。
セルリアンタワーの後、東京ミッドタウン六本木、名古屋のミッドランドスクエアにも出店。後藤氏の退任後、13年の玉川髙島屋S・C出店を機に新たなスタートを切った。「以前はインテリア・生活雑貨が中心でしたが、ファッション雑貨や洋服のウエートを高めました」とは、1号店の立ち上げからインタッチに携わり、「インタッチ二子玉川」の出店時からディレクターを務める長谷部佳美さん。「イメージコンセプトは継承し、手仕事にこだわったアイテムを厳選することも変えていません。素材や技術はもとより、アイテムに備わるデザイナーの思いなどの『物語』に魅力があるものをセレクトしています」と話す。
店舗は玉川髙島屋S・C南館の3階、本館との連絡通路に隣接し、人通りの多い立地。特徴的なL字型の約50㎡の空間を生かし、メインの売り場と、ブランドのポップアップを行ったり、シーズン商品などをインデックスのように見せる売り場で構成し、出店時はウッドと白を基調に自然の温もりと都会の洗練を両立させた。24年11月のリニューアルは館自体の大型改装に伴うもの。それまで以上に「大人の女性がアットホームな雰囲気の中で『自分のお気に入り』と出会える場所」を目指し、上質でありながらハンドメイド感のある「ほっと一息つける静けさと優しさに包まれた空間」を出現させた。
インタッチ二子玉川の空間コンセプトは「ヨーロッパに住む小物コレクターの家」。インタッチは自然素材を使った商品が多いことから、質感が調和する素材使いを基本とした。床は寄木によるノスタルジックなパケットフローリング。オイル仕上げにより深みのある自然な風合いを生んだ。壁面の什器にも上質な自然木を用い、可変式にすることで棚にしたり、ラックを設置したりと、アイテムに応じて様々な見せ方ができる。L字の角に設置していた大きな棚は思い切って無くし、より自然な人の流れを生むため柔らかなアールを描いた柱に変更。表面には職人が一枚一枚、手仕事でタイルを張った。冷たい印象にならないよう、タイルのカラーには自然を感じさせる青緑を採用。木を多用した空間の中で、タイルが醸し出す焼き物の質感と印象的なカラーは店の存在を自然と記憶に遺す。タイルは店奥のレジカウンターにも配し、アクセントカラーになっている。また、洋服の扱いが増えたことから、それまでは簡易的な試着スペースだったが、個室のフィッティングルームを設けた。
メインの売り場。パケットフローリングの床、自然木の什器が温かみを感じさせる
ポップアップなどに活用する展示スペース
店奥に設けたフィッティングルーム
「物語」を身につけるような、独自の背景を持つアイテムたち
リニューアルオープン以降は、50~70代を中心とする顧客層に加え、館が改装により若年層へのアプローチを強めた効果もあり、「若い世代の家族連れが増え、お孫さんと一緒に買い物に訪れるなど親子三代のお客様も多い」。売り場の約7割をファッション雑貨で構成しているが、店頭のトルソーにスタイリングした洋服に興味を持ち、入店する新規客も増えた。洋服のブランドはデザイナーが素材にこだわり、ハンドメイドの商品が多いため単価も相応だが、全体の客単価アップに貢献し、売上構成比の約30%を占める。
洋服は粒選りのブランドが揃う。「H+ HANNOH WESSEL (アッシュプリュスアノーヴェセル)」は、デザイナーのアノー・ヴェセルが1994年にスタートさせた。フランスのブランドだがメイド・イン・イタリーを基本とし、リネンやコットン、ウールなど厳選した自然素材でゆったりとしたシルエットの服を生み出す。ユニセックスで着こなせるデザインが多いのも魅力だ。「apuntob(アプントビー)」は、デザイナーのバーバラ・ガルファロが06年に立ち上げたイタリアのファッションブランド。「着てもらうこと」ではなく「着て生活をしてもらうこと」を目的とし、選び抜いたイタリア製の生地、丁寧な仕立てにより、季節や体型、年齢を問わず着用できるタイムレスなデザインの服を提案している。不思議なブランド名は、彼女に強い影響を与えた帽子デザイナーの祖母のイニシャル「a.b」のイタリア語読み「a punto b」(プントは「点」の意)に由来する。


ファッション雑貨やアクセサリーの品揃えは、インタッチの真骨頂。多様なブランド展開で、1点1点のアイテムにストーリーが通う。取材時に店頭を飾っていたのは「sophie digard(ソフィー ディガール)」のバッグやストール、ネックレス。高級なラフィアを用いたクロシェ編みを特徴とし、デザイナーがパリでデザインしたものを、産地であるマダガスカルの職人たちが丁寧に編み上げている。草花や動物などのモチーフも可愛く、編みによって表現された繊細な色彩のグラデーションはアート作品のよう。特にバッグは「目に留めると、手に取るお客様が多い」アイテムだ。手編みのバッグでは、イタリアのブランド「alienina(アリエニーナ)」もユニークだ。素材はデザイナーのエリアーナ・ヴェニエが世界中を巡り集めた廃材が90%を占める。山登り用のコードやオイルランプの糸芯などを使い、職人が一つひとつ手編みしている。
ビンテージのような味わいのあるバッグを生産しているのは、トスカーナ・エルバ島発の「HENRY BEGUELIN(エンリーベグリン)」。84年に創業し、当初はリサイクルパーツを使い、ハンドメイドでベルトやバッグを作っていたという。現在は高級な革を使い、職人が高級馬具の伝統的な縫製技術で作り上げるバッグを主力とし、使うほどに味わいが深まり、自分だけの一点物になると世界的に評価されている。デザインはシンプルだが、丁寧に施されたステッチなどディテールにこだわりを凝縮。「オミノ」と呼ばれる小人をシグニチャーとし、プロダクトのどこかにステッチで施されているのもユニークだ。
ミラノ発の「Exquisite J(エクスクィジットジェー)」は、建築家とアーティストによるユニット。ナチュラルでチャーミングな素材を特徴とし、ハンドクラフトの技術を用いたモダンでキャッチーなデザインのベルトやバッグなどを展開している。全てイタリア生産。
「人が身につけてこそ本当のジュエリー」という思想からアートのようなジュエリーを生み出しているのは、オーストリアの「Florian(フローリアン)」。25年春夏シーズンは輝きを最大限に引き出すデザインを追求。最高品質のファセットカットクリスタルを使い、透明ビーズと手仕上げのウッドパーツを組み合わせたネックレスなどを提案する。
「heesoo kim(ヒス キム)」は、「糸」をモチーフにしたオブジェを制作する韓国のメタルアーティスト、キム・ヒスのジュエリーブランド。極細の金属糸で緻密かつ精巧に形作られたシルバージュエリーは、独特の温かみと癒しを感じさせる。フィレンツェに受け継がれるビーズ編みによるアクセサリーブランド「APROSIO & CO(アプロジオアンドコー)」も興味深い。デザイナーは生き物や自然からインスピレーションを得たモチーフを自在に編み上げ、美しいアクセサリーに昇華させる。
「フローリアン」のネックレス
金属糸で緻密かつ精巧に形作られた「ヒス キム」のシルバージュエリー
「アプロジオアンドコー」のアクセサリー(写真中央)
知らなかった文化や価値観と出会い、感性の広がりを実感する場へ
店頭の左側のスペースでは2カ月に一度ほどのペースで、ブランドのポップアップストアにも取り組む。カテゴリーは様々で、洋服やアクセサリー、帽子、ビンテージ時計や照明などもある。
直近では8月に日本の帽子デザイナー大場有希子が手掛ける「Première main(プルミエール・マン)」にフィーチャー。端境期で夏の長期化もあることから、夏物と冬物を提案する。「気候の影響もあり帽子を被る人が増え、インタッチでも人気。今年は折り畳める布製の帽子が早い時期から動いた」という。また、ビンテージ時計はここ数年、セレクトショップでも取り扱いが増えたが、インタッチでは01年の立ち上げ時から展開してきた。「ROLEX(ロレックス)」はもとより、「OMEGA(オメガ)」や「IWC(アイダブリューシー)」など「60~70年代の渋めのもの」を中心に揃え差別化。ポップアップを楽しみに待つ顧客も多い。
こだわりの「物」が揃う同店だが、「物を売るだけでなく、物に宿る背景や思いを届ける」ことに徹してきた。それだけに、「『物』に対する豊富な知識と愛情を兼ね備えた接客や、お客様が心地良いと感じる距離感とコミュニケーションの重要性を理解したスタッフがお客様をお迎えする」。リアルな場であるからこそ体験できる人と物と空間との触れ合い(in touch)を通じて、「新しい発見や驚き、楽しみや喜びを見つけ、生活に豊かさと彩りを添える」ことが重視されているのを感じる。「店を訪れたお客様が物を通して世界に目を向け、知らなかった文化や価値観と出会い、一人ひとりのお客様が感性の広がりを実感する。そんな店になっていきたい」と、長谷部さんは店作りへの思いを語る。
写真/遠藤純、レイジースーザン提供
取材・文/久保雅裕
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久保雅裕(くぼ まさひろ)encoremodeコントリビューティングエディター。ウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。元杉野服飾大学特任教授。東京ファッションデザイナー協議会 代表理事・議長。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。