デザイン性と実用性を兼ね備えた「Natural-in-Frame」
カリンを創業したのは韓国の眼鏡専門店で働いていた一人の眼鏡師。眼鏡専門店が提供する品質と価格のアンバランスさに疑問を持ち、「品質の高い眼鏡を適正価格で提供したい」と自らブランドを立ち上げた。眼鏡師として培ってきた知見から導き出した「自然体こそが最も美しい」をコンセプトに、高品質な素材を使い、シンプルでナチュラルながら職人のハンドメイドで丁寧に作り込まれたディテール、アジア人の顔立ちに合わせた快適なフィット感を追求し、長時間の着用でもストレスを感じないアイウェアを生んだ。
「Natural-in-Frame」と表現する、ライフスタイルの様々なシーンに馴染む自然なエレガンスへと収斂したタイムレスなデザインは、北欧のデザインとソウルのカルチャーを融合したもの。北欧で一般的な人名の一つであるCARINというブランドネームからも、デザイン性と実用性を兼ね備えたプロダクトへの思いが実感される。
ソウルに出店したのは2014年のこと。18年頃から韓国の著名な女優やモデルを起用したプロモーションを始めるとセレブリティーやインフルエンサーのSNSでブランドの存在が拡散され、メインターゲットとする20~30代の女性を中心に熱烈なファンを増やした。その後、着実に出店を進め、本国では現在3店舗を展開する。特に今年4月に出店した聖水(ソンス)の旗艦店は、SNSなどでカリンを知った日本人女性客が購入客の半数を占める。マーケットとしての重要性が増す日本でさらにブランド認知を広げるため、25年8月に日本公式オンラインストアを開設し、10月には海外で初となるオフライン店舗を表参道に出店した。「カリンのベースにある価値観に最も合う街であり、メインターゲットである20~30代の女性に常に注目されているエリアであることから、ブランドイメージの認知拡大に最も相応しい立地として表参道が選ばれた」と、カリンを運営するスタードリームジャパン マーケティングチームの担当者は話す。
ブランドの世界観を韓国の店舗そのままに体験できる空間とプロダクト
カリン表参道は、表参道ヒルズの裏手から程ない小路が交わる十字路の角地に立地する。黒のフレームとウインドーで構成されたクラシカルでモダンな建物の1階がショップだ。
売り場面積は約100㎡。本国のデザインチームがブランドの世界観をそのまま体験できるよう韓国の実店舗を再現しつつ、表参道の街との調和を意識し、「家に帰ってきたような温かさ」を感じられる空間に仕上げた。奥行きのある店内の床には御影石、左右の壁面には大理石と天然木。スタイリッシュでありながら自然の温もりを醸し出し、軽い色を使うことで空間をより広く見せる効果を生んだ。自然光が差すエントランスのウインドー前には特注で製作した木製の椅子やテーブルを配置し、サロンのような空間も設けた。ここではシーズンや歳時記に合わせて植栽などの演出も行っていく。店舗空間に使った素材は自然のものにこだわり、韓国から取り寄せたという。BGMはデザインチーム監修のボックスにアンプとスピーカーを一体化したクラシカルなコンポーネントからのみ流すのも、こだわりのポイントだ。
奥行きのある店内。右の壁面は木製で眼鏡を、左の壁面は大理石でサングラスを提案
約220型をラインナップする眼鏡
サングラスも素材、デザイン、カラーが充実
木製の椅子やテーブルを配した空間も
オリジナルのコンポーネントからBGMを流す
この空間で提案するアイウェアは、眼鏡が約220型、サングラスが約150型と、ほぼフルラインナップが揃う。木製の壁面には眼鏡をディスプレイし、アセテートやレアメタル、それらのコンビネーションという素材ごとにゾーニングした。大理石の壁面にはサングラスを集積し、レンズやフレームのカラーを比較しやすいビジュアルプレゼンテーションになっている。サングラスは「LOOK IN CONFIDENCE」をコンセプトに製作され、身に着けた人が自信を持て、自身をより魅力的に演出できるよう意図されている。このほか、アイウェアケースやグラスチェーン、ハンドミラー、バッグなどオリジナルのアクセサリーも揃え、「アイウェアよりも買いやすい価格なので、自分用はもちろん、プレゼント向けにも喜ばれている」。
20~30代の女性を中心に、世代や国・地域、ジェンダーを超えて集客
マーケットの反応はオープン早々から現れた。韓国と同様に20~30代の女性を中心に集客し、カップルや親子での来店もかなりあり、男性客も訪れる。「すでに韓国の実店舗でカリンを体験された方々や、韓国のファッションブランドやKポップが好きでSNSを通じてカリンのことを知った方々など、購入目的で来店されるお客様が多い」という。実際に来店すると、「想像していた以上に種類があるため迷ってしまうお客様もいます。スタッフの接客を受けていろいろ試着した結果、普段は選ばないようなモデルが意外と似合うことを発見し、お気に入りの1本として購入することも結構あります」とスタードリームジャパン。日本人客もさることながら、立地特性を反映して訪日外国人客も多く来店し、全体の半数を占める。特に欧米からの外国人客は目を守る意識が強いことからサングラスのニーズが高く、複数購入にもつながっている。
若い人に人気なのはリムレスタイプの「SIENNA(シエナ)」シリーズ。レトロなリムレスフレームと細いリムのすっきりとしたデザインは様々なファッションに馴染み、テンプルの先端に施したデュアルラインにより滑りを防ぎ、快適な装着感をもたらす。リムタイプでは、横長の狭いリムと太めのフレームが特徴の「AINO(アイノ)」が活発に動いている。1990年代のレトロなムードを現代的な感覚で再解釈したシリーズで、ブランドに通底する「ニュートロ」なデザインが好評だ。表参道店のオープンから1カ月を待たずに完売し、再入荷した。同シリーズのサングラスは外国人客、日本人客ともに人気。韓国のインフルエンサーSEOULPPEU(ソルプ)とコラボレーションしたサングラス「LUVLINE(ラブライン)」と眼鏡「LUVGLAZE(ラブグレイズ)」も注目。サングラスはレトロなカラー展開のバタフライ型フレームに、眼鏡は繊細なデザインのフレームにさり気なくデザインされたハートモチーフが若い女性に響いている。
リムレスの「シエナ」は若い客層に人気
「シエナ」
「シエナ」
日本人客にも外国人客にも人気の「アイノ」シリーズのサングラス「サン アイノ」
「サン アイノ」韓国のインフルエンサー、ソルプとコラボしたアイウェアとサングラス、眼鏡ケース
「ファッション性×専門性」の体験価値を伝える日本のベースに
ファッションとしてのアイウェアを展開しながら、専門店としての機能もしっかりと備えているのは、やはりカリンの魅力だ。レンズは単焦点、遠近両用、調光(紫外線で色が変わり、サングラスとしても使用可能)、ブルーライトカット、カラーがあり、オプションでフレームに装着できる。店内には検眼機と加工機を設置し、在庫があるレンズであれば好みで選んだレンズや視力に応じて加工したレンズとフレームを組み合わせ、3300円から最短30分で提供する。また、ブランドの運営会社はカリンと日本の眼鏡専門店の共同出資で設立されているため、その専門店で業務を経験したスタッフが表参道店にも常駐し、「着け心地良く作られたアイウェアをよりフィットさせる」など専門的な接客応対を可能にしている。今後は公式オンラインストアでの試着予約サービスもスタートさせ、来店しやすい環境を整えていく予定。
アイウェアの価格は1万円台後半から2万円台半ばを中心とし、レンズを加えて平均客単価は3万円台前半ほど。メインターゲット層にとっては「ちょっと背伸びする価格」だが、良い物を大切に使いたい、スタイリングの一部に質の高いものを取り入れたいといったニーズの受け皿となっている。「ちょっと頑張って買ったアイウェアを身に着けることで、気分が上がり、自分に自信を持て、また頑張れる。一人ひとりにとってそういう価値を備えたブランドになっていきたい」とスタードリームジャパン。
そのためにも、実店舗での「ファッション性×専門性」のブランド体験は重要になる。インフルエンサーとも連携したSNSによる発信など、20~30代の女性にリーチするプロモーションを充実させながら、「ブランドの魅力を伝え、表参道店でしかできない体験を提供していく」としている。
写真/野﨑慧嗣、スタードリームジャパン提供
取材・文/久保雅裕
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久保雅裕(くぼ まさひろ)encoremodeコントリビューティングエディター。ウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。元杉野服飾大学特任教授。東京ファッションデザイナー協議会 代表理事・議長。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。