──今年、2010年にメジャーデビューしてから15周年を迎えましたが、現在の率直な気持ちを教えてください。
「“あっという間だったな”と思う一方で、“ここまで続けて来られたんだな”という気持ちもあります」
──“ここまで続けて来られたんだな”と思ってらっしゃるということは、当時は“続けられない”と思っていたのですか?
「先日、Microくんが“15年続けられるアーティストってパーセンテージで言ったらすごく少ない”と言っていて。そういう意味で“よく続けて来られたな”という気持ちが一つ。もう一つは…僕は一生歌い続けたいので、まずは15年、大きなケガや病気もなく続けられて良かったという気持ちでもあります。売れないから辞めていく人ってかなりいるじゃないですか。でも僕にはその気持ちがなくて…音楽で生活ができないなら、バイトをしながらでも続けたいです」
──ということは、この15年間で“辞めたい”と思ったこともないですか?
「ないです。だって楽しいし。そもそも好きで始めたことなので。僕はもともとボクシングをやっていたのですが、ケガで辞めざるをえなくなって…そのときに音楽と出会いました。とはいえ、継続すること、極めることは大変でした」
──確かに継続するのは難しいですよね。特に音楽は、成長が目に見えないと思うのですが、それが辛くなったりはしないですか? それが面白さでもあるのでしょうか?
「僕は、“伸びしろはずっとある”という考えなんです。だからいつまでも“まだまだやれることはある”と思っています。周りに素晴らしいアーティストがたくさんいて、いろんなアーティストのライブを見るたびに“こんなことをやりたい”と思ったりしますし。僕、デビュー後はしばらく“レゲエアーティスト”として紹介されていたんですけど、それを取っ払ってほしいかったんです…可能性が狭くなるから。僕はアーティストとして、いろんなことをしたいです。その気持ちは今も変わりませんし、いまだにTEEとしてのアーティスト像は模索中です」
──少し変なことを聞いてしまうのですが…“周りに素晴らしいアーティストがいることが原動力の一つだった”とおっしゃいましたが、比べて落ち込んでしまったり、“この人には敵わない”と思ってしまったりしたことはなかったのでしょうか?
「むしろ、ワクワクする気持ちの方が大きいです。“すげー! 楽しそう!”と思って、“じゃあ、俺も楽しくなりたいから頑張ろう!”って」
──素敵ですね。では、始めた頃と今で、音楽を続けるモチベーションは変わっていますか? 変わらないですか?
「そもそも僕が音楽を始めたきっかけが、Des'reeの「You gotta be」の作曲者であるAshley Ingramに、カナダの公園で話しかけられたことで。僕が公園でバスケをしていたら“僕の奥さんも日本人なんだよ”と家に誘われて…そこから彼の家に毎日通うようになって、“音楽とはなんぞや”ということを教えてもらいました。Ashleyが“音楽はボクシングみたいに勝ち負けがあるものではない。今から音楽を始めて、お前はマライア・キャリーになれるのか?そういうことじゃないんだよ。そうじゃなくて、『あの人は楽しそうだな。じゃあ俺も楽しくやろう』、それでいいんだよ”と教えてくれて。“あとは自分の人生を磨けばいい。それが音楽になるから”って。それを今もずっと守っています」
──そうだったんですね。
「でもやっぱり、“歌がうまくない”ということはコンプレックスでした。「ベイビー・アイラブユー」をリリースしたときは、まだ活動を始めてすぐだったので、知名度に実力が追いついていなくて、苦労しました」
──うまくなればもっと楽しめますしね。
「そうなんですよ」
──ご自身が楽しくて始めた音楽だと思うのですが、それこそ「ベイビー・アイラブユー」のヒットに伴い、聴いてくれる人の存在というものも意識するようになったと思います。“自分の音楽は誰かに届くものだ“という認識になってから、作る音楽は変わりましたか?
「それこそ、僕は誰かに聴いてもらうことが大好きなんです。曲をリリースしたり、ライブをしたりすると、すぐにみんなに“どうだった?”って聞きます。曲も、一人で黙々と作るのではなくて、常に誰かと“いいね!”と言い合って作っていますし。だから、人の反応が全てです」
──では、常に誰かに届くイメージを持って作ったり、誰かのために音楽を作っているのでしょうか?
「そうですね。音楽を始めた理由も、誰かに“イエーィ!”って言ってもらうためだった気がしますし。ただ、それが5万人、100万人だろうが、1人だろうが2人だろうが、そこは関係ないです」
──とにかく誰かに刺さればいいんですね。
「はい。“どれだけ人がいるか“ではなくて、”目の前にいる人をどれだけ楽しませるか“を考えるのが自分の性に合っていると思います。最初は”日本武道館でライブをやってみたい“、”東京ドームでやってみたい“という夢を掲げていましたけど、客席の後ろのほうで声が届かないくらいなら、小さいライブハウスでやりたいですし」
──とにかく“その場にいる全員に届けたい”ということですね。
「はい。だけど、ファンのみんなが“武道館に立っているTEEが見たい”、“横浜アリーナでやっているところが見たい”とか“紅白歌合戦に出てほしい”とか、そういうことを言ってくれるから、最近は改めて、そういうのを目指したいと思うようになってきました」
──そんなモードのTEEさんが、デビュー15 周年を記念するEP『SHOMEI』をリリースされました。これは今おっしゃったような想いから作り始めたものですか?
「ベクトルとしてはまた違うかな?…最初にできたのが、『SHOMEI』にも収録している「空」という曲なんですが、“今のリアルな僕をしっかりと映し出したものを書きたい“と思って作り始めた曲です。「ベイビー・アイラブユー」のヒット以降、僕はずっと、レコード会社やファンの方に求められてきた曲を作っていました…「ベイビー・アイラブユー」でTEEのことを好きになってくれた人たちを大事にしたかったから。だけど、今回はそうではなくて、今の自分を鼓舞するような曲をリリースしたくて」
──そう思ったきっかけは何かあったのでしょうか?
「大きかったのはコロナ禍です。そのタイミングで子供が産まれて、“俺って何で生きてるんだろう?”と自問自答したんです」
── まさに「空」で<一体何のために生きてるんだろう>と歌っています。最初にこの曲を聴いたときは、今のTEEさんが<一体何のために生きてるんだろう>と歌うのはどうしてだろう?と思っていたのですが、コロナ禍を含めて立ち返るタイミングがあったからなんですね。
「はい。普段みんなが当たり前のようにやっていたことができなくなって、生きる意味を問われているような感じがしたので」
──弱いTEEさんが出ているというか…すべてを曝け出している印象を受けました。
「そうですね。弱い自分が書き始めた曲だと思います。というか、あのとき強かった人って、あまりいないんじゃないですか?」
──そうですね。でも“だからこそ鼓舞するような明るい曲を作ろう”と思った人もいると思うのですが、TEEさんはそこで、弱い自分をさらけ出すことを選んだんですね。
「僕、目線がみんなと一緒なんです。ステージの上から“こっち来いよ”と引っ張っていくタイプのアーティストではないので。もちろんそういうアーティストも必要ですが、僕はなんならステージから降りて、“あなたの目線で生きているやつが、ここまで来たよ”と歌うタイプのアーティストです。だから同じように大変な人、明日の空も見えないような人に寄り添いたいです。というか、自分自身が実際にそういう気持ちだったから、そのまま歌いました」
──ご自身をさらけ出した「空」ですが、作ってみて、ご自身の中で変化はありますか?
「毎日のように、いいこともあれば、ちょっと凹んだり、がっかりすることもあるじゃないですか。そういうときに聴きたくなります。だから「空」を作って良かったです。自分を救ってくれます」
──この曲を聴くとご自身でも前向きになれるんですね。
「ボクシングを辞めたのは、怪我をしてしまったからで…当時、人生で1番凹みました。その姿を見た親父が、何気なく“ちょっと空見てみ。広いやろ? それに比べてお前はちっぽけやな”と言ったんです。そのときの空を思い出して曲にしたのが「空」。だから聴くたびに、そのときの気持ちを思い出します」
──すごく良いエピソードですね。ある種切り札的なその出来事を、このタイミングで曲にしたのはどうしてですか?
「どうしてこのタイミングで曲にしたのかは自分でもわからないです。ただ、曲ができたとき、“「ベイビー・アイラブユー」を超えた”と思いました。音楽に超える・超えないはないですけど“また胸を張って聴いてもらえる曲が増えた”と思いました」
──“音楽に超える・超えないはない”とおっしゃっていましたが、もしかすると、ずっと「ベイビー・アイラブユー」に続くヒット曲を出さないといけないという気持ちがあって、その気持ちから解放された感覚になったのかもしれないですね。
「確かにそれはあったのかもしれないです。「5年後のアイラブユー」をリリースしたときに、一度楽になりましたけど、“ラブソングのTEE”というイメージを変えたい気持ちもあったのかもしれないです。今回のEPにも、わかりやすいラブソングはないですし。「U & I」は嫁と喧嘩したときに書いた曲ですし。そういう意味では、意識したわけではないですけど、“ラブソングのTEE”は少し休憩しているのかもしれないです」
──話題を「空」に戻しますね。この曲を書く上で、それこそ振り出しに戻ったりもした上で、今のTEEさんは、ご自身で、<一体何のために 生きてるのか>の答えは出ていますか?
「まず一つは家族のため、子供のため。そのためにしっかりしないといけないなというのが一つ。もう一つは、応援してくれている人、自分に期待してくれている人の存在です。僕の音楽を“良い”と言ってくれるその声が、僕を強くしているので。“次はこんなことやったら面白いかな”とか“こんなことやれば楽しんでもらえるだろうな”と考え続けていられるのは、本当に応援してくれている人たちのおかげだと思っています」
──『SHOMEI』の収録曲についてもう少し聞かせてください。昨年リリースの「AMAZING LIFE」はHIPPYさんとの共作曲です。ひさしぶりのHIPPYさんとの共作はいかがでしたか?
「すごくよかったで。HIPPYは人がいいんです。ステージに一緒に上がっているときは安心感もあって、曲作りをするときのバイブスも良くて。この曲は我が家のベランダで、2人でYogiboに寝転びながら“こういう言葉が生まれたんだけどどう?”、“ここをこうしたらどう?”って会話をしながら、気がついたら朝になっていて…」
──とても良い時間ですね。この曲は広島東洋カープ 小園海斗選手の登場曲ですが、どういったところから書き始めたのでしょうか?
「僕も昔、野球をやっていたので、“あのときから変わっていないよね”とかそういう話をしていたら、“俺らのこと書いていいんじゃない?”と気づいて。初心を思い出させてくれる曲になりました」
──HIPPYさんに対して、アーティストとしてはどのような魅力を感じていますか?
「僕はHIPPYの声が好きなんです。僕の声は“カーン”といく声だと思うんですけど、HIPPYは“どーん”と優しさで包む感じで。その2人の声が合ったときに、気持ちが良いんですよ。あと、HIPPYは日本中を立ち上がらせている途中だと思うんですが、僕はそこに少し便乗した感じです(笑)」
──TEEさんは基本的にはお一人で楽曲やレコーディングされていますが、コラボなど他のアーティストの方と作るのも面白いですか?
「面白いです。これからも、いろいろな人とやっていきたいです」
──楽しみにしています。そして、EP『SHOMEI』のタイトル曲は「証明」。この曲の着想点は何だったのでしょうか?
「これは“社員密着ドキュメンタリー『アレスの証明』というYouTube番組の曲を作ってほしい“という話をいただいたところからスタートしました。『アレスの証明』という番組は、就職斡旋サービス・就活NEO で内定を勝ち取った人たちが、その後どのようなキャリアを歩んでいるのかを追いかけるリアルドキュメンタリー番組で、現場を観に行かせていただいたんです。そしたら、彼らの姿が今の自分に重なって…」
──具体的にはどういう姿が重なったのでしょうか?
「いろいろあるんですが、リリックの1行目の<答えは出ないままさ>もその一つです。彼らは最初、内定をもらったところがゴールだったと思うんです。だけど、実際に働き始めて、慣れない仕事にあたふたしていて。僕は15年やってきて、いろんな満足感もありますし、やってきたからこそ到達したこともあって、家族もできました。でも、自分の人生の岐路に立ってみると、“答えはまだ全然出ていないな“と思って」
──お話を伺っていると、TEEさんはずっと楽しく音楽を続けてきたイメージがあるのですが、この曲の歌詞の<ズブ濡れになった帰り道>のように、“うまくいかないな”と感じることや挫折を感じたタイミングもあるのでしょうか?
「もちろんです。“これだけできる”と思っていたけど、“これだけしかできなかった”と思って落ち込んだり、親父が脳梗塞で倒れて障がいが残ってしまったり…。“人生ってうまくいくようでうまくいかないな”と思ったりします。そういうとき、“何のために生きてるんだろう?”とか、“何のために音楽をやっていたんだっけ?”と思います。昔は“東京ドームでライブをする”とか“ハリウッドスターになる”とかノートに書いていたのに、そもそも最近ではそういうビジョンすら描かなくなっていましたし。でも、目の前にあることを“楽しいよ!”と言っている自分が好きでもあって。そこでももどかしい気持ちになります…」
──現状にはもちろん満足しているけど、時々昔描いていた夢が顔を出すというか…?
「そうそう。そういう意味では、答えはまだ全然出ていないです」
──「証明」で、そういうご自身とも改めて向き合うことができたんですね。
「はい。この曲のミュージックビデオにはボクサーの森脇唯人くんに出演してもらっているんですけど、彼にも自分の夢を重ねてしまって…。だからいつかこの曲を彼に向けて歌いたいです。この曲自体は自分を鼓舞するために作った曲ですけど、この曲で、他の誰かの夢の後押しができるといいと思いますし、他の誰かに“照明”を当てられたら…という意味もあります」
──ご自身はもちろん、森脇さんや『アレスの証明』で紹介された方など、夢を追いかけている人へは、どのようなことを伝えたいですか?
「よく言うことではありますが“やめないでくれ”です。“続けていれば叶う”なんてそんな無責任なことは言えないですけど、続けないと答えは出ないから。今の僕も“続けていれば、そこにたどり着く”の途中だと思うんです。しっかりビジョンを持って続けていきたいと思っているので、みんなも続けてほしいです」
──そんな今のTEEさんの素直な思いが詰まったEP『SHOMEI』ですが、どんな1枚になったと思いますか?
「僕も含めて、少し元気がない人や落ちている人、傷ついている人に刺さると思いますし、頑張っている人にもしっかり刺さってくれると思います。人生のやる気スイッチを押せるような、そんなEPです」
──そしてデビュー15周年を迎えた今、アーティストとしてのこの先の展望や目標はありますか?
「3年後、日本武道館公演をやりたいです…いや、やります! 日本武道館に立っている自分もしっかりイメージできているので。“3年後、日本武道館でやるので観にきてね”と書いておいてください」
──わかりました。
「あと、さっきも言いましたが、いろんなアーティストとコラボもしたいです。もっと自分の表現力を高めて、いろんな曲を作っていきます!」
(おわり)
取材・文/小林千絵
RELEASE INFORMATION
LIVE INFORMATION

TEE 15周年 Tour 2025“Sound Buffet" 〜15年分、召し上がれ〜
2025年12月9日(火) 東京 HULIC HALL TOKYO
2025年12月20日(土) 広島 HIROSHIMA CLUB QUATTRO
2025年12月21日(日) 大阪 SHINSAIBASHI BIG CAT



