「音楽史に大きな足跡を残した音楽家たちへ」と題してお届けするコラムの後編です。USENディレクターが、今年、この世を去った音楽家たちへの想いを綴ります。
ディアンジェロ(D'Angelo)1974年2月11日~2025年10月14日
リアルタイム世代にとって特に衝撃的だった訃報。今年3月のアンジー・ストーンの急逝の傷も癒えぬ間、パートナーだったディアンジェロまでという――ここでは敬意を込めてブラックと称しますが――ブラック・ミュージック・ファンにとっては本当に辛い1年に。自身のブラックネスを追求する不世出の音楽家であり、J・ディラやクエストラヴらと共に世界に示し続けた画期的な音楽性は、今日まで絶対的な影響力を誇り、そんな彼の貴重なステージを体験できたのは2016年の大阪国際会議場。キャリアの集大成ともいえる『Black Messiah』をセットの軸に、先人たちへのリスペクトにも溢れたステージ。計算し尽くされた音源とは一線を画し、より肉体的でファットなグルーヴをまとわせたアレンジで、ホールをライヴハウス化させたパフォーマンスは一生の想い出に。待望の4作目をラファエル・サディークと制作中だったとの噂が、より寂しさを募らせます。
D'Angelo and The Vanguard / Betray My Heart
1st、2nd当時、彼の名前は「耳にしたことはあるかな?」程度の認識で、はっきり意識した後にリアルタイムで体験でき、リリース日にレコード屋へと走った『Black Messiah』から。どの楽曲をピックアップするかは悩んだのですが、何となく今の気持ちとリンクする1曲を。
ディアンジェロ関連の楽曲はこのチャンネルで(USEN MUSIC GUIDE)
ロイ・エアーズ(Roy Ayers)1940年9月10日~2025年3月4日
“King of Vibes”の異名を持つヴィブラフォン奏者、プロデューサー。ジャズ・シーンを出発点に、ソウルやファンク、ディスコやハウス・シーンにも及ぶ比類なき影響力。レアグルーヴ・ブームやクラブ~DJカルチャーにおける存在のスタンダード化。アフロビートへのアプローチ。何よりHIP HOPシーンへの恩恵も凄まじく、数多のビートメイカーたちが彼の作品をソースとするなど、ブラック・ミュージック史にインスピレーションを与え続けてきた偉人。そんな彼のステージを体験できたのは2014年のBillboard Live TOKYO。ATCQ(ア・トライブ・コールド・クエスト)のアリ・シャヒード・ムハマドを迎えた一夜でした。彼をロールモデルとしてきた後進たちが自身の道を切り拓くこととなり、音楽シーンの第一線を更に発展させている現在。彼の影響力は、今なおシーンの根となり支え続けていることを実感させられます。
Roy Ayers Ubiquity / We Live In Brooklyn, Baby
それまでも彼の作品は耳にしていたものの、その存在を強烈に意識したきっかけはジェイ・Zがサウンドトラックをキュレーションしたテレビゲーム『NBA 2K13』から。モス・デフ「Brooklyn」、近年ではケンドリック・ラマーも「Good Kid」でサンプリング。
ロイ・エアーズ関連の楽曲はこのチャンネルで(USEN MUSIC GUIDE)
スライ・ストーン(Sly Stone)1943年3月15日~2025年6月9日
1960~70年代のクラシック・ロック期やブルースなどから海外のポピュラー音楽に興味を持ったのですが、更に強烈な勢いでファンクという新たな扉を開いてくれた……というか、蹴り破ってくれたくらい衝撃的な出会いだったスライ。よく周りの音楽好きからは「結局、どこまでいっても、ファンク=J.B.」と諭されるのですが、否定はせずとも、個人の経験としては「ファンク=スライ」は仕方のないことで。フラワー・ムーヴメントや公民権運動で揺れる時代に開放的なメッセージを届けたトップランナー期、クールを極めたようなミニマルで内省的な視点が先進的だったキャリア中期、その後のゴタゴタしたキャリアも含め、常に憧れの1人でした。「もうスライも、プリンスも、ディアンジェロもいないんだな」という友人の言葉が印象的で、同じ時代を生きた喜びはありつつ、スライのステージを体験できなかったことが本当に心残りです。
Sly & The Family Stone / I Want To Take You Higher(Live at The Woodstock Music & Art Fair)
“伝説”という枕詞と、そこに出演した数々のロック・レジェンドたち目当てで観たウッドストック・フェスの映像。そんな目当てのミュージシャンたちを跳ね飛ばし、一番の衝撃となったスライ&ザ・ファミリー・ストーン、圧巻のパフォーマンスを。
スライ・ストーン関連の楽曲はこのチャンネルで(USEN MUSIC GUIDE)
スティーヴ・クロッパー(Steve Cropper)1941年10月21日~2025年12月3日
一番好きなギターはテレキャス。テレキャスと言えばリズム・ギター。と、言った自身のギター像と偏愛のもととなったギタリスト。もともとは、個人的に絶対的なグループの1組であるブッカー・T&ザ・MG'sのメンバーとして知り(それより前に映画『ブルース・ブラザース』で姿は観ていたものの、意識せず)、色々と聴き、調べる中で、腰を抜かすようなキャリアを積み重ねた世界的ギタリスト、作曲家だったクロッパー。初めてステージでその姿を観たのは、ウィリー・ハイタワーと共に来日したBillboard Live。長い白髪を後ろで束ねた髪型、ダンディな髭面、手にはもちろんテレキャスター。世界中が惚れまくったメンフィス・ソウル・レジェンドの風格たっぷりに、ソウル黄金期を彩った、その一挙手一投足を決して見逃すまいと、ウィリーを尻目にクロッパーをガン見で楽しんだ一夜でした。
Sam&Dave / Soul Man
ブラック、ホワイトという垣根を越え、双方の橋渡しとなったインストヒット「Green Onions」を。とは思ったものの、演奏しているクロッパーが観たくなり、「The Midnight Special」公式より。度々、日本のメディアでも使用されるソウル・クラシックス。
スティーヴ・クロッパー関連の楽曲はこのチャンネルで(USEN MUSIC GUIDE)
サム・リヴァース(Sam Rivers)1977年9月2日~2025年10月18日
学生時代はメロコアやスカコア、ミクスチャー・ロック全盛期だったのですが、音楽雑誌上に掲載された「どうやらレイジがリンプをこき下ろしているらしい。特にフレッド・ダーストはシーンでもむちゃくちゃ嫌われているらしい」という情報が広まり、「リンプ・ファン=軟派」というレッテルを怖れ、青春時代特有の煽動されやすさと狭い視野から自身の周りでも軽んじられていたリンプ。でも実は、みんなが隠れて聴きまくっていたリンプ。フレッドとウェスという超個性的なキャラクターを1歩後ろでどっしり支えたサム・リヴァース。ウェスの特徴的なギタープレイに並走して厚みを加えるサムのベースが大好きでした。ステージを体験できたのはサマソニ ‘09にて1度だけ。悪童のフレッド、面白ビジュアルのウェスを横目に、サム寄りの観客サイドでじっくりと爆音の低音を魅せられました。
Limp Bizkit / Break Stuff
サムのベース・オンリーで考えると「Re-Arranged」など様々あるのですが、やはりバンドを代表しベースも好きな楽曲を。ドレー、スヌープ、エミネムに始まり、コーンのジョナサン・デイヴィス、レッチリのフリーなど、多数のカメオ出演ゲストが豪華すぎます。
サム・リヴァース関連の楽曲はこのチャンネルで(USEN MUSIC GUIDE)
マニ(Mani)1962年11月16日~2025年11月20日
学生時代にバンドを結成しベースを担当する中で、初めて「この人のようなベースを弾きたい」と強烈に思ったベーシスト。現在までのUKロックやインディ・シーンの興隆において絶対に外せないプレイヤーの1人という評価以上に、個人的には大きな存在でした。ストーン・ローゼズ、プライマル・スクリームでのプレイはもちろん、2011年、ローゼズの奇跡の再結成に一役を買い、翌年のFUJI ROCK開催と同時にヘッドライナーとして異例のリリースとなった際は狂喜し、当日の現地、そこから数ヵ月はローゼズに溺れていた記憶があります。またあの頃のようにマッドチェスターから現在のUKシーンの踊れる音楽などを聴き漁っているのですが、マニ自身はもちろん、レニとの黄金のグルーヴ・コンビは絶対に色褪せない想い出ということを再確認しました。
The Stone Roses / Fools Gold
少しだけベースが弾けるようになった頃、「弾かない/間を活かしたグルーヴ」「楽譜的には同じように弾いても全く感じが出せない」という2つの難題を教えてくれた1曲。ベースでのグルーヴとメロディの活かし方、その2つの側面を初めて意識させられた人でした。
マニ関連の楽曲はこのチャンネルで(USEN MUSIC GUIDE)
特集「音楽史に大きな足跡を残した音楽家たちへ」後編、いかがでしたか?2025年もあとわずかですが、彼らが残した素晴らしい音楽を聴きながらその足跡を辿ってみてください。
(おわり)
文/三浦祐司(USEN)
Photo by Ishikawa Ken(CC BY-SA 2.0)

三浦 祐司(みうらゆうじ)PROFILE
株式会社USEN 編成制作課所属。各チャンネルにて選曲、ディレクションを担当。アンジー・ストーン、サム・ムーア、ジェシ・コリン・ヤング、ジェリー・バトラー、デイヴ・アレン、テディ・オセイ、ドゥエイン・ウィギンズ、バリー・ゴールドバーグ、ボビー・ウィットロック、マイケル・ハーレイ、ロイ・トーマス・ベイカー、ロジャー・ニコルス、ロバータ・フラック、晋平太。ここでは取り上げることが出来なかったですが、素晴らしい歌声、演奏、作品の数々、ありがとうございました!
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