ジャズ喫茶を半世紀近くやっていると、折々の新譜には当然関心があります。率直に言って、シーンに活気があり次々と話題作・傑作がリリースされる時代と、沈滞期というか、いまひとつ乗れないアルバムばかりが続く時代がありました。
そうした長い眼で見てみると、明らかにここ数年はジャズの新たな可能性が見えていると言っていいでしょう。時代の最中ではその動きを明確なことばで説明するのは難しいのですが、従来の「ジャズ史観」では説明出来ないようなアルバムが世界中から出ています。
たとえば黒田卓也の新作『ジグザガー』(Concord)などは、つい「マイルスの影響」などということばが出かかりますが、よく聴くと、かつて多くあった「マイルスの子供たち」あるいは「孫たち」の作品とは、一線を画する斬新さが聴き取れます。具体的にはリズムの扱いの進化・洗練がまず挙げられるでしょう。それはメンバーの技量が昔とは比較にならないぐらい向上していることも大きいのですが、なによりそれらをアルバムに纏め上げる黒田のクールなセンスが、まさしく「今」なのですね。
そして同じことが、このところいろいろな形でご紹介しているスナーキー・パピーのライヴ盤にも言えます。今回収録した32枚組みボックス・セット『ワールド・ツアー2015』(Ground Up)は、2015年のツアーの記録で、彼らがまさに「ライヴ・バンド」であることを示した名演です。同じ曲目も当然ありますが、微妙にテイストが違う。そして何より、めちゃくちゃテクニックが凄い。
「ハイテク・バンド」は大昔のフュージョン全盛期にも山のように出現しましたが、表層的なサウンドは似ていても、ライヴを聴くとスナーキーの新しさが実感できます。それをひとことで言い表すと、彼らの演奏は極めて「ジャジー」なのですね。まさに新時代の「グルーヴ感」が感じ取れるのです。
つい最近惜しくも亡くなってしまったプリンスが賞賛した、ピアノ、ヴォーカルのキャンディス・スプリングスの歌声は、聴くほどに味が出るタイプ。ぜひライヴでじっくりと聴いてみたいミュージシャンです。
クラウディア・クインテットとアンリ・テキシェの新譜は前にもご紹介しましたが、一般のジャズファンはあまり聴く機会も無いかと思い、違う曲目も含め、再びお聴きいただきます。最後に登場する「ハウス・オブ・ウォーターズ」は、今ニューヨークで注目されている3人組にグループです。リーダー格のMax ZTは、ハンマー・ダルシマーという「琴」のように張った弦をスティックで叩いて音を出す珍しい楽器を巧みに操って、ジャズに新風を吹き込みました。とにかく今、ジャズは面白い。
文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)
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