1923年生まれのデクスター・ゴードンは、26年生まれのジョン・コルトレーン、29年生まれのソニー・ロリンズなどよりは上の世代に属するテナー・サックス奏者で、1940年代にバド・パウエルと共演するなど、ビ・バップ時代から活躍したジャズマンだ。しかし50年代は麻薬のため活動を中断、1961年にブルーノートと契約した頃から人気が出始め、63年から76年にかけてはヨーロッパに活動拠点を移していた。

『ゴー!』(Blue Note)はワンホーンの傑作で、オリジナルの名曲《チーズ・ケーキ》を気持ちよく吹いている。落ち着いた音色で演奏をピリリと締めるサイドのソニー・クラークも適役で、このアルバムの価値を高めている。聴き所は豪快なテナーの音色が実にスムースなところで、ゴードンは迫力と滑らかさが同居する珍しいタイプのテナー奏者であることがよくわかる。

『ゲッティング・アラウンド』(Blue Note)はボビー・ハッチャーソンのヴァイブが参加しているが、いわゆる“60年代新主流派”的な緊張感は無く、演奏曲目も《黒いオルフェ》など親しみやすい曲が並び、肩の力を抜いたデクスター・ゴードンの心地よいテナー・サウンドを楽しむアルバムだ。

パリに在住していたバド・パウエルとの再会セッションである『アワー・マン・イン・パリ』(Blue Note)は大物同士の顔合わせだが、ともにバップ世代だけに違和感はなく、マイペースのパウエルを自由に振舞わせつつ、自らも奔放にテナーを吹きまくっている。彼らの手かかると、バップ・チューン《スクラップル・フロム・ジ・アップル》が生き生きと60年代に蘇る。デクスター・ゴードンはこのパリ録音以後ヨーロッパに定住し、70年代ハードバップ・リバイバルの動きを準備する。

『モンマルトル・コレクション第1集』(Black Lion)は「モンマルトル」とあるのでパリの録音とカン違いしそうだが、北欧コペンハーゲンのジャズクラブでのライヴ・レコーディング。同じくヨーロッパに活動拠点を移したケニー・ドリューがサイドで煽り立てる《ソニー・ムーン・フォー・トゥー》が絶品で、時代は60年代後半だがハードバップ全盛期を彷彿させる熱演だ。このエネルギーがヨーロッパ発の70年代ハードバップ・リバイバルの起爆剤となった。

『クラブハウス』(Blue Note)はフレディ・ハバードとの2管セッションで、サイドのピアノはバリー・ハリス。メンバーを見ただけで出来がよさそうだと想像できるが、まさにその通りの気持ちよいハードバップ・セッションで、なぜこれが録音当時お蔵入りしてしまったのかはまったくわからない。ブルーノートの贅沢さを思い知らされる。

70年代、デクスター・ゴードンは北欧のスティープル・チェース・レーベルに大量に録音を残し、ハードバップの魅力を再認識させた。『サムシング・ディファレント』(Steeple Chase)はギターのフィリップ・カテリーンの参加が新鮮。『バウンシン・ウイズ・デックス』『ジ・アパートメント』(Steeple Chase)は、それぞれ《カタロニアン・ナイト》《アンティーブス》の熱演が聴き所。

1976年帰米したゴードンはコロンビアに吹き込みを開始、『ゴッサム・シティ』(Columbia)ではジョージ・ベンソンをサイドに従え、大物の貫禄を見せている。そして最後にご紹介するのが、50年代にワーデル・グレイと共演して話題となった「テナー・バトル」の再現で、70年代ヴァージョンのお相手はジョニー・グリフィン。吹きまくり大会なのに渋い味わいがあるのはさすが。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

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