現在も第一線で活躍しているギタリスト、パット・メセニーは、1970年代ECMレーベルに吹き込んだ初リーダー作『ブライト・サイズ・ライフ』でファンに知られるようになった。このアルバムが出た当時は、従来のジャズギターの系譜に納まらない斬新なスターが登場したと、コアなファンの注目を浴びたものだった。ベースはなんとジャコ・パストゥリアスだったのだけど、まだ無名で誰も知らなかったのだから面白い。

そしてリーダー2作目の『ウオーターカラーズ』(ECM)で共演したピアノのライル・メイズとは、後に「パット・メセニー・グループ」を組むこととなる。これら初期の2作品はヨーロッパのレーベルから出たこともあって、メセニーがアメリカのミュージシャンだということはあまりファンに意識されていないようだった。それが変化したきっかけが、タイトルも『アメリカン・ガレージ』(ECM)というアルバムで、曲想もそれまでの北欧的で幻想的なものから一気にポップな明るいものへと変化している。

パット・メセニーとライル・メイズのコンビの最高傑作が『ウイチタ・フォールズ』(ECM)だろう。二人の才能が実にうまい具合に発揮されている。エレクトリック・ツールを駆使した想像力を喚起するサウンドは、今聴いてもまったく古さを感じさせない。

『トラヴェルズ』(ECM)は、1982年の夏から秋にかけてのパット・メセニー・グループの膨大なツアー記録から、メセニー自身がセレクトしたベスト・トラック集で、アルバム冒頭に収録された《アー・ユー・ゴーイング・ウイズ・ミー》はまさに名曲。そしてこれまでのメセニーのイメージを変えたのが『リジョイシング』(ECM)だ。ホレス・シルヴァーによる《ロンリー・ウーマン》を取り上げているが、これが素晴らしい。一音一音をじっくりと演奏するメセニーのギタリストとしての実力がはっきりと聴き取れる。サイドもいつものメンバーとは違い、メセニーが心を寄せるオーネット・コールマンのサイドを務めたチャーリー・へイデンにビリー・ヒギンスで、彼らの参加も表現に深みを与えている。

80年代、それまでのECMレーベルからゲフィン・レーベルに移籍したパット・メセニー・グループは一気にブラジル色を強めていく。『スティル・ライフ』(Geffen)はその第1弾で、ECM時代のクールなサウンドからいかにも南国の空気を感じさせるゆったりとしたものへと変わっている。

『クエスチョン・アンド・アンサー』(Geffen)はもともとレコーディングのつもりはなく、単にやりたいからやっただけのセッションがたまたまテープに録られており、思いのほか出来がいいので発売したといういわくつきのアルバム。メンバーもデイブ・ホランドのベースにロイ・へインズのドラムスという、いわば“純ジャズ”メンバーで、内容もまさに“ジャズギター”になっている。

『ザ・ロード・トゥ・ユー』(Geffen)はメセニー・グループの総決算的ライヴ記録で、冒頭の《ハヴ・ユー・ハード》が実にカッコいい。そしてメセニーが民族音楽的なテイストを取り入れたのが『シークレット・ストーリー』(Geffen)だ。冒頭のカンボジアのコーラスが聴き手を異次元に誘い込む。

『イマジナリイ・デイ』はワーナー・ブラザースに移籍してからのアルバムで10分に及ぶタイトル曲は、メセニー、ライル・メイズほか6名のミュージシャンが織り成すサウンドが聴き所。そして最後に収録した『ニュー・シャトゥカ』(ECM)はメセニーが多重録音を駆使して想像力に満ちた世界を作り上げた傑作だ。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

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