パシフィック・ジャズは、1952年に熱心なジャズ・ファンであるリチャード・ボックによってロサンゼルスに設立されたジャズレーベルだ。ロスという土地柄、ちょうどそのころ西海岸で隆盛を誇った白人ミュージシャンによる“ウェスト・コースト・ジャズ”が録音の中心となったが、中にはクリフォード・ブラウンやケニー・ドーハムの作品もあるので、今回はそうした珍しいアルバムもご紹介しよう。

『プレイボーイズ』は、チェット・ベイカーにアート・ペッパーという、ウェスト・コーストの2大スターが共演した、素晴らしいアルバムだ。聴き所は、ウェスト・コースト・ジャズの特長を生かした洒落た三管アレンジと、チェット、ペッパーのソロが実にうまい具合にブレンドされているところだろう。イースト・コーストの黒人ジャズに引けをとらないコクのある演奏だ。

続く『バド・シャンク・カルテット』は、いかにも白人ジャズらしい清楚な雰囲気が人気を呼んだアルバムで、シャンクの涼しげなフルートが聴き所。名曲《ネイチャー・ボーイ》が収録されているのもポイントだろう。

パシフィック・ジャズを代表するアルバムを1枚あげろと言われたら、やはり『ジェリー・マリガン・カルテット』が出てくるのではなかろうか。トランペットのチェット・ベイカーとバリトン・サックスのジェリー・マリガンが結成したピアノレス・カルテットは、そのユニークな楽器編成で注目を浴びた。

ふつうのジャズコンボでよく使われるアルト、あるいはテナー・サックスの代わりに、より音域の低いバリトン・サックスと、それと対比を成す高音楽器のトランペットを配したこのグループは、あえてピアノも外し、巧みなアレンジで評判を得た。このアルバムも聴き所はマリガンのアレンジの才能と、チェット、マリガンのソロの巧みな融合だろう。

パシフィック・ジャズは白人ジャズのイメージが強いが、西海岸を根拠地にしていたクリフォード・ブラウンの作品も録音している。あまり知られていないが『ジャズ・イモータル』はなかなか魅力的なアルバムだ。レーベルのせいか、ブラウンの洗練された側面が切り取られているような気もする。

同じ黒人ジャズでも、ケニー・ドーハムとジャッキー・マクリーンのコンビによる『インタ・サムシン』になると、これは完全にハードバップ色が強くなり、ブルーノートやプレスティッジの作品とほとんど見分けがつかない。

意外なところでは、典型的なエヴァンス派白人ピアニストであるクレア・フィッシャーがモロ・ハードバップを演奏している『サージング・アヘッド』だろう。冒頭のバップ・ナンバー《ビリース・バウンス》など、黒人パウエル派ピアニストを髣髴させるのりの良さである。

最後は、なんと言ってもパシフィック・ジャズの人気盤である『チェット・ベイカー・シングス』から極めつけ《マイ・ファニー・ヴァレンタイン》で締めくくりたい。中性的なチェットの歌声は不思議な魅力を持っている。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

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