プレスティッジは、ブルーノートと並んでジャズ黄金時代と言われた1950~60年代の名盤を数多く残している。しかし二つのレーベルの性格は微妙に違う。ブルーノートがリハーサルにもちゃんとギャラを払って、よりキチンとした作品を作ろうと努力したのに比べ、プレスティッジは悪く言えば大量生産、よく言えばドキュメンタリー的手法で生々しくジャズ・シーンを切り取った。

しかしそのやり方は成功した。理由は二つあって、まず1949年という比較的早い時期に設立されたため、若き日のマイルスをはじめ、多くの有能な新人ミュージシャンを他社に先んじて契約できたということ。次いで、レーベルの活動時期がジャズの黄金時代と一致していたという幸運がある。

プレスティッジ・レーベルはマイルス・デイヴィス、ジョン・コルトレーン、ソニー・ロリンズ、エリック・ドルフィーといったジャズの巨人たちの優れた録音を残した一方、ジャッキー・マクリーンに代表される、愛すべきハードバッパーたちの傑作アルバムも大量に制作している。

プレスティッジのマイルスといえば、たった2回のセッションで4枚もの優れたアルバムを作ってしまった『リラクシン』などing4部作が有名だが、それに先んじる1954年に録音された『バグス・グルーヴ』もプレスティッジならではの傑作だ。マイルスとモンクが喧嘩したというウワサが流れたこの“クリスマス・セッション”は、ハードバップの先駆けとしての貴重な記録だ。

記録といえば、ほとんどレギュラー・グループを持てなかったエリック・ドルフィー唯一の双頭コンボであるブッカー・リトルとのライヴ・アルバム『ファイヴ・スポット第1集』は、彼らの貴重な共演の記録であると同時に、ドルフィーの代表作である。そして、マイルス・グループでデビューしたコルトレーンが、ようやく自分のスタイルを確立させた記念碑的作品『ソウルトレーン』も、彼の初期の傑作として愛聴されている。

プレスティッジで一番知られているアルバムは、なんと言ってもソニー・ロリンズの『サキソフォン・コロッサス』だろう。ハードバップ絶頂期と言われた1956年に録音されたこの作品は、インプロヴァイザー、ロリンズの才能を余すところ伝えた名盤中の名盤だ。意外なところでは、クール派の白人テナー奏者スタン・ゲッツの『スタン・ゲッツ・カルテット』がある。しかし、プレスティッジはリー・コニッツ、レニー・トリスターノといったクール・ジャズの代表的ミュージシャンをいち早く録音しており、このレーベルの幅の広さを示した作品と言ってよいだろう。

そして、ジャッキー・マクリーン初期の傑作『4,5、&6』、マクリーンと並ぶパーカー派アルト奏者、フィル・ウッズの『ウッドロアー』、プレスティッジのハウス・ピアニストといってもよいマル・ウォルドロン『マル1』などは、まさにジャズ喫茶の定番アルバムである。珍しいのは、巨人バド・パウエル唯一のプレスティッジ吹込み『スティット、パウエル、J.J.』で、これは彼の代表作といってよい素晴らしい演奏だ。最後に収録したレイ・ブライアントの『レイ・ブライアント・トリオ』は、名曲《ゴールデン・イヤリング》の魅力で多くのファンに親しまれている。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

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