2016年新春の「ブルーノート東京」での公演がたいへん好評だった新人トランペッター、クリスチャン・スコットの新たなメンバーによる新作『Stretch Music』(Ropeadope)は、切れの良いリズムとアンサンブル・サウンドがたいへん心地よい傑作です。それにしても鮮烈な赤が印象的なジャケットに写る変形トランペットは、まるで「知恵の輪」みたいですね(笑)。

話題のグループ、スナーキー・パピーの『ファミリー・ディナーVol.2』(Ground Up)は、冒頭に収録した《アイ・アスクト》のベッカ・スティーヴェンスはじめ、多彩なゲストが魅力です。2曲目《モリノ・モレノ》にはギターのチャーリー・ハンター、南米の女性歌手スサーナ・バカが参加しています。エキゾチックな味わいが聴き所。そして3曲目《リキッド・ラヴ》は男性ソウル・シンガー、クリス・ターナーがフィーチャーされたファンク・ナンバー。このように「スナーキー・パピー」は、ゲストのテイストに合わせて万華鏡のように音楽の表情を変えるつつも、バンドとしての音楽的統一感は見事に保たれているところが素敵ですね。

若手ピアニスト、Julien Shoreの新譜『Which Way Now』(Tone Rough Record)は、聴き手の想像力を刺激するサウンドが新鮮です。ピアノの響きも美しさと力強さがうまい具合に共存しています。

つい最近80歳の誕生日を迎えたカーラ・ブレイの新作『Andand el Tiempo』(ECM)は、アンディ・シェパードのサックスと、長年の相棒であるスティーヴ・スワローのベースのみを従えたシンプルなトリオ編成です。それにしても、彼女の衰えを見せない旺盛な音楽的想像力にはまさに脱帽です。静けさの中にもエネルギー感を秘めたピアノのタッチも驚き。

Fractal Limit 『Hand In Hand』(自主制作)は、多くのアルバムに参加しているブラジルの人気歌手、タチアナ・バードとアルメニアのピアニスト、ヴァルダン・オヴセピアンによるデュオ作品です。かなり異色ですが、聴くほどに味わいが増す素晴らしいアルバムです。

タチアナの情感溢れるヴォイスと、クールで理知的なヴァルダンの組み合わせが不思議な魅力を醸し出しているのですね。こうしたアルバムに象徴されるように、現代ジャズ・シーンはまさにジャンル横断的、そして文字通り国境、地域を越えてさまざまな音楽が混ざり合い、新たなシーンが産み出されているのです。

そして最後はチック・コリアと小曽根真のデュオ・アルバム『Chick & Makoto –Duets』(Verve)は、チックと小曽根のこれまでの共演作品を1枚にまとめたコンピレーションですが、未発表の即興演奏トラックが収録されています。

それにしても、二人のせめぎ合いのスリル、そしてそこからうまれるジャズならではの醍醐味は筆舌に尽くしがたいものがあります。良く知られた《ブルー・ボッサ》や《ラ・フィエスタ》も素晴らしいのですが、即興演奏がぶつかり合う《Duet Improvisation Vol.4》の緊張感もたまりません。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

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