ソニー・クラークは日本のジャズファンの間で愛聴されてきたピアニストだ。それはジャズ喫茶にたむろす熱狂的なジャズフリークたちによって語り継がれてきたジャズ伝説にも現れている。1960年代のジャズ喫茶で『クール・ストラッティン』(Blue Note)がかかると、お客たちがアート・ファーマーとジャッキー・マクリーンによって演奏されるタイトル曲のテーマを合唱したそうだ。熱い時代だったのだ。
ジャズファンなら、タイトスカートを履いた女性の足元が印象的なジャケットに見覚えがあるだろう。「いーぐる」でも、このジャズ喫茶の象徴のようなアルバムを店の入り口に飾っている。冒頭に収録した2曲《クール・ストラッティン》と《ブルー・マイナー》はこのアルバムのアナログ時代A面に収録されていた。
『マイ・コンセプション』(Blue Note)は未発表曲を収録したアルバムだが、なんで録音当事お蔵入りになったのか不思議なほど出来がよい。メンバーもドナルド・バードにハンク・モブレイの強力なハードバップ・コンビだから、ファンなら出てくる音も想像がつくだろう。
『リーピン・アンド・ローピン』(Blue Note)のフロントは曲目によって違い、最初に収録した《サムシン・スペシャル》がトミー・タレンタインのトランペットにチャーリー・ラウズのテナーで、ラウズの黒々としたテナーがこのアルバムの聴き所だ。そして2曲目《ディープ・イン・ア・ドリーム》はアイク・ケベックのテナーのみのワンホーンで、これもケベックのソフトなサウンドが魅力的。
そしてハードバップ・ピアノ・トリオの決定版とも言うべきブルーノート盤『ソニー・クラーク・トリオ』は《朝日のように爽やかに》など、スタンダード・ナンバーの極め付きがずらりと並んでいる。ピアノの鍵盤をモチーフにしたジャケットとともに、これもクラークの代表作としてファンから親しまれている。
ソニー・クラークはいろいろなミュージシャンと共演しているが『ソニーズ・クリブ』(Blue Note)はハードバップ期のジョン・コルトレーンを中心に、ドナルド・バードのトランペットと、カーティス・フラーのトロンボーンをくわえた豪華な3管セクステットだ。演奏曲目も《ウイズ・ア・ソング・イン・マイ・ハート》《スピーク・ロウ》と名曲が並んでいる。それにしても、さまざまなタイプのフロント陣と組んでも、クラークのピアノは重心の下がった独特のタッチだけでその特徴が聴き取れる。
また、ソニー・クラークはサイドマンとしても優れており、長らく熱狂的ファンから待ち望まれていた、グラント・グリーンのサイドを務めたセッションが『ウイズ・ソニー・クラーク第1集』(Blue Note)で、これも録音時には発売されず、だいぶ経ってから未発表音源集として出されたもの。快適なノリの《エアジン》から始まって、ジャズ特有の気だるさが心地よい《イッツ・エイント・ネセサリー・ソー》へと流れる展開がマニア心をくすぐる名演だ。
そして最後を飾るのは、かつて“幻の名盤”として珍重された、タイム盤『ソニー・クラーク・トリオ』。こちらはすべてクラークのオリジナル曲で、それだけにクラーク特有の哀愁を帯びたピアノのタッチが冴える。若くして亡くなってしまったクラークだが、多くの名盤に残されたクラークの足跡は熱心なファンによって現代にまで聴き継がれている。
文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)
USEN音楽配信サービス 「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」
東京・四谷にある老舗ジャズ喫茶いーぐるのスピーカーから流れる音をそのままに、店主でありジャズ評論家としても著名な後藤雅洋自身が選ぶ硬派なジャズをお届けしているUSENの音楽配信サービス「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」。毎夜22:00~24:00のコーナー「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」は、ビギナーからマニアまでが楽しめるテーマ設定でジャズの魅力をお届けしている。