理由や理屈が必要なことはやりたくなかった

運営会社はアンドマザー、ショップはアンドファザー。アンドマザーは、子育て中のオーナーがNHKの「おかあさんといっしょ」の番組名を英語にしたときの響きの良さから、自身が独立して立ち上げたアパレル企画・製造・卸の会社名に冠した。「家族への責任の表明のような意味もあり名付けました。母の日に会社を設立することを決め、勇んで登記をしたら1日早かったのですが……」とオーナー。2024年6月に立ち上げたセレクトショップは、件の番組の父親版「おとうさんといっしょ」が土曜日の放映だったことによる。
「自分たちが作る以上に良いものは世の中にたくさんあります。ならば、わざわざ作るのではなく、自分たちが着たいと思ったものをセレクトしたほうがいい。お客様も、いろいろなブランドのいろいろな商品の中から選べるというセレクトショップの醍醐味を実感できます。そういう体験を提供し続けることに価値があると思ったんです。理由や理屈が必要なことはやりたくなかったというか、自分たちが好きなことを、自分たちが心地良いリズムでやりたかった。たまたまファッション消費の中心地とは距離を置いた東東京に事務所が見つかり、昭和時代の何か良いムードがあったので、そこでスタートさせました」。
事務所の一角ということもあり、営業は土曜日のみの予約制。アイウェアやスキンケア、古物を中心に洋服や靴も揃える形態で立ち上げ、「お店未満」のセレクトショップはインスタグラムなどのSNSによる口コミで顧客を増やした。常設店舗の出店を決めたのは翌年のことだった。買い付けから販売まで専任できる人材、新たな店舗物件を探し、25年1月にオープンさせたのが「アンドファザー東日本橋店」だ。オーナーが毎日利用していた地下鉄・馬喰横山駅の出口の隣りに倉庫跡の物件を見つけ、30㎡弱だが天井高約7mという「開放的で奇妙な空間、随所に杭が残った構造物らしさが魅力的で、内見したその場で即決した」。

問屋街にある「アンドファザー東日本橋店」

MDはセレクトショップの店長経験があり、東日本橋店の立ち上げからメンバーに加わった西田新大さんに一任し、服を軸にラインナップが強化された。「自分が着たいかどうかを重視し、気になるものがあれば足を運び、商品を実際に見て、着て良いと実感したものをセレクトしています。ブランドというよりは、あくまでモノが基準というか。おしゃれをして出掛けたいときに着たいとか、家で過ごすときに着たいなど様々なシーンを思い描いて、気分が上がるものを仕入れている」と西田さんは話す。その結果として、「ANCELLM(アンセルム)」「A MACHINE(エー マシーン)」「ANTOS.(アントス)」「barbell object(バーベルオブジェクト)」「BRADOR(ブラドール)」「forme(フォルメ)」「Kazuki Nagayama(カズキ ナガヤマ)」「Morphée(モルフェ)」「SANDERS(サンダース)」など、気鋭のブランドが集積されることとなった。

アンドファザーのバイヤー、東神田店の店長を務める西田新大さん

江戸期から続く問屋街に突如出現した小さなセレクトショップは、SNSで店舗や商品を紹介する程度で特に宣伝することもなく、セール時期にプロパー販売でのオープンだったが、地域に暮らす人たちや関東近郊、遠方からも来店が増え、売り上げも好調を持続。年代も30代から70代と幅広く、「僕が知らないブランドやカルチャーなどをご存知のファッション経験が豊富な方も多く、学ばせていただいている」と西田さんは話す。そうしたコミュニケーションがきっかけで買い付けることになった商品もあり、MDは充実していった。「日進月歩でやってきて、もっとゆったりと商品を選んでいただけ、アンドファザーの個性を表現した空間を作りたいと思った」とオーナー。そこで出店したのが東神田店だった。

25年11月にオープンした「アンドファザー東神田店」

「面」で見せる東日本橋店、「点」で見せる東神田店

東神田店は馬喰町から徒歩圏で、東日本橋店の約3倍の面積を持つ。スケルトンの状態でたまたま空きが出たライオンズマンションの1階にある物件を紹介され、こちらも即、出店を決めた。「ライオンズマンションは家族を守るライオンのように家族への愛を育み、地域や社会と共存することをテーマとして開発されたのが始まり。アンドマザー、アンドファザーの考え方と重なります。以前から勝手に親和性を感じていたので、ここしかないと思いました」とオーナーは話す。
内装は「ラグジュアリー感とアットホーム感が合わさった雰囲気」をテーマに、躯体を程よく残しつつ、縦に長い空間に床や壁、天井まで同素材で設えた部屋のような二つの空間を連続させ、さらに奥行きを生んだ。エントランスを入って左手には奥までハンガーラックが伸び、服を見ながら自然と足が前へと向くよう構成。右手には通路を設け、フレグランスやキャンドルなどを提案する白い大きな棚を配置し、奥にはフレグランスを試したり、お茶をしながら会話を楽しめる流し台付きのカウンターを設置した。どうしても気になるのは、店頭に置かれた大きな岩。「何かの象徴とかではなく、置きたかったんですよ。店を知るきっかけになったり、店を出た後に、大きな岩がある店として思い起こしてもらえるように。店のキャラクターみたいなもの」とオーナーは話す。

棚にはフレグランスやシューズなどが整然と並ぶ
同素材のタイルで設えた部屋のような空間
店頭に鎮座する大きな岩
店奥に設置したカウンター。この日は「Sara Finchley(サラ フィンチリー)」の受注会を開催していた

東神田店のオープンに際しては、それまで取り扱いのなかったブランドも揃え、2店舗で35ブランドほどを展開する。重複するブランドもあるが、東日本橋店は一つひとつのブランドをラインナップで揃えて「面」で見せ、東日本橋店はさらにセレクトして「点」で見せているのが特徴だ。東日本橋店は靴やバッグなどの小物・雑貨も充実させ、コーディネートのイメージが湧きやすく、東神田店は一点一点を吟味して選ぶことが想定された品揃えとなっている。この背景には店ごとに設定したテーマがある。東日本橋店はカジュアルな「1つ星」の店、東神田店はスペシャルな「3つ星」の店とした。いわゆるミシュランのランクとは異なり、店のキャラクターとして星はある。1つ星は「近くに来たら立ち寄りたくなる親しみと心地よさを持つ店」、3つ星は「わざわざ訪れたくなる、特別で贅沢な時間を提供する店」。それぞれの店舗に共通するのは居心地の良さ、顧客体験が重視されている点だ。

東日本橋店のディスプレイ
店奥まで続くハンガーラックが特徴的な東神田店

特に3つ星の東神田店では、見た目はシンプルだが作り込まれたディテールの服が並ぶ。「centuryondemand(センチュリーオンデマンド)」は今年からデリバリーを始めたブランド。表裏ともにラムレザーの銀面を使ったブルゾンは出色だ。裏は厚みを持たせ、ボンディングによってディテールを表に浮き出させた。裁ち面はコバ塗り、襟は角落としなどこだわりを凝縮。1着を4つの工場の連携で作り上げた。ロンドンを拠点に日本人の根底に流れる感性や美学を新たな文脈で捉え直し、日本の職人と共に作り上げたプロダクトを通じて発信する「gokan studio(ゴカンスタジオ)」に色別注した「TATAMI Mat(タタミマット)」も好評だ。畳職人が手仕事で製作したもので、撥水加工を施した和紙畳なので、水分や汚れが染み込みにくく、お手入れも簡単。キャンドルの台座、アクセサリーなどの小物置き、お茶などのトレーなどに使え、和洋いずれのライフスタイルにもフィットする。ゴカンスタジオが展開する備前焼のキャンドルも扱い、米袋のパッケージで提供している。フレグランスやボディケア製品も充実。フランスの「Notes de Bas de Paje(ノート ドゥ バ ドゥ パージュ)」やデンマークの「FRAMA(フラマ)」、日本の感性とフランスの調香技術が融合した「çanoma(サノマ)」、英国の「Austin Austin(オースティン オースティン)」があり、「パートナーとの来店が多いので力を入れている分野」とする。

フレグランスも試しながら選べる
「センチュリーオンデマンド」のラムレザー製ブルゾン
備前焼キャンドルの米袋パッケージ
ゴカンスタジオの「タタミマット」と備前焼のキャンドル

また、東神田店ではポリエステル縮緬に東神田店の紋をプリントした風呂敷をショッパーに採用。小判から大判までの4サイズで、手持ち、肩掛け、襷掛けが可能。「東神田店で買い物をした普段とは違う日を大事にしていただきたいという思いの表現」という。

東神田店のショッパーは風呂敷

「人」を軸に、アンドファザーに来た一日を充実させる

実店舗を出して1年と少し経つが、並行して進めてきたオンラインストアと共に業績は好調に推移している。「ECはまだ改善が必要ですが、会社全体の売り上げの3割ほどまで伸びています」とオーナー。オンラインで商品を購入した地方の客が東京に来た折りに実店舗に来店し、2店舗を買い回りすることも増えてきた。「インスタグラムで商品に関してお問い合わせがあり、お取り置きをするパターンも多いですね」と西田さん。また界隈ではホテルなどの宿泊施設が増えている中、訪日外国人客も来店するようになった。台湾や韓国からの旅行客を中心に、「インスタグラムでアンドファザーのことを知り、下調べした上で目的を持って来店される」という。

夫婦や友達同士などカップルでの来店が多いのもアンドファザーの特徴だ。「初回は一人で来店し、座って休める場所があったり、フレグランスもあったりするので、2回目以降は奥様やご家族と来られる」。そうした来店客へのホスピタリティーにも気を配る。東神田店は最寄り駅から少し歩くため、フェイスタオルや汗拭きシート、衣類の乾燥やシワ取り、花粉の除去などの機能を持つ機器も常備している。家族での来店客のために、子供にプレゼントする玩具も用意していたりする。「物価が上がり、お客様の支出も増えています。服も値段が上がっている中で、品揃えのクオリティーに見合ったサービスを提供できないと、ただ高価なものを置いている箱になってしまう。西田がセレクトする服の価値は確かなものなので、理屈的に説明するよりも、それ以外の部分でお客様により楽しんでいただけるコトを備えることが課題と捉えています。その軸となるのが『人』」とオーナーは話す。
今後は3店舗目の出店も視野に入れるが、これまでと同様、相応しい「人」の確保を最優先で考えている。「全て人次第で、器に人を当てはめていくような考えはないんです。人によってはアパレルの店舗ではないかもしれません。界隈に何かもう一つハブになる場があれば、アンドファザーに来る一日をもっと充実させられるのではないか。何を、どうやったら面白いものになるか、楽しませられるものになるか、常に考えている」。既存の2店舗では、「アンドファザーですから、年に一回の父の日にはサプライズになるようなことを企画していく」としている。

写真/野﨑慧嗣、アンドファザー提供
取材・文/久保雅裕

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久保雅裕(くぼ まさひろ)encoremodeコントリビューティングエディター。ウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。元杉野服飾大学特任教授。東京ファッションデザイナー協議会 代表理事・議長。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。

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