スティープル・チェース・レーベルは1972年にデンマークのジャズ研究家、ニールス・ウインターによって設立された。彼はコペンハーゲンのジャズクラブ「カフェ・モンマルトル」に入り浸り、ジャッキー・マクリーンなど出演するジャズマンをレコーディングしていたが、これが予想外の好評を得たことがレーベル設立のきっかけとなった。

このレーベルの特徴は、その頃アメリカのジャズシーンが活況を失っていためヨーロッパに移住していたアメリカ人ミュージシャンの録音が主軸で、彼らの活躍が70年代“ハードバップ・リバイバル”の原動力となった。マクリーン盤が第一弾であることからもわかるように、オーソドックスなハードバッパーの快演が多い。

このレーベルは新録音と同時に、過去の音源も同時に発売した。『ショート・ストーリー』は1963年に「カフェ・モンマルトル」を訪れたケニー・ドーハムのライブ盤で、彼の隠れ名盤として知られる傑作。サイドのピアニスト、テテ・モントリューの快演も特筆ものだ。

『サムシング・ディフィレント』はヨーロッパ移住組みの大物、デクスター・ゴードンの代表作で、サイドのギタリスト、フィリップ・カテリーンの参加が70年代ハードバップらしい斬新感を出している。スティープル・チェース設立のきっかけとなったジャッキー・マクリーンが、息子のルネ・マクリーンたちと共演した『ニュー・ヨーク・コーリング』は、彼の新境地を表した勢いのある演奏。ジョニー・グリフィンもヨーロッパ移住組で、このアルバムもマクリーン盤とともに初期スティープルの人気を高めるのに一役買った。同じく北欧在住のデューク・ジョーダンの『フライト・トゥ・デンマーク』は、彼の傑作《危険な関係のブルース》のヒットで、このレーベルの経済的基礎を固めた代表作。

このレーベルのもうひとつの特徴に、ピアノの名盤が多いことがあげられる。これも日本での人気の理由だろう。大ベテラン、メリー・ルウ・ウイリアムスがしみじみと奏でる《ダット・デア》はヨーロッパ人には出せない味。ホレス・パーランの名演《グッドバイ・ポークパイ・ハット》の黒々とした佇まいは言うまでも無い。ケニー・ドリューも古くからヨーロッパ在住で、マクリーン、グリフィンらのアルバムとともに『デュオ』はこのレーベルのイメージを高めた。演奏スタイルがアメリカ時代と変わっていることもファンの話題を呼んだ。

通好みのハードバッパー、クリフ・ジョーダンが70年代になっても健在であることを示したのが『ファーム・ルーツ』だ。録音のせいかテナーの音色に艶が乗っている。ギターの名手、ジミー・レイニーが息子のダグ・レイニーと共演した『ストールン・モーメンツ』は親子の交流がほほえましい。レニー・トリスターノの高弟として鳴らしたリー・コニッツが、ベースのレッド・ミッチェルとデュオでコール・ポーターの名曲を取り上げた『アイ・コンセントレイト・オン・ユー』は、淡々とした中にもコニッツならではの味わいが聴き所。

ヨーロッパ在住ミュージシャンの大先輩、バド・パウエルのレコーディングを大量発掘したのもスティープル・チェースの功績だ。信じられないほどゆっくりとしたテンポで弾く《アイ・リメンバー・クリフォード》は、晩年のパウエルが到達した境地を表した絶品。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

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