ジャズという音楽の特徴はまずリズムであり、そして即興的演奏法が他の音楽ジャンルと大きく異なるところです。では、そうした特質を持った音楽であるジャズの聴き所はどこにあるのでしょうか? それは、それぞれのミュージシャンの「個性」と言っていいでしょう。そしてその「個性」は楽器の音色とフレージング(節回し)に現れるのですね。

つまり、楽器の音色とフレージングだけで、「これは誰の演奏だ」とわかるようなミュージシャンが優れたジャズマンと言っていいのです。ジャズ史に名をとどめる「ジャズの巨人」と呼ばれた人たちは、マイルス・デイヴィスにしろジョン・コルトレーンにしても、演奏の断片を聴いただけでも「あ、マイルスだ」「これはコルトレーン」とファンなら誰でもわかりますよね。

そうした視点で眺めてみると、トム・ハレルはまさにその条件を満たしたトランぺッターと言えるでしょう。温かくまろやかでありながら輪郭の鮮明なトランペットの音色、そして伝えようという明確な意思を感じさせるフレージングは彼の優れた持ち味です。最初に収録した『Infinity』(HighNote)は、既に老境に達したトム・ハレルの傑作です。

優れたサックス奏者として知られたクリス・ポッターの新作『Circits』(Edition)は、エレクトロニクス、多重録音を駆使し、新たなサウンドと即興性の融合を追求した意欲作です。こうした試みは現代ジャズを特徴付けるもので、ジャズが伝統的な「生楽器主体」の音楽から、エレクトリック・マイルスに始まる「サウンドの改革」を目的とした様々なテクノロジーを意欲的に利用する傾向を象徴しています。

フューチャージャズの名で知られたノルウェーのピアニスト、ブッゲ・ヴェッセルトフトと、スエーデンのジャズ・グループE.S.T.のベーシストだったダン・ベルグンドとドラムスのマグヌス・オストロムによるグループ「Rymden」の新作『Reflections & Odysseys』(Jazzland)は、北欧ジャズらしいクールかつモダンな感覚が心地よいですね。聴き所は現代ジャズらしいリズムの切れ味です。

ジョーイ・カルディラッツオのピアノにエリック・レヴィスのベース、そしてジャスティン・フォークナーをドラムスに据えたブランフォード・マルサリスの新作『The Seacret Between The Shadow and The Soul』(Okeh)は、オーソドックな原点回帰ジャズです。サックスの勢いも良く、メンバーの一体感も上々です。カルディラッツオのピアノが生き生きとしています。

イギリスで生まれカナダで育ったサックス奏者、シェーマス・ブレークの新作『Guardians of The Heart Machine』(Whirlwind)も、オーソドックスながらサックスの音色、フレージングの特徴からミュージシャンの個性が窺い知れる好演です。サックス・ジャズの伝統を受け継ぎつつ、凝縮された密度感と現代性を感じさせる演奏が彼の持ち味と言っていいでしょう。

ノルウェイのベーシスト、マッツ・エイラートセン率いるピアノトリオ・アルバム『And Then Comes The Night』(ECM)は、オランダのピアニストHarmen Fraanjeの心に染み入るような演奏が素晴らしい。ECM作品らしく丁寧に作られたアルバムで、じっくりと聴き込むほどに味わいが増してきます。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

USEN音楽配信サービス 「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」

東京・四谷にある老舗ジャズ喫茶いーぐるのスピーカーから流れる音をそのままに、店主でありジャズ評論家としても著名な後藤雅洋自身が選ぶ硬派なジャズをお届けしているUSENの音楽配信サービス「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」。毎夜22:00~24:00のコーナー「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」は、ビギナーからマニアまでが楽しめるテーマ設定でジャズの魅力をお届けしている。

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