アトランティック・レコードは、1947年にアーメット・アーティガン、ハーブ・エイブラムソンの二人のレコード・コレクターによって設立された。当初、黒人購買層を狙ったR&Bレーベルとしてスタートし、この部門ではアレサ・フランクリン、オーティス・レディングなど、名だたる大物スターをレコーディングしている。

アトランティックがジャズに力を入れだしたのは少し遅れ、1955年アーメットの兄弟であるネスヒ・アーティガンがプロデューサーとして参加してからで、マイルス、ロリンズなど人気ミュージシャンは既にブルーノートやプレスティッジに押さえられていた。そのため、オーネット・コールマンなど先鋭的な新人ミュージシャンを積極的にレコーディングすることとなった。この後発レーベルゆえの革新性と、後述するバラエティに富んだ人選がアトランティックの特徴と言えるだろう。

マイルスのサイドマンとしてデビューしたコルトレーンは、独立した後、アトランティック・レーベルと契約することによって、ジャズマンとしての新たな一歩を踏み出した。『ジャイアント・ステップス』はまさに彼の記念碑的作品で、コード進行に基づくアドリブを極限まで推し進めることによって、新時代のミュージシャンとしてのスタンスを確立させたのだった。

チャールス・ミンガスは自主レーベルでの吹き込みを積極的に行っていたが、『直立猿人』で一般的な人気を得たと言ってよいだろう。たった2管の編成でこれほど濃密なサウンドを構築できるのは、ミンガスを置いていない。ジャズに「怒り」の感情を持ち込んだことでも画期的だった。

アトランティックの面白いところは、R&Bからスタートしたにもかかわらず、それとは対照的な“クール派白人ジャズ”も積極的に紹介しているところだ。盲目の白人ピアニスト、レニー・トリスターノは、40年代から活躍していながら孤高のミュージシャンとしてほとんどアルバムを残していない。彼の数少ないリーダー作『レニー・トリスターノ』には“トリスターノ楽派”の特徴とされる、うねうねとフレーズが連なる“ホリゾンタル・スタイル”や、テープ操作を施したトラックなど実験的な試みが記録されている。

そして彼の高弟として知られたリー・コニッツ、ウォーン・マーシュが共演した『リー・コニッツ・ウィズ・ウォーン・マーシュ』では、トリスターノ派の特徴は残しつつも先生がいない分くつろいだ姿勢を見せているのが面白い。

50年代末に“フリー・ジャズ”の旗手としてスポットを浴びたオーネット・コールマンは、『ジャズ来るべきもの』でジャズ界の話題を独占した。今聴けばさほど変わった音楽には聴こえないのだけど、それはジャズの歴史がオーネットの示した方向へと進化したからだろう。

アトランティックの功績の一つに、ローランド・カークを積極的にレコーディングしたことが挙げられる。一昔前は「ゲテモノ」などと言われた彼の音楽が正当に評価されるにあたって、このレーベルの果たした役割は大きい。

最後に、今でこそ「M.J.Q.」はオーソドックスなグループだったと見なされているけれど、当時はクラシック的要素を導入するなど、かなり実験的な音楽と見なされていたことを忘れてはいけない。その「M.J.Q.」のジョン・ルイスがオーネットをニューヨークのシーンに紹介したことも、ファンは覚えておくべきだろう。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

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