今回からまた、私の書いた『ジャズ・レーベル完全入門』よりアルバムを選んだ、レーベル特集を再開する。再開第一弾のCBSコロンビアは、デッカ、RCAと並ぶ3大メジャー・レーベル。世界最初のジャズレコードである1917年『オリジナル・デキシー・ランド・ジャズ・バンド』がコロンビアで録音されたことからも、この会社の歴史、ジャズとのかかわりの深さがわかる。

ただ、会社が大きいだけに、ブルーノートやプレスティッジのように、リー・モーガンやジャッキー・マクリーンといった50年代の新人たちをいち早く発掘したような小回りは効かない。マイルス・デイヴィスにしても、プレスティッジで注目されたあと、ようやくコロンビアに移籍している。その代わり、ヴォーカルを含めた新旧の一流ジャズマンを網羅した幅広いセレクションは、やはりメジャーならではの豪華かさだ。

1曲目はコロンビア、ジャズ部門の看板ともいえるマイルス・デイヴィスの『フォア・アンド・モア』。まだ10代のトニー・ウイリアムスが叩き出す超高速ドラミングに、当時の一流ジャズマンが何をこしゃくなとばかりに呼応するスリルがたまらない。マイルスのアグレッシヴな一面が出た快演。そして、リヴァーサイド・レーベルによってファンに知られるところとなった孤高のピアニスト、セロニアス・モンクもコロンビアに移籍している。レーベルは変われど、ユニークさに変わりは無い。

トロンボーンという楽器に対する認識を変えたJ.J.ジョンソンも、楽器別人気投票ナンバーワンの常連。『ブルー・トロンボーン』は彼の親しみやすい面が出た傑作。一時ヨーロッパに移住していたデクスター・ゴードンが、70年代久しぶりのアメリカ録音をコロンビアに残している。『ゴッサム・シティ』は1980年に録音されたその中の1枚。

 マイルスのサイドマンとして名を上げたハービー・ハンコックも多くのアルバムをコロンビアから出しているが、『ダイレクト・ステップ』は日本で制作された作品。同じくマイルス門下のウエイン・ショーター、ジョー・ザヴィヌルが結成した双頭グループ、ウエザー・リポートも70年代コロンビア・レーベルを代表するスター・プレイヤーだ。

フリージャズの巨人として知られたオーネット・コールマンと専属契約を結んだりするのも、コロンビアの懐の深さを示すもので、『チャパカ組曲』は映画のサウンド・トラックとして作曲されたオーネットの大作。

日本ではそれほど評価されなかったが、デイヴ・ブルーベックのアメリカでの人気はたいしたものだった。超有名曲《テイク・ファイヴ》で知られたアルバム『タイム・アウト』は日本でも流行ったが、マニアはアナログ時代のB面を愛聴したりしたものだった。ここではそのB面から2曲を収録。

コロンビアの凄いところは、アール・ハインズなど、スイング時代に名をなした巨人たちの録音もきちんと行なっているところだ。死後発表されたクリフォード・ブラウン最後の録音は、彼のトランペッターとしてのずば抜けた才能を示した名演。『コンサート・バイ・ザ・シー』は、独特のスタイルから「ワン・アンド・オンリー」と評されたエロール・ガーナーの代表作。

ヴォーカルに眼を移せば、「マンハッタン・トランスファー」が手本としたお洒落なヴォーカル3人組「ランバート・ヘンドリクス・アンド・ロス」は、いかにもニューヨーク的。超大物ビリー・ホリディの最晩年の記録『レディ・イン・サテン』は聴き手の心にぐさりと刺さる絶唱だ。そして最後を締めくくるのは、これもピアノの巨人、バド・パウエルの晩年の傑作である。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

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